【絵本レビュー】 『ロバのシルベスターとまほうの小石』
作者/絵:ウィリアム・スタイグ
訳:せたていじ
出版社:評論社
発行日:1975年10月
『ロバのシルベスターとまほうの小石』のあらすじ:
ロバのシルベスターはとうさん、かあさんと一緒に住んでいました。かわった形や色の石を集めるのが楽しみだったシルベスターはある日、願ったことがかなう魔法の小石を手に入れます。大喜びで何を願おうかと考えていると、目の前に腹をすかせたライオンが。そこでシルベスターはあろうことか「ぼくはいわになりたい」と願い・・・、岩になってしまいます。さあ、シルベスターは元のロバに戻ることができるのでしょうか。
『ロバのシルベスターとまほうの小石』を読んだ感想:
魔法の力があるかどうかはともかく、石の癒し効果には私も時々お世話になっています。日本を出る時、大学の同級生が「〇〇のことを守ってくれる石だよ」と言ってオニキスのピアスをくれました。彼女は当時から熊野古道に興味を持っていたり、石の持つ効果などにも詳しかったりなど、スピリチュアルな道を歩んでいました。私は石についてはさっぱり石についてはさっぱりだったのですが、初めての海外生活ということでいつもそのピアスを身につけていました。今までなんとかやれてきたので、あの石が守ってくれていたのかもしれませんね。
考えてみれば私の石との出会いはさらに遡ります。小学校の二年下にSちゃんという女の子がいました。Sちゃんはとても背が高く、二歳上の私と身長はほぼ同じでした(ちなみに私はクラスの女子の中で二番目に背が高かった)。水泳もうまかったので、試合に出る特別練習にも一緒に参加していて話すようになりました。ある日Sちゃんのお母さんが話しかけてきました。
「いつもありがとう。Sはねあなたに憧れているのよ」
そんなことを言われたのは初めてだったのでびっくりしましたが、私は「誰かに憧れる」という経験がまだなかったので、ちょっと不思議な気がしたのを覚えています。
家が割と近いことも判明し、何度か一緒に遊びました。初めて彼女の家に行った時、Sちゃんは箱いっぱいの石を見せてくれました。箱には小さな仕切りがあって、同じ石ごとに分類されています。一つずつ取り出して、「これはキャッツアイ、これはローズクォーツ」と名前を教えてくれますが、私には何が何だかわらずチンプンカンプンでした。おやつを持ってきたSちゃんのお母さんが言いました、
「これはSの宝物だから、滅多に他人に触らせないのよ」
子供ながらにプレッシャーを感じてしまいました。家があまりにもハイソな感じがしたのもあって、私は早く帰りたいな、とすら思っていました。するとSちゃんが、「どれが好き?」と言って石の入った箱を私の方に向けてそっと押しました。その日の鉱物学をほぼ聞いていなかった私は焦りました。聞いていなかったことがバレたらSちゃんががっかりするでしょう。私は唯一覚えていた名前を言いました。
「キャッツアイ」
するとSちゃんは嬉しそうに一つ摘むとティッシュの上に置きました。それから今度はピンクの石を取って、それもティッシュの上に置くと私の方に押し出してきました。Sちゃんのお母さんが言いました。
「あら、〇〇ちゃんにあげるの?」
今思い返してみると、Sちゃんはあまりしゃべらなかったんですね。彼女の話している様子が思い出せませんが、Sちゃんのお母さんがよく代弁していたように思います。それはさておき、私はSちゃんの宝物を分けてもらったことに恐縮しつつ、受け取りました。家に帰って父からもらったフィルムのケースに移し替え、今も実家にあるはずです。その時は石のパワーについては考えなかったし、Sちゃん自身も知らなかったともいますが、自分が大切にしていたものを分けてくれたということへの敬意と重要さは、きちんと理解できていました。
そのあと1、2回遊びましたが、私は6年生になり中学受験の準備や週五回のスイミングプールが忙しすぎて、Sちゃんとは距離ができてしまいました。卒業してからも私は母校に色々と関わっていましたが、そこでも彼女を見かけることはなかったです。元気にしているといいな、とキャッツアイを見かけるたびにSちゃんを思い出します。
『ロバのシルベスターとまほうの小石』の作者紹介:
ウィリアム・スタイグ(William Steig)
1907年、ニューヨーク生まれ。芸術家一家に育つが、大学時代は、全米水球チームを作ったほどのスポーツマンでもある。また、ナショナル・アカデミー・オブ・デザインの一員でもあった。1930年、初めて漫画が雑誌“The New Yorker”に載ると読者の反響が大きく、連載となった。それ以降、漫画を描きつづける。1968年、60歳を機に“子どもの本”に力を注ぎ、3作目の絵本“Sylvester and the Magic Pebble”―日本語版は『ロバのシルベスターとまほうの小石』(評論社)―で1970年度のコルデコット賞を受賞する。2003年逝去。
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