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【絵本レビュー】 『あいうえおうた』
作者:谷川俊太郎
絵:降矢なな
出版社:福音館書店
発行日:1999年2月
『あいうえおうた』のあらすじ:
3匹のネコの大きなあくびと「あいうえおきろ おえういあさだ おおきなあくび あいうえお」、2匹のワニがせんべいを食べながらテレビを鑑賞「さしすせそっと そせすしさるが せんべいぬすむ さしすせそ」、ウシが泣いていると「なにぬねのうし のねぬになけば ねばねばよだれ なにぬねの」……いろんな動物が登場するリズミカルな詩の絵本。
『あいうえおうた』を読んだ感想:
降矢ななさんの絵が谷川俊太郎さんの詩にとても良く合っているなあと、見とれてしまえる絵本です。普段の生活からちょっとマインドエスケープしたい方にオススメ。「絵本見ようか」と子供を誘って四次元にトリップしていたのは、私でした。
子供の時の私には詩心が全くありませんでした。今でも入り込める詩とそうでない詩がはっきり分かれてしまいます。入り込めないものは、読んでいてもなんだか宇宙語を見ているようで、全く共感できないのです。
二年生の時でした。先生が大きな声で言いました。
「〇〇がいい詩を書いたぞ」
そうしてMくんを前に呼びました。Mくんはクラスでもそう目立つ存在ではありませんでした。私の中の記憶では、(失礼きわまりないのですが)「前ならえでいつも手を腰に当ててる子」くらいの印象でした。そんなMくんがみんなの前にノートを持って立ちました。そして、子供にしてはちょっと低めの声で読み始めました。
にわにさざんかがさきました
あめにうたれて ちりました
ゆきにふられて ちりました
.....
はっきり覚えていないのですが、このような感じの詩でした。八歳の私は「さざんか」なんて知りませんでした。詩を読むMくんの声だったのか、詩自体だったのか、何かが私に訴えかけました。私は顔を上げてノートを顔の前にあげて詩を読んでいるMくんを見ていました。私の頭の中には、雨を受けて、雪を受けて花びらを落としていく(空想の)さざんかの花が鮮やかに見えていました。
その後、国語の授業や自分の趣味で色々な詩を読みましたが、Mくんの詩ほど心に届いたものはありません。三十年以上経った今もこうして私の心に残っているのです。Mくんはこの詩のことを覚えているのだろうか。時々そんなことを考えて一人笑っています。あの時の私の何に響いたのか、時間を逆戻りできたら聞いてみたいと思います。
谷川俊太郎さんの詩も大好きなんですよ。「朝のリレー」なんて最高です。でもね、申し訳ないけれど、Mくんの「さざんか」には敵わないんです。
そんなことを降矢さんの絵を見ながら考えて、やっぱり一人で笑ってしまったのでした。
『あいうえおうた』の作者紹介:
谷川俊太郎
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。
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