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【絵本レビュー】 『むらの英雄(エチオピアのむかしばなし)』

作者:わたなべしげお
絵:にしむらしげお
出版社:瑞雲舎
発行日:2013年4月

『むらの英雄(エチオピアのむかしばなし)』のあらすじ:

昔、アディ・ニハァスという村の12人の男達が、粉をひいてもらうために、マイ・エデガという町へ行った。帰り道、一人が仲間を数えてみたら、なんと11人しかいない!いなくなった一人とは…。読み聞かせに楽しいエチオピアの昔話。

『むらの英雄(エチオピアのむかしばなし)』を読んだ感想:

「とても間の抜けた人たちのお話です」と紹介され、絶対読みたいと思いました。うちの4歳児にはまだ間抜け加減がわからないようですが、私は読みながら頭の中で呆れてため息をつくやら、目を剥くやら。。。

そして最後は子供がスバリと真実を指摘し、あ〜よかったよかったとなるわけですが、やはりここでも子供か、と思ったのは私だけでしょうか。『はだかのおうさま』も先日読んだ『ガラスのなかのクジラ』もそうでしたが、他にもきっとあることでしょう。子供ってフィルターがないのでズバッと核心を突いてくるんですよね。ときに、それが故に傷つくこともあるのですが、よく考えると間違ったことを言っているわけではない。意地悪で言っているわけでもない。みたことを見たままに口に出しているのですが、一体私達はいつからそれをしなくなってしまったんでしょう。

私たちの頭の中には思っていることがたくさんあるのに、口にすることはずっと少ないように思います。旦那はコロナのワクチンを打つと決まった日から急に「身体を洗浄する」とかでメディテーションをしたり、一年もやっていなかった(コロナで教室がなかったのですが)ヨガを急に始めたり、腸を活性化するためになんとか菌を飲んだりし始めました。身体が綺麗ならワクチンを打っても副作用がない、というのが彼の理論なのですが、今までの怠惰な生活を急に変えただけで意味があるのですかとか、ストレスが関係するって聞いていますけどとか、私の頭の中には色々と言いたいことがあるのに、「これを言ったら怒るよな」と状況を先読みして言わないでいるのです。

言ったらどうなるんでしょう。言ったらスッキリするのでしょうか。「バッカじゃないの」とひとこと言ったら。。。ということはこの事例に限らずたくさんあるのです。心の葛藤にうずうずしながら、「すごい呼吸法があるんだ。これをすると免疫力が高まるんだぜ」と興奮しながら教えてくれる旦那に、「へえ、すごいね」とそれなりに感心したふりをして見せている私に、またもフツフツ。

そんな中、息子と近所のうちに小包を届けに行きました。その人は二年ほど前事故で足を失いました。松葉杖にもだいぶ慣れてきたようですが、それでもうちはその人の家とは別棟でしかも三階なので、預かっていた小包を取りに来てもらうのはちょっと大変です。それで持って行ってあげることにしたのですが、息子も来たがったので箱を持ってもらいました。呼び鈴を押してもドアはなかなか開かず、息子は「きっといないんだね」と言って帰ろうとします。私はドアの奥の方からずるずると足を擦る音がかすかに聞こえたので、「今来るからちょっと待とう」と息子を待たせました。

ようやくドアが開くと、その人は義足なしでした。家の中だからでしょうね。ただ、ズボンも履いていなかったので、ちょっと目のやり場に困るぞと思っていたら、
「ママ!あしがいっぽんしかないよ!」
「みて、みて!あしが!」
(そうだよなあ。気になるよなあ)
日本語だったので、息子が言っていることははっきりとはわからなかったでしょうが、息子は明らかに足があったはずの空間を見ていたはずなので、その方にもなんとなく察しはついたのではないかと思います。

私は息子が「あし、あし」と焦った声を上げる中、箱を家の中の邪魔にならないところに置いて、その人がのんびりと「一体何が入っているのか見当もつかないよ」というのに、(明らかに箱に薬品と相手あるでしょうが)と思いつつ「なんでしょうねえ」と相槌を打ち、息子の頭を出口の方にひねりながら退出しました。

冷や汗をかきながら階段を降りる私に息子は質問責めを浴びせました。
「どうして足がないの?」
「痛いのかな?」
「どうして杖をついてるの?」
もっともな質問です。私だって実際のところ同じことを考えています。階段を下りながら思ったのは、「どうして私は、足がないことに触れてはいけないと決めつけてしまったのだろう」ということでした。そして、もし私が彼の立場だったら、と考え始めたのです。

私だったら、見えないふりをするよりは聞いてもらったほうがいいかもしれない。不思議に思っている子供を、まるで行儀が悪い子みたいに扱っていかにも普通に振る舞うお母さんをたしなめたくなるかもしれない。「聞いては失礼」なんて私の勝手な判断なのではないか、と思えてきたのです。ちょっと反省。

子供はフィルターがないのに、私たちがフィルター越しに見るようにさせてしまっているのかもしれませんね。いかんいかん。

『むらの英雄(エチオピアのむかしばなし)』の作者紹介:

わたなべしげお(渡辺茂男)
1928年静岡県生まれ。慶應義塾大学卒業。アメリカのウェスタンリザーブ大学大学院をおえ、ニューヨーク公共図書館児童部に勤務後、慶應義塾大学文学部図書館学科教授を経て、フリーな立場で子どもの本の仕事に専念している。「もりのへなそうる」「とらっくとらっくとらっく」(以上福音館書店刊)などの創作作品の他、訳書多数。


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