【絵本レビュー】 『ペンちゃんギンちゃん おおきいのをつりたいね』
作者/絵:宮西達也
出版社:ポプラ社
発行日:2005年4月
『ペンちゃんギンちゃん おおきいのをつりたいね』のあらすじ:
ペンギンのペンちゃんとギンちゃんはとってもなかよし。ある日、ふたりがつりに行くとつれるのは、へんてこりんなものばかり……。
『ペンちゃんギンちゃん おおきいのをつりたいね』を読んだ感想:
「逃がした魚は大きい」とはよく言ったものですね。ペンちゃんとギンちゃんもかなり大物を逃したようですよ。
私が初めて釣りをしたのは、小学生だった時の夏休み。予約してあった山の旅館が手違いで部屋が取れておらず、なんとか見つけた別の旅館の部屋の用意ができるまでの時間つぶしに父とそばの川でしたのが釣りでした。
父はどこからか釣竿を二本調達してきて、近くの小さなスーパーで魚肉ソーセージを買いました。私自身魚肉ソーセージを食べたことがなかったので、食べたいとねだったのですが、「魚の餌だから」と却下されました。子供の私には魚とソーセージとの接点が見つからず、頭の中で一生懸命魚味のソーセージを想像しようとしていたのを覚えています。
さてさて、私たちは川のガードレール横、水がじゃんじゃん出ている排水溝の真上を釣りスポットとすることにしました。父曰く、旅館から集めて出てきている水には食べ物が含まれているから魚が寄ってくるということでしたが、今書きながら考えるとそんなわけありませんよね。水は臭くなかったし、出てくる水には何もゴミらしきものはなく、排水だったら川があんなに綺麗だったわけもないですよね。しかも釣った魚食べましたよ!いくら彼自身が魚を食べないからと言ったって、娘にドブから釣った魚は食べさせないですよね。う〜む。またしても父の適当な嘘に騙されていたようです。
釣りに戻りますね。まず父は針に魚肉ソーセージのかけらをつけて、水が流れ落ちているあたりに糸を垂れ、水の流れるままに糸を泳がせました。五、六メートル流れると竿を上げ、また排水溝の下あたりに落とします。数回流したところで竿がしなりました。私はドキッとして身体に力が入ります。父は竿の先を下げたり上げたりしながら少しずつリールを巻いていきました。
不意に銀色の小さな魚が右に左に体を振りながら皆な藻から飛び出してきました。「鮎だ」と父は言いました。あんなに力強く糸を引いていたのがこんなに小さな魚だと知って、私はちょっとびっくりしました。感覚的にはペンちゃんとギンちゃん同様、ものすごい大物が釣れそうな感じだったのです。でも実際の魚のサイズを見てがっかりはしませんでした。それよりも、こんな小さな魚にあんな力があるということに魅了された、と言ったほうがいいかもしれません。まさに「水を得た魚」ですね。水中にいる魚に私たちはかないっこありません。
私たちはそれからさらに数匹釣って旅館に戻りました。チェックインとともに釣りたての魚も来たので、女将さんも愉快そうに笑っていました。
「これ、ご夕食にお出ししますね。」と言って、奥に持っていきました。
部屋に運ばれてきた夕飯の真ん中に横たわっていたのは、間違いなく私たちが釣ったあの魚。塩焼きにされて波型にうねるその姿は、川の中で父と戦っていたあの勇姿をとどめているかのようでした。自分たちで釣った魚は美味しかったですよ。あの引き合いの戦いも含め全てのエネルギーをいただく、そんな味だったように思います。
『ペンちゃんギンちゃん おおきいのをつりたいね』の作者紹介:
宮西達也
1956年静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。「きょうはなんてうんがいいんだろう」(鈴木出版刊)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。「パパはウルトラセブン」(学研刊)などでけんぶち絵本の里大賞を受賞。「おとうさんはウルトラマン」(学研刊)などの作品がある。