【絵本レビュー】 『ふたりはまちのおんがくか』
作者/絵:ガブリエル・バンサン
訳:もりひさし
出版社:BL出版
発行日:1998年12月
『ふたりはまちのおんがくか』のあらすじ:
貧しいながらも楽しく暮らしている、くまのアーネストおじさんと子ねずのセレスティーヌですが、屋根が雨漏りして、なんとか直さなければなりません。お金に余裕がないアーネストは困ってしまいます。その姿を見たセレスティーヌは楽しい提案をします。
『ふたりはまちのおんがくか』を読んだ感想:
とても優しいタッチの絵は、一度見たら必ず印象に残るでしょう。
人前でパフォーマンスをするのってとてもドキドキします。「誰も立ち止まってくれなかったらどうしよう」そんな心配は何度しても消えません。場所を選ぶ時からドキドキします。持っているものを見れば明らかにパフォーマーだとわかるでしょうから、なんとなく遠くから見ている気配を感じます。落ち着いているフリをして道具を出します。私の場合は、紙、筆、墨を入れる小さなボウルなど。筆だけでもかなり珍しですから、通る人がチラチラと見ているのは知っています。さあいよいよ始めるとしましょう。
一番最初に書き始めるときは、大抵誰も周りにいません。ジョギングをする人がさっさと横を駆け抜けて行ったりします。
あしが がくがくするよ、セレスティーヌ
アーネストおじさんが言いますが、まさにその通りなのです。リラックスさせるために、手を閉じたり開いたりします。それから周囲を自分を引き剥がしてみます。筆をとって書き始めます。紙に書くときもあります。水だけを使って床に書くときもあります。最初の行を書きます。次の行をどこから書くか確認するフリをして、人が集まっているか見てみます。まだ誰もいないようです。
「さっさと片して帰りたい」
まだ始めたばかりなのにそんなことを考え始めます。
「どうせ誰も立ち止まらないよ」
心の中ではふてくされています。
「だいたい、私の考えじゃなかったし。うまくいきゃしないってわかってたよ。」
週末のフリマがある公園は人出が多いです。公園ではバスケをしたり、音楽をかけて踊っている人もいるし、路上マーケットをしているアーティスト達もいます。
「見てもらえるだけでいいんだから、やって見たらいいよ。」
という旦那の言葉を、半信半疑ながらも微かな希望を持ってやってきた私ですが、すでに彼を責め始めています。まあとりあえず、どこかをぶらついている旦那が戻ってくるまで続けるしかないのです。
半分いじけた気持でしていると、目の前に足がありました。見上げると男の人が一人立っています。
「何を書いてるの?」
一瞬「仕事の邪魔だなあ」と思ってしまった自分に失笑してしまいましたが、自分が書家であること、箱に入っている葉っぱに書かれた言葉たちを自由に持って行っていいことを説明しました。
男性は嬉しそうに数枚の葉っぱを取ると、五ユーロくれました。
「これはタダですよ」
と言ったら、笑って、
「知ってるよ。でも受け取ってもらいたいから。」
そう言って行ってしまいました。
予期せぬ形での投げ銭にちょっと戸惑いましたが、そう悪い気もしませんでした。そのあとも数人が立ち止まり、書を書いた葉っぱを持って行ってくれました。アーネストとセレスティーヌのようにたくさん稼ぐことはありませんでしたが、私が怖がっている以上に、見ている人たちも私に近づくのを怖がっているということがわかったのです。そしてそれがわかったら、私はなんだかホッとして、残りの午後を楽しんで書くことができました。
五ユーロはどうしたかって?
旦那と息子と三人でアイスクリームを食べましたよ。
『ふたりはまちのおんがくか』の作者紹介:
ガブリエル・バンサン(Gabrielle Vincent)
1928年、ベルギーのブリュッセル生まれ。美術学校で絵画を学び、以後長期にわたりデッサンに専念した。木炭デッサンの絵本「たまご」、インクによるデッサン絵本の大作「セレスティーヌ―アーネストとの出会い」(BL出版)でいずれもポローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。鉛筆画の大作「天国はおおさわぎ―天使セラフィーノの冒険」「マリオネット」(BL出版)などの作品がある。2000年9月没。