【絵本レビュー】 『ぼくとくまさん』
作者/絵:ユリ・シュルヴィッツ
訳:さくまゆみこ
出版社:あすなろ書房
発行日:2005年5月
『ぼくとくまさん』のあらすじ:
おとこのこの部屋にはなんでもあります。 じぶんだけのおひさま じぶんだけのおつきさま おもちゃのへいたい きしゃも・・・あれ、いちばんたいせつなあのこがいない!どこ?
やっとみつけたともだちのくまさん。おとこのこはくまさんを王様、自分は騎士になりずーっとずーっと友達だと誓います。
『ぼくとくまさん』を読んだ感想:
24歳でニューヨークにやってきたシュルヴィッツは、挿絵の仕事をしたいという希望を持って出版社を回ります。このとき、ある出版社の有名な編集者から「今は挿絵の仕事はないので自分で絵本をつくってみたらどうか」と言われました。シュルヴィッツはまだ自分の英語に自信がなかったので不安でいっぱいでしたが、あれこれと試行錯誤を重ねて、ついにできあがったのが、デビュー作のこの絵本です。
『ぼくとくまさん』より「この絵本について思うこと」さくまゆみこ
なんだかとても貴重な一冊を手にした気がしました。翻訳したさくまゆみこさんによる、最後の「この絵本について思うこと」も読んでみると、このお話がもっと好きになると思います。
テディベアって、どの子供も一度は手にするぬいぐるみなのでしょうか。私もひとり持っていました。「いっこ」ではなく「ひとり」とあえて呼ばせてもらいたいのは、彼が色々な面で私を支えてくれたからです。
私のくまさんは、母に連れられてうちにやってきました。水色のギンガムチェックのシャツとグレーのズボンを履いて、行儀よくやってきました。母が仕事の同僚からもらってきたものでした。小学校低学年だった私の膝に届くくらいの大きさで、抱きがいがありました。
私は持っていたぬいぐるみに名前をつけるのが習慣だったので、早速「だい」と命名しました。もしかしたら「だいすけ」だったのかもしれません。でもその後私はずっと「だい」と読んでいました。
だいとは遊ぶというより、いつも私の隣にいる存在で、特に寝るときはいつも一緒でした。嫌なことがあったときはもちろん、その日一日あったことをよく聞いてもらっていました。だいは私が何を言っても批判することなく、なんでも聞いてくれました。不安な時もその茶色い毛の中に顔を埋めると、なんだかホッとして、全てが大丈夫な気がしたものです。
六年生の時、急に空咳が止まらなくなり小児科へ行きました。先生の判断は「埃のアレルギー」。父は帰ってくるなりゴミ袋を出してきて、全てのぬいぐるみをそこへ入れるよう言ってきました。私はみんながいなくなってしまうことに耐えられず、数人だけ残してもらえるよう頼みました。父は嫌がりましたが、一緒に寝ないという理由で許可してもらいました。だいはもちろん残りました。だいがいない生活なんて考えられなかったのです。
中学、高校へと上がり、私がぬいぐるみと遊ぶ時間はほぼゼロになりましたが、それでもだいは部屋に居続けました。ズボンがなくなり、シャツもどこかへ行ってしまいましたが、そんなことはどうでもいいことでした。朝起きたらソファにいるだいに「おはよう」といい、家を出る前には「行ってくるね」、帰ってきたら「ただいま」と言い続けました。黙っていくのはなんだか申し訳ない気がしたのです。
その頃には、水泳の試合の前に緊張しすぎた時とか、入試の面接の前などにだいを思い浮かべながら「全てうまくいきますように」と心の中で言っていました。そうすると不思議と落ち着いたのです。結果がいつも思い通りに行くことは残念ながらありませんでしたが、緊張しすぎて取り乱すということはありませんでした。すごくあがり症だったんです。
日本を出る時、だいは連れて来ませんでした。でも出る前に状況を説明したことは覚えています。日本を出てからもだいは私の心の中にいます。心配事があった時、ピンチが訪れた時にだいにお願いしたことも何度もあります。いい歳して、と思うかもしれませんが、いつのまにかだいは私のソウルメイトになっていました。だい自身にはもう二十年近く会っていないのに、不思議ですよね。
だいはまだうちにいるのでしょうか。なんでも捨てたがる母のことですから、もう捨ててしまったかもしれません。でももしまだううちにいたら、息子に紹介してあげようかなと思います。あんまりぬいぐるみに興味のない彼ですが、だいなら友達になれるかもしれません。
みなさんのくまさんは、どんなくまさんですか。
『ぼくとくまさん』の作者紹介:
ユリ・シュルヴィッツ(Uri Shulevitz)
1935年ポーランド ワルシャワ生まれ。1959年アメリカに渡り、2年間ブルックリンの絵画学校で学ぶ。「空とぶ船と世界一のばか」(岩波書店刊)でコルデコット賞受賞。他に「あめのひ」(福音館書店刊)などの作品がある。東洋の文芸・美術にも造詣が深く、この「よあけ」のモチーフは、唐の詩人宗元の詩「漁翁」によっている。