【絵本レビュー】 『心をビンにとじこめて』
作者:オリヴァー・ジェファーズ
絵:三辺律子
出版社:あすなろ書房
発行日:2010年2月
『心をビンにとじこめて』のあらすじ:
つらい気持ち、悲しい気持ちは、みんなビンの中にしまっておきましょう。
これで心は安全。もう傷つくことはない、そう思っていたけれど・・・。
『心をビンにとじこめて』を読んだ感想:
先日友人が息子にこの本をプレゼントしてくれました。「叔母」と自称する彼女は、時々息子にサプライズプレゼントをしてくれます。ありがたいことです。
これは、辛さや悲しさを感じたくないと、心をビンの中に閉じ込めてしまう女の子の話なのですが、女の子はそのまま大きくなってしまい、何も感じられなくなってしまいます。こんなこと、私たちにも起きているような気がしませんか。
私は父との関係が悪化した中高時代に、一度友達に相談したことがありました。「私なら家から出るね」とちょっと引かれてしまい、あまり話を聞いてもらえなかったのもきっかけとなって、「どうせ他人とは分かり合えない」と自分の周りに線を引いてしまいました。引きこもってしまったわけではありません。社交的だったけれど、付き合いは浅く広く、家でのことは絶対に話さずみんなが騒いでいるのを見ながら、「楽しめていいね」と思っていました。
でも気がついたら、どうやって心を許したらいいのかわからなくなってしまったんです。他の人の痛みはわかるけれど、自分の痛みをどうやって表に出したらいいのかわからない。いつしかそうなってしまったんです。
父との関係もギスギスで、家でもできるだけ避けていて、それでも父の方から喧嘩をふっかけて来るのでした。もちろんそのことはどの友達にも話せませんでした。二十歳を過ぎても父の機嫌によっては友達との約束を反故にしなければならない時もあり、父の気配を後ろに感じながら、屈辱の思いで友人にキャンセルの電話をしたことも何度もありました。
ある日は喧嘩の真っ最中に大学のクラブの後輩から電話があり、父が取ったのですが、電話の向こうにも聞こえるような大きな声で「お前に男から電話だ」と電話を放って来ました。私はとても誰かと普通に話せる状態ではなかったので、そのまま受話器を戻してしまったのですが、「知られてしまった」という思いと、居心地の悪さとが重なり、その日からクラブにはいかなくなってしまいました。その後輩に何か聞かれるのが怖かったのです。
海外に来くことで環境を大きく変え、人に頼らなければ生きていけない状態になって初めて私は人に心を許せるようになりました。もちろんそれを弱みと見て、うまいように使おうとする人もいます。でも聞いてくれる人は必ずいます。必ずしも期待していた人でないかもしれませんが、寄り添ってくれたことがきっかけで近しくなるということもありますよね。
心の痛みや悲しみは、隠すのではなく向き合わなければなりません。向き合うことで拒絶反応を抑え、共存できるようになるのではないかと思います。忘れようとしたり逃げたりすると、心は成長せずに私たちの心は怖がりの子供のままで止まってしまうのだとどこかで読んだことがあります。
あなたの心をビンから出してくれる人が、意外と近くにいるかもしれませんね。
『心をビンにとじこめて』の作者紹介:
オリヴァー・ジェファーズ(Oliver Jeffers)
1977年、オーストラリア生まれ。アーティスト、作家。作品のタイプは多岐にわたる。独特のイラストと手書きの文字で知られ、画家やインスタレーション・アーティストとしても活躍している。主な作品に、映像化され英国アカデミー賞児童部門アニメーション賞を受賞した『まいごのペンギン』、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーランキングで1位を獲得した『クレヨンからのおねがい!』などがある。『クレヨンからのおねがい!』は続編とともに多くの賞を受賞し、日本を含め30か国以上で翻訳されている。