見出し画像

【絵本レビュー】 『わたしとあそんで』

作者/絵:マリー・ホール・エッツ
訳:よだじゅんいち
出版社:福音館書店
発行日:1968年8月

『わたしとあそんで』のあらすじ:


原っぱにやってきた女の子が、ばったや、かえるや、うさぎやしかと遊ぼうと、みんなをつかまえようとします。でも、つかまえようとするとみんな逃げていってしまいます。誰も遊んでくれないので、女の子はしかたなく池のそばにこしかけて、水すましを眺めてじっとしていました。すると、逃げていったみんなが女の子のそばにもどってきてくれました。

『わたしとあそんで』を読んだ感想:

「去る者は追わず、来るものは拒まず」
父に何度も言われたことわざです。まだ小学生の私にはなかなか理解できず、あぶれないようにいつも友達作りに精を出していました。そんな様子が父に気づかれると、やっぱり言われます。友達になってほしくて近寄ると、みんなするりと逃げていくのは感じていましたが、何もしないと誰も誘ってくれない気がして焦りました。でもクラスの女子は11人。どうしたって誰かが余るんですよね。今だったら「一人で楽〜」と、自分から立候補して一人になってしまうのですが、お尻の青い当時の私には恐怖でしかなかったんですよね。タイムマシーンがあったらあの教室に飛んで行って、「私がいるからさ、あんな子たち放っておきなよ」って言ってあげたいです。

私はみんなみたいに上の中学に上がらず、別のところに行きました。一体何が私に降りて来たのかわかりませんが、入学式の後教室に入った時何かが変わりました。周りは知らない女の子たちばかり。誰もがお互いを探り合うように話しかけていました。そんな様子を見ていた私は、「今私は誰にでもなれる」と突然気づいたのです。それはなんだか砂浜をスキップしているような感覚で、脳に光が差して来るような、脳細胞が一つ活性化されたような感じがしました。そんな喜びに浸っていたということもありますが、私はただ自分の席に座って余裕で教室を眺めていたのです。

後ろの女の子が声をかけて来ました。振り向いて自己紹介をすると、女の子がその後ろの子を紹介してくれました。「私たち姉妹なの」なんとお姉さんは4月生まれ、妹は3月生まれという姉妹が同じクラスにいたのでした。私たちは軽い雑談をしましたが、先生が入って来たので席に戻りました。前だったら「もし二人組って言われたら、あの子私を選んでくれるかな」とか、「お昼はあの子と食べれるかな」なんてやきもきしたでしょうが、その時の私はそんなことも全く気になりませんでした。むしろ、どうでもいいと思っていたのです。

翌日も余裕でした。さっさと自分の席に着いて目が合う子には挨拶し、あとは持っていた本を読んだり、教室の様子を眺めたりしていました。午前中はあっという間に過ぎ、お昼になりました。私は周りも気にせず(その理由は多分、父の作った茶色いお弁当を見られたくない、ということもあったかもしれませんが)お弁当の準備を始めました。すると、昨日最初に話しかけて来た子が「ねえ、こっちに来て一緒に食べようよ」と言うではないですか。小学校でのお弁当の時間は「ねえ、一緒に食べてもいい」が私のセリフで、誰かに先に声をかけられるなんてなかったのでびっくりしましたが、嬉しくて足がバタバタしてしまいそうなのを抑え「うん、いいよ」クールに応えられました。

その時聞こえて来たんです。父の声で「去る者は追わず、来るものは拒まず」と言うのが。まるで悟りが降りて来たみたいに、わかったんです。追うから逃げられるんであって、じっとしていれば興味本位でも人は近づいて来るのです。それ以来私は追うのをやめました。そうして気づいたら周りには友達がいました。大学のオリエンテーションで話しかけて来た同級生は、「一人で座っていたから心配になった」とあとで打ち明けてくれましたけどね(笑)

4歳の息子が追いかけるのは今のところ私だけ。四六時中「ママ、ママ」で
私は逃げ回っているのですが、時々「ギュウしてもいいけど、ちょっとだけね」なんて言われると急に寂しくなって今度はこっちから追いかけるのですが、自然界の常というのでしょうか、やっぱり逃げられてしまいます。面白いですね。

『わたしとあそんで』の作者紹介:

マリー・ホール・エッツ (Marie Hall Ets)
1895年アメリカ ウィスコンシン州生まれ。動物達と親しんだ幼児は、後のエッツに、決定的な影響をあたえる。「セシのポサダの日」(冨山房刊)でコルデコット賞受賞。「海のおばけオーリー」(岩波書店刊)、「もりのなか」(福音館書店刊)などの作品がある。1984年没。


マリー・ホール・エッツさんの他の作品


サポートしていただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは、絵本を始めとする、海外に住む子供たちの日本語習得のための活動に利用させていただきます。