【絵本レビュー】 『おしっこちょっぴりもれたろう』
作者/絵:ヨシタケシンスケ
出版社:PHP研究所
発行日:2018年6月
『おしっこちょっぴりもれたろう』のあらすじ:
ぼく、おしっこちょっぴりもれたろう。
おしっこをするまえかしたあとに、ちょっぴりもれちゃうから、いつもお母さんにおこられる。
でも、いいじゃないか。ちょっぴりなんだから。ズボンをはいたらわかんないんだから。しばらくするとかわくんだから。
『おしっこちょっぴりもれたろう』を読んだ感想:
前から気になっていて読みたいなと思っていたら、ママ友達から「入手しましたよ!」と連絡があり、貸していただきました。思った通り、うちの4歳児のツボにはまり、二日に一回は読んでいます。「君ももれたろうだね」と言うと、そのタイトルにまんざらでもなさそうにヘラヘラ笑っています。
「そとからみたら わかんないけど、
みんな それぞれ そのひとにしか
わかんない こまったことが あるんだな...」
自分の問題ってとても大きく見えます。時にその問題は山みたいに高くそびえて、私は一人でそれに挑んでいるような気持ちになるのです。そして、他の人はそんな山なんかなくて、ただゆったりと気持ちよく歩いている、そんな気がしてくるのです。でも、そんなことありえないですよね。みんなそれぞれがのしかかる山に挑んでいるんです。
中学に入ってから父と私の関係はこじれていき、それは年を追うごとにエスカレートしていきました。「自分で考えられるように。自分の意見が言えるように」と育てられ、でもいざそうなったら父はあまり気に入らなかったようです。力ずくで言うことを聞かせようとしたので、私はさらに理論で対決し、父はさらに逆上。そんな悪循環を繰り返していましが、ある時私は本当に疲れてしまって、同級生に相談したんです。帰ってきた言葉は、
「ええ〜!私だったらとっくに家出してるよ」
でした。私は少しがっかりしました。一文無しの高校一年生の私が家出をして一人で生きていくことは現実的には思えなかったことと、期待していた優しい言葉が聞けなかったことが残念に思えました。
それ以来、私は自分の悩みを人に話すことはなくなりました。この時の体験から、「他人の問題には誰も興味がないし、知りたくもない」という結論に一人で達してしまったからです。それから私は、外では「完璧な家庭生活」を送っているフリをし、家に帰ると日々父の機嫌次第という二重生活を送るようになりました。
そんな状況から逃げたくて、お金を貯めて海外に出ました。英語もちょっとまともに話せるようになって、仕事も見つかり、彼氏もできました。知らない土地でなんとか自分の第二の人生を築き上げていたある日、その彼に振られました。なんの兆候もなかった、まさに青天の霹靂。私は一晩中寝ずに、泣いて震えながら窓の外が明るくなっていくのを見ていました。
一睡もしなかったのに、翌日は仕事に行かなければなりませんでした。氷で目を冷やしてなんとか見栄えを作ろい職場に着くと、あんまり話したことのない同僚が一人スタジオのソファに座っていました。それまでだったら軽く挨拶をして通り過ぎていたでしょうが、その日はどうにも堪えきれず、私はその人の向かいに座ると「昨日振られた」と言いました。涙をこらえ、口が歪みます。
するとその彼女は「オ〜、ベイブ!」と言って立ち上がり、私の横に座ってハグしてくれました。
「可哀想に。大丈夫」
そう言われてまた涙がこぼれました。彼女が入れてくれたお茶を飲んで気分も落ち着き、私はその日を乗り切ることができました。
それから彼女と私が親友になるということはありませんでしたが、それまでの「タイプが違いすぎて苦手」という気持ちはなくなりました。何よりも私の気持ちを受け止めてもらったことがとても嬉しかったのです。そして学んだことは、「自分の問題を話しても大丈夫」ということでした。問題は私たちのほんの一部分で、私たちが問題でできているわけではないんですもんね。
『おしっこちょっぴりもれたろう』の作者紹介:
ヨシタケシンスケ
1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。著書に、『しかもフタが無い』(PARCO出版)、『結局できずじまい』『せまいぞドキドキ』(以上、講談社)、『そのうちプラン』(遊タイム出版)、『ぼくのニセモノをつくるには』(ブロンズ新社)、『りゆうがあります』(PHP研究所)などがある。2児の父。