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いろんな「産む」の立場の即興演劇ワークショップ『産magination』【むぬフェスレポート】
2024年5月17日〜26日@大阪・應典院にて「産む」から「死ぬ」まで、生きるをめぐる10日間のイベント『むぬフェス』をひらきました。
「産む」にまつわる価値観・選択肢を問い直す展示『産まみ(む)めも』の大阪巡回展に加え、人類学者•哲学者•お医者さん•仏教者•デザイナー•起業家など多彩なゲストとともに、「産む」から「死ぬ」まで、ぐるりと想像力を拡げ、生きるをめぐるための対話セッションやワークショップ...といった表現の場。
延べ人数、500人近くの方に足を運んでいただきました。熱が冷めやらぬうちに、と言いつつはや1ヶ月が立とうとしていますが、企画担当者・運営・参加者..といった視点を交えた当日の様子を振りかえっていきます。
今回レポートするのは、5/25(土)に行われた『産magination』ワークショップ。不妊治療に悩んだり、特別養子縁組を検討中のカップルの会話や、医師や友人とのやり取りを、簡単な脚本に沿って演じてみるというもの。さまざまな立場の役になりきって、「産む」に関わる想像力を拡げてみようとする試みです。当日のファシリテーターを務めた筆者が、その様子を振り返っていきます。
「いろんな「産む」の立場の即興演劇ワークショップ『産magination』」
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ワークショップは全体で1時間。簡単に流れをご紹介します。
1. イントロダクション
はじめに『産magination』に取り組むうえで大事にしたい心構えとして、「センシティブなテーマを即興で演じるからこそ、時には傷つけたり、傷ついたりするかもしれない。けれど、そこに悪意がないことが前提であり、もやもやしたことも共有し、互いに想像力を拡げていこう。」という姿勢を共有しました。
2. ウォームアップ
いきなり演劇!といってもハードルがあるので、ペアでのプチ演劇でウォーミングアップ。お題は「友人宅に招かれ、本棚に『産む』にまつわる本を発見。気になって友人に内容を尋ねる」というもの。即興でタイトルと内容を捻り出し、一気に場がほぐれました。
3. 実演
「監督を決める → シーン・配役を決める → 場面や登場人物像を想像する → 演じる → 振り返る」という流れで、3セット実施しました。
4. クロージング
演じてみてどうだったか、どんなふうに感情が動いたか、そこにはどんな前提や先入観が潜んでいたか。即興演劇での自分自身のふるまいや感情を振り返り、対話しました。
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なぜ「産む」×「即興演劇」なのか
産maginationワークショップの12種類の脚本は、「産む」に関わるさまざまな当事者(不妊治療中の方や特別養子縁組を検討している方、支援団体やクリニックなど)へのヒアリングと全4回のワークショップを経て作られました。当事者らの生の体験談をもとに「産む」に関わるリアルな場面を再現した脚本になっています。
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それを即興演劇という形でワークショップにしているのはなぜなのか。
「産む」は極めてパーソナルなことであると同時に、とても公共的なことがらです。それは自分自身の将来を考えることであり、社会の仕組みとも深く関わります。にもかかわらず、「産む」について安心して話し合える場は少なく、いざ当事者にならないと分からないことも多い。だからこそ「産む」をもっと開かれたものにし、一人ひとりが想像力を巡らせていける場が必要です。
自分ではない誰かになりきって、とっさに出た言葉やふるまいの背景に潜む前提や感情を見つめ直していくことで、言語化できていなかった思いや無意識のバイアスに気づき、想像力を拡げていけるのでは、という意図と願いが「産magination」には込められています。
では実際、どのような演劇が繰り広げられたか、その様子をお届けします。
「言ってしまった」から学んでいける
あるテーブルで、「胎児時期の出生前診断でダウン症の可能性が高いことを告げられて、自宅で夫婦で話し合う。」というシーンが演じられていました。
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夫役は「また次のチャンスもあるかもしれないから、堕ろしてもいいと思うよ。」と優しく妻役に声をかけるが、妻はそれでも産みたいと、二人の意見は割れたまま会話終了。振り返りで、妻役が、「堕ろす」という言葉を使われたことがすごくショックだったと少し声を震わせながら気持ちを打ち明けました。
そして、「堕ろす」を使った夫役も全く悪気がなかった分、それで傷つけてしまうのかと、自分にショックを受けているようにも感じられました。監督役や医師役を演じていた周囲のメンバーからは、「妊娠を体験する女性と、生物学的に妊娠できない男性とで、どうしてもいのちに対する感じ方が変わってくることの現れかもしれないね」といった言葉がかけられていました。
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「あんな言葉を使われるなんて」「ああ、言ってしまったな…」といった双方のショックが交差して相手への想像力が少しずつ拡がっていく様子が印象的でしたし、冒頭の参加スタンスで話した「そこに悪意がない」ことを前提としているからこそ、「言ってしまった」言葉から学んでいける対話の場になっているんだなと即興演劇のプロセスの力を感じました。
無数のシナリオが想像力を育んでいく
今回の出生前診断の脚本でいうと、この妊娠が、1人目なのか2人目なのか、出生前診断をすると決断したとき二人がどのような会話を交わしていたか、二人の状況や関係性によってシナリオは随分変わってくるはず。
どのカップルにも起こりうる汎用的な脚本である一方、無数の場面設定、人物設定、シナリオ展開の可能性があるからこそ、1つの台本を何度でも試みて、いろんな境遇や立場の人への想像力を働かせてみることができると思います。自分と異なる性や年代、境遇の登場人物を演じることもおすすめです。
むぬフェス中、別のセッション「子育てから看取りまで、ともにある地域とコモンズ」で、イギリスでは出生前診断に関する説明が医師に義務付けられていて、出生前診断の結果、産むと決断した家族と産まないと決断した家族の双方のコミュニティに話を聞けるなど、決断を社会的にサポートしていく仕組みがあることが紹介されていました。そうした社会の仕組みの有無や、検討プロセスの在り方を知っているかどうかによっても、どんな言葉をかけ合うかは変わってくるだろうし、複数のセッションで学びが重なり合っていく面白さを味わいました。
最善策を求めず、しっかりと気持ちに向き合う
「産magination」のワークショップのゴールは、その脚本上の最善策を見つけることではありません。演じてみてどんな感情になったか、相手をどんな感情にさせたか、それはなぜなのか。自分と相手の気持ちにちゃんと向き合い、対話のきっかけをつくることに主眼が置かれています。
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今回、初対面の人同士で演じてもらったのですが、それがよかったかもしれないとのコメントが参加者から複数寄せられていました。
〜参加者のコメント〜
以前大学で、演劇の手法を用いたWSに参加・主催する授業を取っていたことがあったのですが、ここまで深い価値観みたいなものに迫る機会は初めてでした。普段接する機会のないような、しかも初めましての方たちと様々な意見を交わすことができてとても実りあるものになりました!(ただ、初めましての、今後関係が続いていくわけではない方とチームを組んだからこそ話せたこともあるのかなと思ったりしました。例えば研究室の学生や教授とこのWSをやった場合、こんなにいろいろ本音を話せるか、ちょっと自信がないです)
おわりに
ファシリテーションをやってみて、場のつくり方はとても重要だと感じましたが、「産む」に多様な想像力をもった社会にしていくためにもぜひ多くの人に体験してもらえたらと思っています。
「そもそも上手く演じられないのは、実はその状況や立場のことを全然知ろうとしてなかったのかも」「もやもやしたのは、自分の大切にしていることが相手と違うかも」といったように、自分自身の想像力が及んでいない範囲の存在に気付くきっかけになると思うから。
見ず知らずの方が演じやすいという声もありましたが、パートナーなど親しい人とこそ演劇の力を借りてやってみる価値もあるかなと思っています。気になる方はぜひトライしてみてください!
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かいたひと:我有 才怜(がう さいれい)
福岡県出身、大阪府在住。学生時代は国際協力学を学ぶ。現在は、脱炭素DX研究所にて未来志向でのビジネスデザインや組織開発など企業向け伴走支援を担う。気候変動への強い危機感から「Climate Creative」プロジェクトを立ち上げ、気候危機回避に向けたビジネス変革を探索中。
Instagram:https://www.instagram.com/sairei18/
note:https://note.com/sairei/
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「むぬフェスは、浄土宗・應典院とDeep Care Labが協働する「あそびの精舎」構想の第一弾企画として実施されました。「あそびの精舎」構想では、多世代が混じり合い、あそびをつうじて、いのち・生き方・暮らしの3つの”ライフ”をわかちあうコモンズの拠点として、また、お寺をリビングラボという社会実験の場に仕立てていくべく、活動を展開中。
秋には芸術祭も行います。
ご関心ある方やこんなことを一緒にできそう!とピンときたら、
ぜひwebサイトよりお問い合わせください。