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初めてのキス釣り

5月26日早朝。念願の投げ釣りデビューの時がきた。

遡ること12月。まだ冬だというのに、来たる夏のレジャーに思案を巡らせていた。
近年の夏の猛暑は耐え難く、今年は川遊びに出かける以外はほとんど行動不能であった。
それでもなんとか外遊びのバリエーションを増やしたくて、早朝に絞ったキスの投げ釣りを思い立ったのである。

キスの天ぷらは美味い。これだと思った。

早速下調べを始めると、とあるブログに出会ってしまった。

何年もの間、キスの投げ釣りについて綴られており、食い入るように読み耽ってしまう。
釣行日記、記録、場所、釣り仲間とのエピソード。自作の道具。
初投稿まで遡って読んだそのブログは、日常、足繁く通う筆者のホームといえる釣り場を中心に、季節の変化やシーズンの到来や終わりを告げる。
身近な自然の移り変わりを、投げ釣りを通して記す、壮大な航海日誌のような読後感であった。

早速、近所の釣具屋を多数回って、竿とリールを揃えた。

入門カテゴリーの中古品だが、状態も良く、フリマアプリよりお得に買えた感がある。
初心者用でも、並次ぎ、PE0.8号。
専用機として形ができた。


そして今日、得物を携え、釣り場にやってきたというわけだ。

心地は意気揚々、ではなく、不安しかない。
結び目切れないかな。
仕掛け絡まらないかな。
トラブル続きで釣りにならなかったらどうしよう。
ちゃんと投げれるかな。

砂浜に繋がる堤防の階段を登ると雨まで降ってきた。泣きそうである。
すると、砂浜から上がってくるおじいさん。
一目で専用のものと分かる真紅の竿。
不安からか、挨拶と共に紡ぎ出された一言。
「おはようございます。釣れてますか?僕今日がちゃんと投げ釣りするの初めてなんです。」
おじいさんは私を一瞥すると、
「初めてか!よし!投げ方の基本教えたる!ちょっと待っとれ!」
あまりの出来事にパァーッと目の前が明るくなった。拾う神あり、まさかの第一釣り人は師匠だった。

名前はSさん。元トーナメンターで、キャスティング競技の経験者。
まさかのガチ中のガチ勢であった。

なんとこのタイミングで雨も上がり、願ってもない手取り足取りの投げ釣りレッスンが始まった。


仕掛けの結び方。
道具の扱い方。
エサの付け方。
市販の仕掛けを見せると、「それでは釣れん。これを使え」と、自作の3本針のものをくれた。
投げ方については文字通り手取り足取り。
自分の釣りを止めてみっちり2時間。

最初は3色目がでたところまでしかなげられなかったが、回数を重ねるうちに4色をコンスタントに投げられるようになっていた。
小さなピンギスが4〜5匹。釣果もあった。

最後に、「それじゃオカズにならんやろ。」と言って、自分のクーラーボックスから10匹ほど、私のにねじ込んで、去って行った。
私は釣りを続けるの思いとどまって、後を追い、車の前で何度もお礼を言った。

聞けば愛知県から、この辺りには毎週来ているらしい。
多分また会えるはず。
その時に「上手くなったな」と言ってもらえるように練習したいと思った。

これが初めてのキス釣り。

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