美術の仕事に就いたきっかけについて書きました。
父が興した画廊で働き始め、今年で十二年目になります。
少し遅く大学に入り、22、23歳迄は全く美術と無縁の生活でした。むしろ学校での美術や工作の実技授業は不器用なこともあり、大の苦手。国語が好きで少し得意でもあったので、文学部に進みました。
では何故というと、美術に無関心ではあったのですが、一つだけご縁があったのです。それは、実家で使っているご飯茶碗が、父の画廊で展覧会をしてくださっている人の作品だったということ。唐津の陶芸家、西岡良弘さんという方が作った斑唐津というやきものでした。
とはいっても、ずっと特に何も思うことなく使用していました。けれど、23歳頃から、段々とその飯碗を『いいなぁ、これ』と思うようになっていったのです。釉薬を纏った肌合いが淡雪のようで…手に取り、観ていると、放つ輝きに惹かれ、心が豊かになっていく感覚がありました。気が付くと、私にとって珠玉の飯碗となっていたのです。思い返せばこれが、美術品に心が感銘を受けた最初の経験でした。
そして、美術品を扱う美術商という世界に興味を持ち、やってみようと思ったのです。