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ノルウェーの保育園事情〜その3〜

インタビューシリーズ!第3弾

私のノルウェーでの1番最初の友達、Sちゃんが昨年秋からノルウェーの保育園で働いているので、保育園がどんな感じなのか聞いてみたくて、インタビューを通して共同で記事をつくることにしました。

Sちゃんとは普段からノルウェーや日本の社会のこと、自分たちが感じていることなど、話題尽きることなくいつまでも話してしまう間柄。直感でベルゲンに来ることにした私にもやっぱりここにご縁があったんだなぁと、会うたびに感じてしまう友達の一人です。

ノルウェーの子どもたちの様子、保育園や幼児教育について、私自身のフィンランドでの経験も踏まえながら、日本人の私たちから見た今のノルウェーを一緒に綴ります。

第1弾:ノルウェーの保育園、基本情報

第2弾:保育園の1日

第3弾:子どもたちの遊びと学び ←今回はこちら

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自然の中で遊び、自然から学ぶ子どもたち

あすか
1回目の記事で「多少の雨ならば外で遊ぶ園が多い」というのがあったけど、本当にたくましいよねぇ〜!

フィンランドも同じで、私は同世代のフィンランド人の友達が雨の日に窓から外を見て「今日は中にいるのにぴったりの日ね〜」ってサラリとつぶやいているのを聞いて、雨という天気に対して、なんて前向きな感想なんだ!!!とびっくりしたことがあった。雨が外で遊ばない理由にならないという子ども時代の経験が、こういう前向きなマインドをつくっていくんだろうなぁと感じたよ。

S
天気を肯定的に受け入れると、楽しく生活できそうだね。
ノルウェーはむしろ、どんな天気でもだいたい外に出るよ。とくにベルゲンが位置する西ノルウェーは、特別雨が多い地域。晴れるのを待っていたら、何日も外で遊べなくなってしまうから、よっぽど激しい雨でない限りは、雨でも雪でも外遊びをするよ。
ほぼ氷点下の日に水遊びをしたり、ちょっとした岩山を登ったりと、厳しい自然の中で活動するタフネスに満ち溢れているよ。

子どもたちが外で遊ぶときの装備は次のとおり。
● 子ども…毛糸のつなぎ、Parkdress(パルクドレス、防水のつなぎです)、帽子、長靴、手袋。園の名前が書かれた、蛍光色のベストを着ることも多いよ。
防水のつなぎは、晴れていても着るよ。晴れていても、水遊びや泥遊びなどをするから。日本で防水のつなぎを着たら、中が蒸れて大変だと思う(笑)
子どものつなぎの参考画像(ノルウェー語のサイトに飛びます)

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↑公園で遊ぶ北欧の子ども。どんな天気にも対応できる服装で外に出ます。
*ライセンスフリーの画像を使用しています。

● 先生…屋外作業用のつなぎ、帽子、長靴、手袋。
つなぎはスキーウェアのようなもので、防水かつ泥に強い素材。保育園から貸与される場合もあるよ。つなぎが貸与されない場合は、自前のレインコート、レインパンツを着ているよ。
先生のつなぎの参考画像(ノルウェー語のサイトに飛びます)

あすか
つなぎを着てちょこちょこ遊んでいる子どもは、最高にかわいい(笑)
でもいくら防水・防寒しているからと言っても、やっぱり雨に濡れたり寒かったりするのを嫌がる子どももいるんじゃない?

S
もちろん、着替えを嫌がる子どもや、早く屋内に入りたいという子どももいるよ。組によっては、一部の子どもは屋内で過ごすこともあるみたい。

あすか
そうだよね、嫌なときだってあるよね。
「着替えが多い」というのもカルチャーショックの中にあったけど、外で遊ぶとき以外も、着替えるタイミングがあるの?

S
1日の着替えのタイミングは、こんな感じ。
● 外で遊ぶとき
● 外でお昼寝をする場合
外で寝る場合は、お昼寝用の暖かいつなぎ、帽子、寝袋が必要。寝袋は、ベビーカーに予め載せてあるよ。
今はコロナ対策として、ロッカールームの混雑を避けるため、数人ずつ着替えているよ。でも先生が着替えを手伝うことを考慮すると、もしかしたら普段も数人ずつ着替えているのかも。着替えたがらない子どももいるから、時間かかるしね。

個別のロッカーは、基本3種類。
● コート掛け…登園の際に着ていた上着や、外遊び用の服を掛けるよ。
● 室内着を入れるボックス…外でお昼寝する園の場合、お昼寝用のつなぎも入れておくよ。
● お絵描きなどの作品を入れる棚

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↑ノルウェーの保育園のロッカーのイメージ。フィンランドもこんな感じでした。
*ライセンスフリーの画像を使用しています。

あすか
なるほど、着替えだけで子どもも大人も忍耐力がつきそう。荷物も多そうだね。

子どもたちは普段、どんな遊びをしている?

S
屋外では、砂場や遊具、三輪車などで遊ぶことが多いよ。園内に林や丘がある場合は、駆け回るだけでも楽しめるみたい。スピーカーで音楽をかけて、思い思いに踊ることも。
雨の多い地域だから、水遊びも人気があるよ。泥遊びをしたり、石鹸で泡を作ることも。
雪が降れば、そり遊びをしたり、雪だるまを作ったり。雪を食べようとする子どもも多いね(笑)

室内では、もういろいろ。レゴ、積み木、パズル、人形や車、ままごと、塗り絵、お絵描き、絵の具遊び、粘土、幼児向けボードゲームなど。
マットレスや大判の布、段ボールなどで、秘密基地を作る子どももいるよ。(子どもたちは「秘密基地」ではなく、ノルウェーらしく「山小屋」と呼んでる。)
室内で自由に踊ることもあるよ。

あすか
自由感半端ない(笑)さすがノルウェーって感じ。

ノルウェー人の大人を見ていると、子どもの頃のそういう遊びの経験が、どんな天気であろうと、秋冬にどんなに暗かろうと、自分なりの楽しみを見つけるたくましさにつながっているんだろうなぁ。

子どもの主体性・個別性を重んじる方針

あすか
「みんなが同じことをしなくていい」というのも、北欧ならではの子どもに対する姿勢だなぁと思ったよ。
フィンランドでは一人遊びをしている子どもが多くて、私がフィンランドの保育園に行ったときは、大人が遊びに介入していることはまずなかった。子どもに誘われたら一緒に遊んだり、おもちゃの取り合いとかケンカが起きたら仲裁に入ったりするけど、子どもは年齢に関わらず自分の遊びに集中していて、静かに黙々と遊んでいたなぁ。あの光景は、私には結構衝撃的だったんだよね。
日本でも森のようちえんを見学させてもらったときは、おんなじ方針だったなぁ。

S
確かに、ノルウェーでも自分で遊びを選ぶことが尊重されているよ。室内でも屋外でも、同時にいくつかの遊びが提供されていて、子ども自身が主体的に何をやるか選んでいる。
私のような保育園アシスタントの役目としては、子どもを見守り、必要な時に手助けすることが求められていると思うよ。

あすか
なるほどね〜!遊びのスタイルは、フィンランドと似ているね。

主体性や個別性が重んじられるという点で、言葉や身体的な発達、遅れのある子へのケアはある?

フィンランドでは障害の有無に関わらず、同じ場所で学ぶインクルーシブな環境が比較的多い印象で、同じ園や学校の中に特別支援を必要とする子どもたちが通う支援級があることが多い。支援級から通常のクラスへ毎日行き来があったり、学校外の特別支援学校へ行く日が設けられていたり、その子の状況に合わせて支援がついていた。しかも、無料のタクシーの送迎付き(交通費は国が負担している)。

フィンランドの保育園で見た事例では、ある言葉の遅れがある子に対して週に数時間、言語聴覚士・Speech-Language Therapistが1対1で入って、遊びを通じた指導をしていたよ。私が見学したときは、発声に使う筋肉を育てるためにフーッと息を吹き込むと泡が出るおもちゃを使って、息を吐き出す練習をさせてた。子ども本人にとっては遊びであり、自分だけ特別なことをしているという認識よりは、この時間はたまたまこの大人が一緒に遊んでくれているという認識だったと思う。

日本だと、吃音(きつおん)のような事例ではこうした遊びを通した介入があるけれど、障害の度合いが重度になればなるほど、または併せ持つ障害が複合的になればなるほど、遊びよりは訓練・リハビリの要素が強くなっている印象があるよ。

S
なるほど、さすがあすちゃんは詳しいね。
私は言語聴覚士さんの仕事を見たことがないから、普通の先生たちがどのように会話しているかを話すね。

発語の障害がある子の場合は、イラストの書かれたカードを使って会話することが多いよ。
先生がカードの束を持っていて、その子に話しかけながら、同時に該当するイラストを指差してわかりやすくしているよ。
車椅子の子の場合は、年長組ならキーボードを使って会話することもあるよ。
自分の名前をタイピングして見せてくれたり、Yes/Noなどが書かれたボードを指差して会話したり。

あすか
特別分けたりせず、インクルーシブな環境が意識されている感じがするね。
ただ、正直この点に関しては国に関係なく、単純にマンパワーが足りないから子どもたちを一緒にしている、という理由もありそうだと個人的には感じているよ。

子どもたちの遊びに話を戻すと、大きい子たちはごっこ遊びや、だるまさんが転んだみたいなチームプレイの遊びをするんだろうか?
保育園や学校などの教育現場に限らず、個人の個別性が重視されるノルウェーだから、やっぱりノルウェー流の個人プレイが多いのかな?

S
2,3人ぐらいのごっこ遊びはあるけれど、チームプレイの遊びはあまり見かけないよ。一度だけ、年長組で「たかおに」をしたぐらい。

あすか
遊び方にも、個人の意思と権利を重んじるノルウェーを感じるね(笑)
自分の意思を明らかにして、自分の主張したことに責任を持つ在り方は、幼い頃から本当によく鍛えられていると思う。北欧の人たちを見ていると、自分の人生を主体的に生きていてかっこいいなぁって、いつもすごい刺激をもらうんだよね。

日本で得られる体系的な学び

あすか
「みんなが同じことをしなくていい」一方で、みんなで一緒に何かをすることで得られるものもある気がするね。これは私が日本で集団生活を経験してきたから、そう言えるのかもしれないけど。

S
ノルウェーの保育園にいると、日本の教育の良いところも感じるよ。
ノルウェーは遊びから自発的に学ぶことを重視しているけれど、日本の幼稚園、保育園では、体系化された学びが提供されていると思う。先生が子どもに何かを教える時間が長くて、簡単なことから徐々に難しいところへ、少しずつ積み上げられる教育スタイルだと思う。

あすか
うんうん、確かに。
練習や、稽古。教える人と学ぶ人がいて、繰り返し見て、真似しながら学ぶ。日本の道の精神が教育現場にも色濃く反映されているよね。

S
それに、日本は運動会やお遊戯会などがあるよね。準備に時間をかける行事では、上達の喜び、失敗の悔しさ、人前に立つこと、何かをやり遂げた達成感などを感じられると思う。
あと、日本では挨拶など、社会的な立ち居振る舞いをしっかり教えるよね。

あすか
社会で生きていくための振る舞いや協調性が、無意識レベルで教育の中に組み込まれているね。それはそれで、確立されたシステムとして素晴らしい。
一方で「(日本社会では)こうあるべき」に、時に子どもも大人も縛られてしまうのかもしれないなぁ。

S
そうだね、日本のほうが、先生や保護者に求められるものが多いかもしれない。
ノルウェーでは、運動会やお遊戯会のような、休日に一日かけるような行事がないよ。特別な行事があったとしても、平日の1~2時間で終わるよ。
送り迎えの時間も緩やかだし、先生も定時でスパっと帰る。

あすか
勤務時間がフレキシブルで、定時でさっさと帰るのは、ノルウェーでは学校も会社も同じだね。
私も夏の終わりにフィンランドに滞在したときは、平日に学校から帰ってきた後に、同じ学校の先生がボート乗りに連れていってくれたり、ホームステイ先の人とゴルフやボウリングに行ったりした。明るい夜(白夜)を満喫したなぁ。家族との時間や趣味の時間を大切にするって、こうすればいいのか!って具体的に学んだよ。

S
ベルゲンの人たちも、夏は仕事の後にハイキングしたり、バーベキューしたりしているね。私の近所の子どもたちも、夕飯後にトランポリンで遊んだりしているよ。(ノルウェーでは、庭にトランポリンを設置している家が多いです。)

もう一つだけ、ノルウェーの保育園の特徴を話しておきたい!
ノルウェーの保育園では、組全体での行動が少ないよ。第2弾の記事でも話したけど、子どもたちの活動は「遊び」と「集まり」に分かれているの。
「遊び」の時間はそれぞれ思い思いに遊んでいるよ。ノルウェーでは、子どもたちが遊びから自発的に学ぶことが重視されているから。
「集まり」のほうは、お誕生日会や季節の行事がない限り、15分程度かな。
皆で一緒のものを楽しむ、人の話を聞く、できれば人前で話すといった活動。ちなみに、私が今まで体験したのは、読み聞かせ、歌、短編アニメ鑑賞、クイズ大会、show and tell(年長の子が好きなものを家から持ってきて、皆に見せる)など。

あすか
そう考えると、日本は「集まり」を中心に1日が構成されているかもしれないね。お遊戯・体操・工作・楽器・歌・読み聞かせ・行事の練習...もちろん自由に遊ぶ時間もあるけど、そういうときだって年齢が上がるとドッヂボールやチーム分けしたゲーム、長縄など、チームプレイが増える気がするね。お絵描きも一斉にやるし。

S
そうだね、先生に何かを教わる時間は、日本に比べたら非常に少ないね。一部の保育園で、最年長の子がアルファベットを習ったり、12月にサンタルチア(聖ルチア祭)の歌を練習したくらい。
アルファベットなどは、保育園生活の中で自然に触れさせている組もあるよ。給食のとき、「名前がAで始まる人!」と呼んだり、お絵描きしたら最後に自分の名前を書かせたり。

そういえば、お絵描きのときの画材は、ノルウェーでは共同だよ。日本では個人に買い与えられていたよね。

あすか
そうだったね。...それで思い出したんだけど、私、年中のときの自分のマークがカニ🦀 だったのね。他の子がうさぎとかくまとか、かわいいマークなのに「なんで私はカニなんだ...!」って、実はすごく不満に思っていたの。それでも色鉛筆や絵の具、連絡帳、自分の持ち物全てにカニのシールが勝手に貼られていく虚しさと言ったら...😭(笑)

S
(笑)
自分のマークを勝手に決められるのは、ノルウェーだったらなさそうだなあ。
もし決めるとしたら、自分で選ばせそう。自分のアイデンティティーとなるマークだから。

あすか
そういう主張ができるのも、ノルウェーでは大事なこととみなされるね。

S
やはり、ノルウェーは自分の意思をはっきり主張し、その発言に子どもなりの責任を持つことが重視されていると思うよ。
日本はノルウェーと比べると、他者を尊重する振る舞いや、周りと調和することが重視されていると思う。

ーーーーーインタビューはここまでーーーーー

共同記事の作成を終えて

今回、敢えてフィンランドの教育現場にも多く触れた理由は、比較がしたかったというよりは、約8年前から数年にわたり、フィンランドの教育現場に入って得てきた私自身の学びをメモしたかったという意図があります。

それから、ここで綴った内容は、同じ国の中でも地域や文化、園によって異なる部分も大いにあります。また、私たちのどちらも日本で保育に従事したことはなく、あくまで私たち個人の興味・体験・感覚に基づくものであり、むしろその感覚的なところを重視して書いています。

私たちが日本人として見ることができるノルウェー社会があるし、ノルウェーや保育・教育に興味を持っている人が周りにいることを知っているので、共同で記事を発信することにしました。

コロナで本来できそうだったことができなくなっているのを実感する一方で、私たちが普段の生活の中で感じ、学び、会話を通して理解していることを、このような形にまとめることができて、私はとても嬉しいです。
Sちゃん、本当にありがとう!

SちゃんのSNSアカウント
https://www.instagram.com/meichaichai/?hl=ja

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↑今回のトップの写真は、Fløyen(フロイエン)から見たベルゲンの街。
Sちゃんと一緒に何度か登ったFløyenは、ベルゲンの観光スポットの一つで、街の中心からケーブルカーでも登れるし、ちょっとしたハイキングには最適な山。週末はもちろん、平日の仕事が終わった後に登る人もたくさんいます。

ベルゲンはFløyenの他にも、気軽にハイキングできる山がたくさんある街です。特に山の上から眺める夜景は、自然と心をほっとさせてくれる景色。
そしてノルウェーには、こんなことわざもあります。

"Gå på tur, aldri sur!"
「散歩に出かければ、不機嫌でなんかいられない」「散歩に出かければ、機嫌が良くなるさ」

そんなノルウェー人に倣って、できるだけ外に出ることを大切にしている私たちです。

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