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見やすい校正記号とは? 著者校のときに注意してほしいこと② (暫定版)


前回は著者校・訳者校のときに知っておいていただきたいことをまとめておきました。

今回はその続編です。著者校のときに用いる「校正記号」の使い方について気を付けていただきたいことをまとめておきたいと思います。前回書いた通り、ゲラに入れた朱字を人の目で見て、人の手で修正していく訳ですから、読みやすい方が修正する人には優しいですし、ミスや事故も起こりづらくなります。では読みやすい・分かりやすい朱字ってどんなものなのでしょうか……。そのすべてをお伝えすることは難しいと思いますが、押さえておいてほしいポイントを整理したいと思います。

なお、この記事は校正記号の使い方を概説するものではありません。そのような文書はネットで検索すればいくらでも転がっていますので、そちらを参考にしてください。特に印刷会社や出版社の作成したものであれば概ね信頼できます。定評ある書籍としては、日本エディタースクール編の以下のものをご確認ください。

※この記事は暫定版です。編集・校正・組版の方のご意見を参考にしながら更新していきたいと思うので、ご意見をお待ちしております。


とりあえず押さえておきたい基本

校正記号には個性が出る

「校正記号」で検索すると文書によって説明が微妙に違っていて、「どっちが正しいの?」と思った方も多いのではないでしょうか。たとえば以下の図に、挿入と修正の例をふたつずつ示してみましょう。


修正の指示の例


挿入の指示の例

いずれもⒶがJIS Z 8208 : 2007に準拠した書き方なのですが、実際の編集や校正の現場ではⒷも使われていると思います。つまり現実に使われている校正記号にはバリエーションがあるのです。ネットに検索して出てくるものは、上位に表示されるものであれば概ね間違いではありません。ただし多様性があるとはいえ、一人で複数の使い方をしているとさすがに混乱するので、どれかに統一することをおすすめします。

さまざまな挿入の書き方。挿入箇所の>はなくても良いが、あったほうが分かりやすい。
○で囲むのは短い時に使われることが多いかな。
修正箇所の示し方の例。JISで「許容される使い方」として定められている。

朱字の入れ方によってその人の個性がにじみ出てくるように思います。けどそれは経験を重ねてからの話。個性を出そうとすると見づらくなるのが落ちですので、オーソドックスな使い方にするのが良いと思います。

拗促音の書き方

文字列を書き記すときに、押さえておいてほしいルールがいくつかあります。特に記号類は注意してください。

拗促音(小さい「っ」「ゃ」など)や小書き文字(小さい「ぁ」「ォ」など)は通常の仮名と区別するために<で括ります(横書きの場合は∧)。方向を間違えないようにしてください(意味が逆になって、小さい文字を大きくする指示になります)。同様に句読点やカンマ・ピリオドも<で括ります。赤で書くと見づらくなりそうであれば、>は黒を使っても構いません。なお拗促音は○で囲むやり方もあります。

拗促音を○で囲む場合

一般的な語句であればあまり細かくやらなくても大きな問題が起きることはあまりないとは思うのですが、専門用語や固有名詞などは、オペレーターが見て分かるようにしておいてください。

約物類(句読点や記号など)の書き方

中黒(・)を使う場合は正方形□で、コロン(:)は○で囲みます(セミコロンは囲まない)。「ナカグロ」のように補記するとなお分かりやすいです。特に紛らわしい約物(ハイフンとダーシと音引等号とダブルハイフンなど)は補記して区別するようにしてください。この補記も黒字で構いません。

カズオ・ナカグロ・イシグロ
特に横線・縦線1本の約物は注意です。

ダーシや三点リーダーなどは□を使って何文字分入れるのかを示します。

三点リーダーは□の中に入れても外に置いても構いません

この時、縦長の四角形だと二分(半角)の意味にななってしまいますので、きっちり正方形で書いてください。正方形は全角1文字分を表します。なお□を単独で用いた場合は全角1文字分のアキを意味します。

「イキ」の使い方

朱字を入れたけどやっぱり消したい、というときに「イキ」という校正記号をよく使います。これは「取消」という意味だと思われがちなんですが、そうではなくて「この箇所を生かして下さい」という意味です。したがって生かしたい文字・指示の近くに書いて下さい(下図右)。左のようにトルの隣に「イキ」と書くと、トル指示を生かす意味で解釈されてしまいますので注意してください。結局修正しない場合は引き出し線も抹消しておくとなお分かりやすいです。

左だと「小さな」をトル、右だと「小さな」を生かす意味になります。

行・倍・w・l・全角・半角 ——ワープロとは違うんです!

校正記号の使い方を調べていると、「二分」とか「四分」という聞いたことがない言葉が出てきて身構えてしまった方もいらっしゃるかもしれません。こういうやつです。

あと「四分アキ」とか「ベタ」とか「ベタニモドス」とか、ちょっと難しそうなものもありますね。難しく考えなくても大丈夫です。ちょっと説明しますね。

まず和文の全角1文字分を組版や校正では「1倍」といいます。「3点リーダー2倍」といえば3点リーダー2文字という意味です。「2分」は1倍の半分、「4分」はそのさらに半分のこと。つまり「四分アキ」というと全角の1/4の幅のアキを入れる、という意味で、見出しをちょっとゆったりさせたいときなどに使います。「ベタ」はアキがないことを指します。まあこの辺は編集者がやるので気にしなくていいのですが(もし体裁が他と違うことに気付いたら鉛筆で指摘してください)。

「倍」は「w」でも表します(どちらで書いても構いません)。3文字分空けるなら「3wアキ」というふうに書きます。「行」は小文字の「ℓ」(エル、筆記体で書く)です。

気を付けていただきたいのは「半角」です。コンピューターで欧文(英数字)を示すときに使われるこの言葉ですが、厄介なので「半角」という語は使わないでください。「半角」とは全角の半分のこと、つまり二分のこと……なんですけど……。欧文は実は半角ではありません。欧文書体は文字によって幅が違います。iとmでは全然違い、mは全角1文字分あります。

単語と単語の間にアキを入れるとき、欧文のスペース1文字分=半角アキ=二分アキかと言いますと、ぜんぜんそんなことはなく、実際には三分くらいです。「半角アキ」と書かれると二分アキ(全角の半分のアキ)なのか欧文のアキ1つのことなのか分かりません。同様に「半角パーレン」(パーレンは丸括弧のことです)は和文のパーレンを二分に詰めて使うのか、それとも欧文のパーレンを使うのか区別できないのです。

分からなければ全角・欧文・二分など区別せず書いておいていただければ、こちらで判断します。

なんでこんなややこしいことを書いたかと言うと、組版はPC上で行っているとはいえ、ワープロソフトとは違う仕組みでできているのです。PC上の文章を直すような感覚で指示をすると混乱を招く場合があるので注意して下さい、ということです。

読みやすい校正記号の書き方

引き出し線の方向と書き方

引き出し線は適当に空いている場所に引いてしまいがちなのですが、そうすると別の引き出し線と交差して読みづらくなりがちです。修正が多くなればカオスになり、それだけ分かりづらくなりますしミスや事故も起こりやすくなります(もちろん組版者の方も細心の注意を払って行っていますが)。そのためJIS Z 8208: 2007では原則として引き出し線は校正が終わった方向に引くことになっています。つまり縦書きなら右上に引きます。この方向ですと修正の作業の際に見落としませんし、一方向に引くことで交差するのを避けることができます。ただし、左や下にある文字を修正する場合は無理に右上に引く必要はありません。また、できる限り近くに引き、短くするようにして下さい。

ただし、横組みの場合は引き出し線は行間を使って左右のどちらか近い方に引き、左右の余白に修正指示を入れることが多いと思います。

また、朱字を修正箇所の隣の行間に書いてしまうと文字が小さくなって見づらいし、見落としの原因にもなりますので、できる限り引き出し線を余白に出して書いてください。

左だと文字が小さくなりがち。朱字が少ないと見落としの原因となり、多いと混乱する。

修正箇所のはじめと終わりを明確に

修正箇所のはじめと終わりがどこなのか、はしっかりと分かるようにしてください。特に句読点が入るのか入らないのか分からない場合も多いので(下図左)、はっきりと示してください。句点を生かす場合は<で囲むなどして分かりやすくしても良いです。

左だと句読点を生かすのか取るのか分からない

たまに修正箇所やトル指示を塗りつぶすように指示される方がいるのですが(下図左のように)、ゲラを組版ソフトの画面を見比べたときに、どの文字を直せば良いのか分かりづらいので、下の文字がはっきり読めるようにすると良いと思います。

「暗い嵐」「周辺」という文字を消すのだということが分かるように

一般的には、上図右のように修正箇所に線を引く、というやり方が紹介されることが多いのですが、修正箇所を囲む場合もあります(下図)。こちらのほうがどこを修正するのか分かりやすいので、わたしはこのやり方を使っています。

分かりづらくなってしまうときは

修正指示が重なって分かりづらくなってしまうことがあると思います。欄外に鉛筆書きでどのように直すのかを示して貰えると良いです。慣れないうちは修正が重なるとカオスになってしまいますが、その場合も最終的にどうしたいのかを鉛筆で書いておいてください。

また、朱字が長くて余白に入らないときはⒶや※などの記号を使って、空いている余白に書いてください。無理に入れようとすると見づらくなって事故のもとになります。

大文字・小文字の区別を示す

c、s、vなど、大文字と小文字の区別が分かりづらいものは特に大・小と書き添えるようにしてください。黒字でも良いです。

上のように赤で小を丸囲みしてもいいし、黒で補足的に書いてもいい。

また、欧文の場合でアキを入れずに続ける場合は^を入れてください。goをgoesに直すときは、「^es」と朱字を入れます。^は黒でも良いです。

小さい修正で見落としそうなら囲む

句読点だけの追加や、1文字のテレコなどはオペレーターさんも見落としがちです。目立たないなと思ったら鉛筆で囲むなどして目立たせてください。

アキ量、上げ・下げ量は明確に

アキを入れたり、移動したりする場合は単純に記号をいれて「アキ」「ツメ」など指示をするのではなく、どれだけ空けるか、どれだけ動かすかを指示します。版面の一番上に揃えたいときは「天ツキ」、一番下まで下げたいときは「地ツキ」です。量が分からなければ鉛筆などで「これくらい」「XXページと同じように」などと書いといていただければこちらで直します。

すでに空いているところから更に空けたい、動かしたい場合は特にに注意してください。たとえば以下のような指示をすると、修正するときに結構困るのです。

上の場合、すでに1行空いているわけですが、ここに「2行アキ」と書かれると「(1行のアキを)2行アキにせよ」の意味なのか「さらに2行アキを追加せよ」の意味なのかわかりません。前者なら「2行アキニ」、後者なら「+2行アキ」と書くと明確です。字下げ量を調整する動かす場合や詰める場合も同様です。以下の図を参考にしてください。

具体的な指示の例。アキの量を指定したり、揃えるラインを示してもよい。

お願い

※この記事は暫定版です。編集・校正・組版の方のご意見を参考にしながら随時更新していきたいと思うので、ご意見をお待ちしております。また著者・訳者の方の質問があればお寄せ下さい。コメント、Twitter(DM開放してます)、メール(araki.shun118@じーめーる.com)などからどうぞ。


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