バイクパッカーおじ@2023石垣島⑦
朝になり、先客のテントの主が姿を現した。主は自転車キャンパーだった。我々は同じ歳で定年退職してブラブラしている者同士だ。定年退職後は働かず、体が動くうちに自由を満喫したいというお互いの思いを共有した。10月に西表のキャンプ場にいる無職のおじさん率は高そうだ。神奈川からやって来たおじさんは、飛行機で羽田から沖縄に入って、沖縄から石垣まで船で自転車を運ぶ計画だったが、石垣までの船便が廃止されていたので急遽飛行機で石垣に入ったとのこと。おじさんは星の砂キャンプ場が気に入った様子で3泊したらしい。ここをベース基地にして動き回った話を聞いてるうちに、白浜港の方に行ってみたくなった。白浜港は道路が無くなる北の端で、そこから船で渡ると、イダ浜というめちゃ綺麗なビーチがある。12時になったら星の砂レストハウスで食事をしてから出発することにした。昼食まで日陰でゴロゴロする。遠くに波の音を聞きながら、日陰でウトウトする至福の時間だ。星の砂キャンプ場から白浜港までは自転車で片道1時間ぐらいだろうか。車少ない、信号ない、アップダウン小さい、風気持ちいい、海きれい、この区間のサイクリングは西表で一推しだ。
白浜港の直前にある日本最南端トンネルの西表トンネルは途中真っ暗になるのでライトが必要。
白浜港に到着。民家は結構あるのだが人が全くいない。人が消えた村に迷い込んだみたいだ。(笑) 喉が渇いたので木陰のベンチに座ってペットボトルに入れて持ってきた水を飲む。予想した通り自販機なんてものは見当たらない。しばらくすると頭の上のほうで聞き慣れない鳥の鳴き声がする。見上げると特別天然記念物のカンムリワシと目が合った。写真を撮ろうとスマホを向けると、美しい模様の大きな翼を広げて飛び去った。カンムリワシがいなくなると、人が消えた村は静粛を取り戻した。船着き場の桟橋、待合室、駐車場に十数台の車。人の気配はない。時間が止まっているようだ。待合室は人がいないせいか、照明が妙に明るく感じられた。そして今の西表島には似つかわしくない、昔、ここに炭坑があったという記録が展示されていた。白浜港の目の前は、海を挟んで緑の木々で覆われた大きな無人島が見える。泳いで渡れそうな距離だ。この島が昔炭坑だった。西表炭坑の歴史はここから始まる。採掘は沖縄本島の囚人を使役して1886年に始まる。台湾人抗夫もたくさんいた。資本が変わりながらも存続し、1917年ころ第一次世界大戦の石炭需要で活発になる。しかし坑夫にとっては牢獄であった。逃亡を防止するため、賃金は炭坑の購買でしか使えない金券が与えられた。逃亡者が出ると捕えて見せしめのリンチを加えた。昭和になり主炭坑は浦内川支流の宇多良に移る。ここは浦内川ジャングルクルーズのルートに入っているらしい。ジャングルを切り開いて近代的な炭坑村を作った。今はジャングルで埋もれてしまっている場所に、かつて炭坑村が存在したのだ。炭坑も歴史もジャングルに吞み込まれてしまった。白浜港の待合室の展示は、歴史から削除されようとしている炭坑夫の叫びのようだ。