[ちょっとだけネタバレあり]漫画「鉄風」が面白かった話
先日、「百合界隈のおじさんたちで議論した結果、一度世界から百合を無くそうという話になった。」というnoteを投稿したところ、フォロワーさんからこんなマシュマロをいただきました。
まさかアレを読んで感想をくれる方がいるなんて……と思い、おすすめされた作品を一つ一つ購入。とりあえず表紙が気になった「鉄風」を最初に読むことにしました。
鉄風(1) (アフタヌーンコミックス) Kindle版
太田モアレ (著) amazonより引用
この作品、表紙で構えている「夏央」という少女が、スポーツにおいて類まれな才能を持ち合わせ、関わった部活の先輩や後輩に疎まれながらも、偶然出会った「馬渡ゆず子」という低身長で見た目は貧弱そうな少女と、拳を交えることでその才能を瞬時に理解し、お互いに惹かれ合いつつ切磋琢磨し、格闘家としての才能を開花させていく「夏央」が主人公の物語となっています。
これ、正直におすすめされて最初に読んだ時「これのどこが百合なんだ……」と思ったんですが、
結局読み終わるまで「個人的には全く百合ではない」という感覚になりました。
ですが、”鉄風 百合”で検索すると、割と引っかかるんですよね。格闘百合というジャンルで。
確かにこの夏央とゆず子が常にお互いの意識の中に存在し、惹かれ合いながら進んでいくストーリーは「百合」と言えなくもないかなと思うんですが、二人の間にあるのはどう見ても「敵対心」、いわゆるライバルに抱く感情。たしかにライバルほど想う相手が、そもそも意識している相手と解釈して「友達以上の存在」のような「恋人未満」的な考え方もできるかなと思うんですが、でもこの二人がやることは学園物によくある他の生徒に隠れて手つないだりとかお揃いのアクセサリ買ったりとか、修学旅行で実質混浴になってドキドキとかじゃないんですよ。
ミット被って、グローブ付けてぼこぼこに殴り合うんです。
( ・ω・)っ≡つ ババババ
個人的に過度な解釈をすれば、1話冒頭で夏央が「身長の低い男とは付き合えない」とスッパリ断った直後に、さらに身長の低い「ゆず子」に段々と惹かれていくわけですから、そういう百合っぽい読み方から入るのもありかなと思うわけです。
なので、二人の間にある関係を私は「敵対心」と解釈したが、これを「百合」のような「恋愛関係」に近いものとして解釈したか「敵対心も百合の一つ」として解釈したか、または全く別軸の解釈で百合と考えたか、ぐらい間にはグラデーションが引かれているわけですよね。
また別の視点ですが、これがもし「夏央」と「ゆず子」が両方とも「男だったら」果たしてBLなのかと考えた時、恐ろしいほど容易に「BLあるなこれ」と思ってしまうわけですよね。なぜそう思うかというと、二次創作の大半が「そうであって欲しい」や「こうじゃないか」という作品には表面上描かれていない部分の作品ばかりだから、歴史の中でそういうジャンルが数多生み出されてきた先輩市場であるBLにおいてはむしろ「当然」レベルなわけですよね。
ここまでの解釈をして初めて、僕はこの「鉄風」に「百合という解釈はありなのかもなぁ」という感覚を得たわけです。つまり、僕は今まで百合作品を見てきたときに「そうであって欲しいな」というよりは、キャラクターのセリフや感情、表現を見て推察でしか百合かどうかを判断できていなかったわけです。この気付き、非常にデカい。
ただ、個人的にはこの感情否定しておきたいんですよね。私は作品の中で「そう感じ取れる表現や明確な描写がない限りは決めたくない」んです。つづ井先生もそうじゃないですか。
TSUDUIのLINEスタンプより一部引用。https://store.line.me/stickershop/author/50564/ja
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逆に言えば、「私はこれを百合だと思うからこれは格闘百合漫画で~~~す!」って気楽に言っちゃっていいわけですし、正直「でもこれ男同士だったらBLあるでしょ!?ねぇ!?」って言われちゃうと「うーんあるよな~」って正直思ってしまうんですよね。なので、僕にとっては百合じゃないけど、これは百合漫画と言えるんだろう、というのが僕の落としどころでした。
さて、なんか余談みたいになっていまうのですが、鉄風が面白いと思った最大のポイントについて少し触れたいと思います。これはすでに読んでいる方向けになるので、未読の方はここらへんでページを閉じていただいて大丈夫です。
私は、漫画においては基本的に読者のワーキングメモリのストレス(心地よい負荷)のバランスがとても大切だという考え方を持っています。
これを作品に置き換えるとだいたい、だいたいですがこう。
この、ゆず子と夏央の問題は初期に明確に描かれ、何をするにもこれが行動原理になるキャラクターの行動指針になっているんですよね。なので、合間合間で発生する諸問題への取り組みの姿勢や、キャラクターの考え方が一本化されていて、違和感がない。つまりキャラクターたちが意思を持って成長し、G-girlを目指す姿がよく描かれている。
また、この行動指針のわかりやすさ、明快さがありながらも「ゆず子が何を考えているのかわからない」という謎と、時折回想されては夏央に精神的なショックを与える過去の謎が段々と判明していく様は、8巻という巻数の中で絶妙な緩急をつける良いエッセンスになっていたと思います。
これがこの作品の面白さの正体だと自分は思っています。そんなところで鉄風のレビューを終わらせていただきます!
あれ?「これ男同士だったらBLだよね」ってめちゃくちゃ強い言い訳を手に入れてしまった気がする……。