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藤井風対Vaundy論争をどうにかしたい
皆さんはスティーブンジェラードとフランクランパードというサッカー選手をご存知だろうか?
2000年代から10年代初頭までのイングランドサッカーを代表するミッドフィルダーであり、両者ともに強烈なミドルシュートを武器にしており、リバプールとチェルシーというビッグクラブの顔として活躍した。
そんな多くの共通点を持つ二人は、常に比較されるという宿命を持っていた。そしてイングランド代表で共にプレーすると、似た性質が災いとなったのか、びっくりするくらいプレーが噛み合わなかった。共存が不可能だとわかると、どちらをフィールドに残すかでまた比較されることとなった。
このように似たような性質を持つものは、時として同族嫌悪的な発想に基づく比較をされ、結果としてある種の競争となるわけだ。そして最近の邦楽シーンで比較される宿命となったのが藤井風とVaundyの二人なのだ。
新時代を担う恐るべし子達
藤井風とVaundy
次のHondaのCMは彼らだ!と言われ始めてから早1年。
なにかと音楽好き界隈の間でも2020年のネクストブレイク候補として昨年末から騒がれてきた両者。まさか去年の今頃は瑛〇とかいう謎の好青年や、〇OASOBIとかいう謎のボーカロイドの進化版とか、N〇velbrightとかいう正真正銘の謎の方がこんな大躍進するとは思ってもなかったよ。やっぱ音楽好きの予測はあてになりませんね笑。
とはいえネットとかでサーチをかけても何かと一緒くたにされることが多いのはなぜなのか?考えられる両者の共通項を紐解いていこう。
1.SNS展開でのし上がったニュータイプ
一番最初に思い浮かべるのはまあこれだろう。
まずVaundyはInstagrmやTik TokなどのSNSなどで流れた動画広告をきっかけにバズを大量発生させた。とはいえただ動画広告を流しただけではそこまで引っかかるとは限らないので、やはり彼が作る曲が大衆に対して何か引っかかるフックがあったのかもしれない。
一方藤井風はYouTubeでの活動から出てきたアーティストだ。独特のピアノアレンジを施したカバー動画で大体のファンベースを築き上げ、そしてオリジナル曲にはシュールなタイトルをつけることでバズを起こした。そしてこちらも曲のクオリティの高さが、口コミで広まったタイプでもある。
2.SpotifyのEarly Noiseに選ばれている
世界で2億人以上のユーザー数を誇る音楽ストリーミングサービスSpotify。その中で2017年から始まった、ブレイクが期待される新人をフックアップするプロジェクトこそEarly Noiseである。
過去にはあいみょん、Official髭男dism、King Gnuといった今じゃサブスク時代の覇者として知られる3組を始め、DYGL、SIRUP、中村佳穂、カネコアヤノなど玄人受けのいいアーティストまで、今では人気実力においてトップクラスの若手たちの登竜門的なプロジェクトの意味合いが強い。
そして今年のEarly Noiseにも両者は当然のごとく選ばれている。いやぁこう見ると既にHondaのCMに抜擢されたFriday Night Plans、イギリスのロックバンドThe1975が所属するDirty Hitというレーベルからリリースしたアルバムが好評だったRina Sawayamaとか有望株ぞろいですね。まさかこんなかで一番出世するのがノー、、、
3.デビューアルバムのリリース時期がほぼ同じ
藤井風の「HELP EVER HURT NEVER」
Vaundyの「strobo」
どちらも話題になりましたよねぇ。確かに収録曲のクオリティは高いし、君たちホントに新人???とはなりますよねぇ。
そんな両者のデビューアルバムは前者が5月20日、後者が5月27日といった具合に1週間のブランクでリリースされた。両者が好きなファンからしたらマジで得でしかないよねこの1週間。ちなみに筆者の場合この1週間の間に位置する5月22日にThe 1975の「Notes On A Conditional Form」がリリースされましてね、いやあほんと余韻に浸りまくりな1週間を過ごせたわけなんですよ。え?お前の話なんかどうでもいい?
4.ブレイクのきっかけとなった曲がネオシティポップ
つまるところ一番の原因はこれなんですよ。彼らのブレイクのきっかけとなった「東京フラッシュ」、「何なんw」、どちらもシティポップライクな曲調で、近年のネオシティポップムーブメントにうまく乗れたっていうのが大きいんですよね。
ネオシティポップが醸し出すハイセンス感あるおしゃれな曲調に加えて、この時点で両者ともにサブスク上に存在していたオリジナル曲はこれしかなかったから、シティポップに精通した音楽好き界隈でも最初のオリジナル曲でここまでやれるのかみたいな驚きも相まって、さらに期待値が上がっていったところはありますね。
ここで少し小話
この記事の構想自体は結構前から思いついていたのだが、じつは懸念事項がいくつかあり書くのを躊躇していた。正直にぶっちゃけると自分はVaundyに対しての評価がつい最近まであまり良くなかった。
なぜかというと先述のデビューアルバム「storobo」の収録曲の大半が既存リリースされていた楽曲で占められており、新曲も実質ちゃんとした歌ものが3曲と、口が悪くなるとお前アルバム作んの舐めてんだろ?みたいに思っちゃいまして笑。
まぁ他にももろもろ理由はあるんですけど、ここで話すときりがなさそうなんで割愛します。一方藤井風に関しては一貫してべた褒め状態で、多分この状態で記事を書いてもかなりアンバランスな記事になるんじゃないかなと思ってずっと構想を寝かしていたわけだ。
で最近自分が所属するフットサルサークルの方でたまたま藤井風とVaundyの話になって、そこで興味深いことに気づきましてね。その時話してたサークルの同僚と後輩から「Vaundyの方が身近で聴きやすい印象はあるかな。曲のバリエーションも幅広いし。」という旨の発言を受けて、「さらにアルバム通しではあんまり聴かないなぁ最近の曲」とも言われましてなんとなく腑に落ちたんですよ。
彼らのファン層は根本的に違うから、それぞれの音楽の聴き方にギャップが生じているのではないか?ということだ。
偏見チックな言い方になってしまうが、藤井風の初ライブの観客やSNSのリプライなどを伺うと、Vaundyのファン層よりは年齢は上な印象がある。逆にVaundyはインスタグラムやTik Tokなど、若者がメインターゲットのアプリケーションを使う層から支持を得たため、ファン層は藤井風のより低い印象はある。
そう考えると自分が当初Vaundyに対して拒否反応を示したのも納得できる節があった。自分は音楽を聴くうえで完全にアルバムありきの聴き方をするタイプの人間であるため、しっかりアルバムを作り込んだ藤井風に好印象を持ち、逆にプレイリスト的なアルバム作りをしたVaundyに真逆の評価を下したのが納得できたのだ。
そんなわけで現在Vaundy君に対する感情が限りなくフラットに近い今なら、それなりに正当な分析ができるのではないかと思いこの記事を書いている。そして早々に結論を書いてしまうと、この二組は比較するほど似てねぇという結論にたどり着いた。
動のVaundy
Vaundyの強みはどこまでもフットワークが軽い所、要するにかなりデジタルエイジ的な資質の強い現代っ子なアーティストなのだ。
ストリーミングサービスの普及によって、若い世代のリスナーがより様々な音楽にアクセスがしやすくなった。そのため自分が今まで聴いてこなかったような曲も興味本位で聴けるようになったため、ジャンル分けによるカテゴライズという概念は崩壊しつつある。海外に目を向けてもビリーアイリッシュやLil Nas Xといったカテゴライズの判別が難しいZ世代のアーティストたちが躍進していることがこの事実を物語っている。
そして自分の好きな曲だけで構成できるプレイリストの存在は、アルバムによって芸術評価が下される時代を形骸化させようとしつつあるのも悲しい事実である。
Vaundyは年齢的にもまさにビリーアイリッシュ同様Z世代のアーティストだ。そして彼がこれまでリリースしてきた楽曲からも明らかな通り、明確にカテゴライズするのはとても難しい。
「不可幸力」のように今どきなネオシティポップとシンセファンク的な楽曲から、ヒップホップのループ感が心地良い「Life Hack」、邦ロックのようなドライブ感のある「怪獣の花歌」まで、そのクロスオーバーな姿勢はやはり今どきな感覚ではあると思う。
そして先日発表された10年代シティポップのスターNulbarichとの共作「ASH」、こちらはヨルシカのn-bunaのリミックス音源もあるなど、こういうコラボレーションからもフットワークの軽さが伺える。他にもLauvのリミックスに参加したり、松尾太陽への楽曲提供なども行ったりもしている。
またタイアップにも積極的で活動期間は現時点で1年弱ではあるが、既に「Bye Bye Me」、「灯火」がドラマ主題歌、「不可幸力」がSpotifyのCMソングとして起用されている。ちなみに「灯火」はFODで配信された「東京ラブストーリー」の主題歌で、主演は伊藤健、あっ、、、、、
そしてその身軽さは詩にも出ている。「僕は今日も」という曲があるのだがこれの歌詞が結構生々しい内容となっている。多分こういった部分でもオープンに広げられるところも含めて、彼が若い世代から支持を得られている要因なのかもしれませんね。
静の藤井風
一方の藤井風はVaundyとは真逆のスタンスのアーティストである。彼の場合はジャンル分けもおそらくJ-R&Bの範疇で収まるし、YouTubeを通したコミュニティを形成しているという点を除けば、音楽活動そのものは意外と堅実な姿勢である。
またVaundyがその身軽さを活かして自分から楽曲を売り込むのに対し、藤井風は自分からは動かない。むしろ無関係のクリエイターがメディア上で彼を賞賛することが多いのだ。主要音楽メディアに彼の名が登場するときは、Mステの加藤ミリヤ、関ジャムのヒャダイン然り口コミ的な感じでその名が広がっているのだ。彼が自分から動いたのは恐らく報道ステーションの特集のみだろう。
それはもう既に彼の音楽観がかなり完成された状態に近いのが影響していると思う。だからこそ無闇に動かずとも、楽曲の持つ力のみで周囲を突き動かせることが藤井風にはできる。藤井風については別の記事で詳しく書いているので、是非そちらを読んでもらえれば嬉しいものです。
総括
動のVaundy、静の藤井風
両者が違う性質のアーティストであることはなんとなくだが理解できただろうか?
とはいえ少し藤井風寄りな印象がある文になってしまったのでここで暫しの言い訳を。
Vaundyは確かにまだ若さゆえの荒削りな要素があるのは否めない。実際YouTube時代も含めると藤井風とは音楽活動歴はガッツリ差があるわけで、やっぱりそういうとこも含めて比較するのは少々酷な部分はあると思う。
しかし彼自体のポテンシャルは確かにあるし、今後自らの音楽観をしっかりと確立出来たらきっと凄いアーティストになれると思ってはいるので、まあまあ長い目で見ておこうというスタンスを自分は取りたいと思う。
藤井風に関してはペーペーの自分がなんか言わずとも、今後は約束されたようなもんなのであまり触れないでおきます。
両者が今後どのように日本の音楽シーンを盛り上げていくのか非常に楽しみである。