OKコンピューター攻略から考えるRadiohead論
どーも三代目齋藤飛鳥涼です。最近の出来事といえばキングクリムゾンのロバートフリップに関するツイートが1万いいね来ましてですね。「あれ?俺インフルエンサーになったんじゃね???」と調子に乗りまして、次の日ぐらいに生田絵梨花がSICKO MODEのビートチェンジに驚くっていうくそしょーもない動画投稿したんだけど、これが見事ダダ滑りでしてね、目が覚めたよって話。
バズらない生田の話は置いといてですね、先日イギリスのロックバンド"レディオヘッド”が2016年のサマーソニックでのライブ映像をユーチューブに公開しましたね。
Twitterのタイムラインも大盛り上がりで、見事トレンド入りまで果たす素晴らしいライブだったんだけど、結構こんな意見がちらほら散見されたんだよね。
実はレディオヘッドのよさがよくわからない。
わからなくもないその気持ち。みんなが絶賛する割にとっつきにくいところあるもんな。今回の記事はそんな人たちにも楽しく暗黒盆踊りを聴いてもらうために書いているぞい。本当に大丈夫?と思っている奴ら安心してくれ。
俺はほんの数年前までレディオヘッドが大嫌いだったんだ。
14歳の夏とOK Computer
リアムギャラガーを崇拝するあまり、行きつけの床屋で「95年のグラストンベリーの時のリアムギャラガーと同じ髪型にしてください!」という注文をして困らせていた中学2年生わい。当時はワンオクやラッドといった流行りの邦ロック、あとはビートルズ、オアシスといった王道UKロックと親父の持ってた70年代の洋楽のアルバムをずっとループするような音楽ライフを送っていた。そんなある日近所の本屋で読んだ名盤ランキング的な本に「これぞ時代を変えた大名盤!!!」的な感じの見出しで大々的に取り上げられていたアルバムを見つける。それが奴との出会いだった・・・
1997年発表レディオヘッド3枚目のアルバム「OK Computer」だ。当時レディオヘッドは名前だけかろうじて知っている状態で、トムヨークという得体のしれない男が率いるバンドというイメージだった。さらに調べればこのアルバム各所で絶賛の嵐で、これは聴くしかないと思い購入を決断。学校帰りに最寄り駅にあるCD屋で輸入盤を1000円で購入。胸躍らせながらチャリこいで帰宅。帰ってすぐにCDプレーヤーに入れたわけ。
結論から言います。4曲目で脱落しました。
まず暗い!そんでもってトリッキーで難解な展開とトムヨークの嘆きのようなボーカル!さっぱりわからん!!!なんでこんな評価が高いの!!!!!
まぁそんなわけでいとも簡単にレディオヘッドに挫折した中2の自分にさらに追い打ちをかける出来事が襲います。フジロック2012ですね。この年のヘッドライナーって今でも好きなノエルギャラガーと再結成したストーンローゼスだったんですよね。翌月の音楽雑誌ではどちらかが話題の中心なんだろうなとファン心を輝かせながら、また近所の本屋に行ったわけさ。
結論から言います。話題の中心はもう一組のヘッドライナーであるレディオヘッドでした。
WHY!!!!!
もうアイデンティティ崩壊するレベルで謎よね。自分が4曲で脱落したバンドが音楽シーンの頂点に君臨するんだぜ。もはや自分の感性を疑うしかないじゃん?やがてどこ行っても絶賛しかされないレディオヘッドを嫌うようになります。それからの音楽ライフはひたすらレディオヘッドを避ける毎日でしたね。
テニス部のイケメンとレディオヘッドを受け入れる話
高2の時に仲がいいテニス部の超絶イケメンのクラスメイトがいて、そいつ楽器やってたから結構音楽詳しかったんだよね。よく一緒に音楽の話で盛り上がったりしたんだけど、ある日の放課後に超絶イケメンからとんでもない一言が飛び出します。
「こないだOK Computer聴いたんだけどあれかっこよすぎじゃね?」
ええええええええええええええええええええええええ
マジでビビった。シーブリーズのCMに出てもおかしくないあの端正な顔立ちから、忌まわしき絶望のサウンドトラックの名前が出てくるなんて。しかも続けざまに「お前なんか他のおすすめのアルバム知ってる?」と言ってくるし。そこで素直に「嫌いだから知らない」と言えばいいものの、謎の負けず嫌いが発症して「BendsとKid Aがいいよ」とか聴いたこともないのに嘘つく始末。その後急いでTSUTAYA行って2枚借りたよね。とりあえず話合わせられるくらいには予習しようって感じで。
結論から言います。あまりのかっこよさにドハマりしました。
え?レディオヘッドこんな凄いバンドだったん?今まで避けてきた期間返せよ。トムヨーク凄すぎわろた。てか来年新作出んの?買お。という感じで衝撃を受けたわいはこの後どっぷりとレディオヘッドという広大な沼にハマるわけなのです。ありがとうイケメン。
レディオヘッドとは音を楽しむバンドである。
沼にハマってみてわかった結論である。いまさら「レディオヘッドはアルバムごとに~」みたいな話はあえてしない。「トムヨークの書く歌詞は~」なんて話もあまりしない。そんなのはこれからレディオヘッドを聴こうという人間かにはちょっとした知識に過ぎない。ただレディオヘッドを聴くうえで大事なことはただ一つ。それは純粋に音を楽しめということ。自分は専門的な知識を持ち合わせていないので伝わり辛いかもしれないが、レディオヘッドの最大の強みはそのタイミングで鳴らされるべき音を確実に鳴らすことが出来るという点だ。サウンドの鬼なのだ。そこでこれからレディオヘッドを聴くという人には必ずこの二枚から聴いてほしい。
まずは95年発表の「The Bends」だ。「OK Computer」の一つ前のアルバムである。この作品は全編ギターロックが展開されており、キャリアの中でも比較的ポップな作品であるため聴きやすい1枚だ。ここで注目してもらいたいのは、2作目の時点でレディオヘッドはギターバンドとしては既に完成されていたということ。
トムヨークの卓越したソングライティングもさることながら、トム、ジョニー、エドのトリプルギターが織りなすサウンドは圧巻。「The Bends」「Just」の荒々しいギターも、「Street Spirit」の乾いたアルペジオも、全てあのサウンドだから美しいわけなんだわ。「Fake Plastic Trees」の出だしのじゃん♪ってさりげなくなるアコギもあのじゃん♪じゃないとダメなんだよね。そんでもって捨て曲一切なしの12曲入り、さらにCDで買うとボートラに「Killer Cars」が付いてくるんだぜ。ジャパネットも顔面蒼白な出血大サービスですよ。
続いて聴いてほしいのは2000年発表の4作目「Kid A」だ。俺が人生で聴いた中で生涯ベストの一枚はこれ。レディオヘッドがサウンドの鬼たる所以はこの一枚にありと言っても過言ではないくらい凄いアルバムだ。
今作では大胆にエレクトロニカを取り入れたことで、無駄を削いだソリッドで冷たい質感の一枚になっている。このアルバムの楽しみ方はシンプルに一つ一つの音を吟味してくれってこと。トムの加工したボーカルも、「The National Anthem」の地を這うようなベースも、「Optimistic」の火山の噴火のようなドラムも、全てあの音だから説得力が増しているし、逆にあの音じゃないとダメなんですよ。それくらいサウンドが鋭利に研ぎ澄まされている。よく「Kid Aはジャズだ」という意見は言い得て妙な例えだと思う。
OK Computerを攻略する
以上の2枚を聴いたうえでレディオヘッドがどんなバンドかは理解できたと思う。彼らはそもそものギターバンドとしての土台がしっかりしているということ。その土台をもとに変拍子やエフェクト、サンプリングといった要素を導入しても、絶妙な組み合わせで楽曲を構築することが出来る高偏差値音楽集団であるということだ。
とはいえ「OK Computer」が難敵であることには変わりはない。こないだの関ジャムで収録曲の一つ「Paranoid Android」が特集された際にも、終始「気持ち悪い」の嵐で、サバンナ高橋に至っては「二度と聞かない」と言い放つ始末。よりによってあの曲をチョイスする川谷もどうかしているが、それくらい「OK Computer」が放つ独特の空気感は多くのリスナーを天秤にかけてくるのだ。
このようにとても一般のリスナーには受けそうもない「OK Computer」が現代ロックシーンの聖典に成長してしまった要因には時代背景が絡んでくることを留意したい。このアルバムがリリースされた97年のイギリスはブレア政権のもと「クールブリタニア」と呼ばれる国家規模のカルチャー戦略を展開していた。ユアンマクレガー、アレキサンダーマックイーン、デヴィッドベッカム、「ハリーポッター」といった英国産のスターが大量に排出された時期だ。その政策の中心を担っていたのがまぎれもない音楽、そう「ブリットポップ」と呼ばれるムーブメントである。ロンドンの中流階級出身でイケメンでユーモアがあるブラー。マンチェスターの労働者階級出身でDQNだけど美しいメロディが売りのオアシス。この天性の2大陽キャバンドが率いるブリットポップのブームにみんなが飽き飽きしていたちょうどその時、ブームから仲間外れにされた陰キャバンドレディオヘッドが、負のオーラをまとわせた「OK Computer」をリリースしイギリスの見ならず世界の頂点に君臨してしまった。「OK Computer」は時代が渇望していたサウンドであり、雑に言えば陰キャが陽キャに勝ってしまった記念碑的作品なのだ。
バックトゥザフューチャーでマーティの親父が不良の親玉に勝つシーンで感動するのと似たような現象と同じである。ここで時代背景の部分で評価ポイントがぐっと上がったことはおわかりいただけただろうか。
続いて内容なのだが、このアルバムを大絶賛する人はよく「OK Computerは聴きやすいからおすすめだよ」と発言することが多い。わからなくもないけどこの発言こそ「OK Computer」攻略のカギだと思う。たしかに「OK Computer」はポップで聴きやすい。あくまでも他のポストロックやアートロックの中ではという話だが。元々が音楽ヲタクチックな要素が強いポストロックやアートロックというジャンルにおいて、このアルバムを最初から絶賛する人はおそらくそれなりに難しめの音楽を経験したうえでほめていることが多い。俗に言う音楽ヲタク間同士の認識のズレと、レディオヘッドが高尚な音楽だと勘違いされてしまうという2つの問題を抱えてるという意味でも、今作が問題作であるという確固たる証拠だ。それと「OK Computer」って冒頭の4曲が掴みどころがなく暗いという点が多くの脱落者を生んでる原因だと思うんですよ。「Airbag」のトリッキーなギターや中々曲が終わってくれないとこ。「Subterranean Homesick Alien」の浮遊感。ただこの2曲よりもたちが悪いのが
こいつら。まず「Paranoid Android」は6分半に4つの展開っていうプログレ調の楽曲だが、一番最初のパートが陰気な感じがプンプン匂ってて、しかも展開がコロコロ変わるからリスナーを置いていきかねない危険性がありますね。それとこの曲の罪深い点は「OK Computer」を語るうえで一番最初に出てきがちだということ。川谷と同じパターンだね。確かにこのアルバムの根幹を成す楽曲ではあることは否めないが・・・。そんな感じで冒頭3曲の圧倒的な情報量に疲弊した体にとどめを刺しにかかるのが「Exit Music」だ。絶望という文字を具現化したメロディはまさに出口へ誘導しているかのよう。
大体の人間が4曲目の時点で「OK Computer」の空気に飲まれてしまい、結局このアルバムの凄みを理解できないままに終わるだろう。だが「The Bends」「Kid A」を事前に通過してきたであろう読者の皆さんならそんなことにはなっていないだろう。「The Bends」で完成させたギターロックというシステムの可能性をさらに拡張させ、「Kid A」のように一つ一つの音レベルで緻密なアンサンブルを構築させようと進化している途中経過こそ「OK Computer」というアルバムの最大の特徴なのだ。さらに「Kid A」が完全に脱ロック状態であるのに対し、まだロックというフォーマットを維持できる点も評価を高めてる点だ。語弊のある言い方になるかもしれないが、レディオヘッドが意識的にあの不愉快なサウンドを鳴らしていると考えると、このアルバムの音の構築度の高さは驚異的だ。その中でもジョニーグリーンウッドを中心としたトリプルギターのアンサンブルはもはや気品すら感じる美しさを感じる。
まぁ長々と書いたが、とりあえず最初の関門を突破出来たらそこにはご褒美が待っている。「Let Down」と「Karma Police」の2曲である。「Let Down」は冒頭のアルペジオから始まり、後半の川のせせらぎのように鳴る電子音まで美しい一曲だ。「Karma Police」は一大アンセム。その後の某ドMバンドこと〇ラヴィスや、某酸欠陽キャバンドこと〇ールドプレイといったいわゆるレディオヘッドフォロワーに与えた影響を考えると凄い名曲だ。
ここまで来たらもはや怖いものなしだろう。あとはいら立ちの起伏のような一連の流れにうまく乗っかればいいのだ。「Karma Police」の余韻を瞬間冷却のように冷ます「Fitter Happier」。トムヨーク自身が出来るだけ不愉快に聴こえるよう作ったと話した騒がしいナンバー「Electioneering」。ストリングス、電子音、ノイズ、不協和音ととにかくダークな「Climbing Up The Walls」。このダークな流れに指す一筋の明るい光「No Surprises」。歌詞は確かに本人の言うようにポジティブな要素はあるけど、曲調は全くラッキーじゃない「Lucky」。最後はメランコリックな「The Tourist」で、壮大なサウンドの旅も終了。ご搭乗ありがとうございましたって感じでアルバムは終わる。
いかがだっただろうか。この「OK Computer」もまだまだレディオヘッドという広大な沼のなかでは浅瀬に過ぎない。もはや宗教の域に達し始めた近年の「A Moon Shaped Pool」や、トムヨークのソロにアトムズフォーピース、もっとディープなとこで言えばドラムのフィルのソロアルバム2枚というハッピーセットまで付いてくるから旅は長いぞ。最後に「この曲を「OK Computer」に収録したら売れすぎてしまう」という理由で未発表になってしまった一曲を紹介してこの記事を終わりにしようと思う。それじゃさようなら~。
(ちなみに「OK Computer」は780万枚のメガヒットを記録しました)