プラスチックハンター1「巨人」
※これはフィクションです。
1、巨人
いきなり巨人みたいなカミナリが鳴った。
世の中がうまくいかなくなる大きな塊の音だった。
「うわーめっちゃ雨降ってきたー」と、私は嬉しそうに外を眺めた。
リビングへいくと、閉めたほうがよさそうなほど、ベランダの窓が大きく開いていて、
雨が入り込んできそうだと思ったけど、
そこまで歩いていくのをやめた。
数日前、私はリフトの練習中に足を滑らせて、
腰と背中に大きなカミナリが鳴り、大きな塊が私を四六時中、痛めつけている。
テレビをつけると、
海外ニュースの映像と、今つけたような同時通訳の女の人の日本語の声が流れた。
赤くて斜めになっているBREAKING NEWSという文字の下に
“PLASTICS BECAME HIGH RARE VALUES”
という見出しが出ている。
「え?なんでプラスチックが?」
私は思わず声を出した。
外国語が話せるというのは、時にとてもスピーディーだったりする。
訳を待つ前に自分で理解できるからだ。
時々、驚くタイミングが人と異なる。
映画館で洋画を観ている時によく起こる。
字幕と俳優のセリフが若干ずれていて
俳優のセリフに驚きの発言があると、字幕が出る前に、驚いてしまうのだ。
昔、バラエティー番組で、
日本人のモデル志望の男の子2人が、パリコレデビューを目指すコーナーがあった。
1人目の男の子は、長身で手足も華奢で長く、モデルっぽい素質があった。しいて言うなら、顔が縦に長くて大きかった。
2人目の男の子は、背が低くて脚も長いとは言えず、坊主のさえない感じだった。しいて言うなら、目がぱっちりでまつげが長かった。
番組では、その男の子達が日本からパリへ発つところから、その緊張のひとときを追いかけ、パリでオーディションを受ける模様を密着していて、
その日のクライマックスはオーディション結果の発表だった。
結果を発表するフランス人の女性は2人の前でこう告げた。
「背が高いほうが1着で、背が低いほうが2着です。」
私は、え!と声を上げた。
絶対に背が高いほうが受かって、背が低いほうが落ちると思っていたからだ。
しかし、その番組の字幕を見ると
「結果は、合計3着で、選ばれたのは…」となっていた。
そして、字幕ではまだどちらが合格したかわからない状態で、
番組はCMに入った。
CMに入るには良いタイミングだ。
結果がわからない人にとっては、チャンネルを変えずにCMが終わるのを待つだろう。
でも私は、CMに入る前に、結果がわかってしまった。
なぜなら、フランス語が話せるからだ。
良いか悪いかは別として、番組視聴者の大半がまだわかっていない結果を、
私はいち早くスピーディーに知った。
さて、
カミナリが落ちて雨が降るリビングのニュースの話に戻ろう。
“PLASTICS BECAME HIGH RARE VALUES”
は、直訳すると、
「プラスチックは希少価値の高いものになった」になる。
タダ同然でコンビニの袋として使われ、
部屋を見渡しただけでも、プラスチックがない視界などない。
この世はプラスチックで溢れていて、それはなんの希少価値もない。
なのに、このニュースの見出しは、一体なんだ?
コロナが世界を一変させ、雇用を失った人々の新たな人生が
始まろうとしていた。
カミナリが鳴った。
この世に大きな塊を落とすような音を響かせて、
巨人はこの世に降り立った。
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