バーチャルライブ配信スタジオ『ロケットスタジオ』、最先端のリアルタイム CG 合成システムでオンラインの世界へ新しい演出を提案
インターネットライブ配信やイベント中継を専門とするライブプロダクション『合同会社ロケッツ』は、同社として初めてのバーチャルライブ配信スタジオ『ロケットスタジオ』を東京・東銀座に開設した。同スタジオでは、インターネットライブ配信の新しい演出に挑戦すべく、放送やライブイベントの制作現場で高いクオリティが評価されているバーチャルプロダクションシステム『Zero Density Reality』を導入している。
ライブ配信に特化したバーチャルスタジオを開業
合同会社ロケッツ (以下 : ロケッツ) は 2010 年からインターネットライブ配信やイベント中継サービスを提供しており、年間 200 本を超えるライブ配信を行っている。クライアントの配信内容に合わせたプランニングから、イベントの規模に合わせた最適な機材の選定、スタッフィング、当日の現場オペレーションまで、撮影から配信までに必要な工程のトータルサポートを特長としたライブプロダクション会社だ。
ロケッツは、同社として初めてのバーチャルライブ配信スタジオ『ロケットスタジオ』 (東京都中央区築地) を 2023 年 4 月にオープン。約 100 平米の同スタジオには、幅 8m 、奥行き 4m 、高さ 3.5m のホリゾントが設置され、全面がデジタルグリーンで塗装されている。
照明を含む撮影から配信までに必要な機材が完備され、バーチャルプロダクションシステムには、放送やライブイベントの制作現場で高いクオリティが評されている Zero Density 社の『Reality』が導入されている。最新技術と機材を活用し、クライアントの撮影から配信までのワークフローを全面的に支える『ロケットスタジオ』を取材した。
インターネット配信ならではの自由な演出に着目、バーチャルスタジオの設立を決意
これまで数多くのインターネットライブ配信を手がけ、コロナ禍でも様々な企業の配信案件を支えてきたロケッツだが、徐々にオンライン上での演出に限界を感じるようになったと、合同会社ロケッツ 吉富 和博氏は話す。
吉富氏「新型コロナウイルスの流行後はインターネットライブ配信の需要が高まり、当社のお客様からも “ライブ配信ならではの演出” についてお問い合わせを受けることが増えました。そこからより自由でユニークな撮影背景や、オリジナリティのある演出をお客様に提案できないだろうか?と考えるようになり、 グリーンバックとバーチャルプロダクションシステムを取り入れた配信スタジオの設立を決めました」
CG 世界と現実をシームレスに融合、バーチャルプロダクションシステム Reailty を採用
ロケッツは、スタジオの設立に向けて各社のバーチャルプロダクションシステムを調べ始め、 2019 年に初めて Reality が実際に稼働しているデモの様子を見る機会があった。その際、フォトリアルな演出に衝撃を受け、 2022 年に Reality を導入した。
他メーカーのバーチャルプロダクションシステムと比較する中で、 Reality を選んだ理由について吉富氏に話を聞いた。
吉富氏「Reality が実現する写実的な世界が、他社製品とは比較にならないほどクオリティが高かったんです。特にキーイングの品質を見た時には『ここまでグリーンが抜けるのか!』と心を打たれました。 CG を合成しているはずなのに、実際にその場にいるような “リアル感” が Reality を選択した最大の決め手です」
撮影から配信までワンストップ ! リアルタイム合成を可能にしている機材構成
カメラ
デジタルシネマカメラ : Blackmagic URSA Broadcast G2 × 2 台
リモートカメラ : Panasonic AW-UE150 × 1 台
ライブスイッチャー : 外部のオペレーターが自由にスイッチャーを選択できるように、複数メーカーの製品が用意されている。
Panasonic KAIROS × 1 台
Blackmagic ATEM Constellation 8K × 1 台
Roland Pro A/V - V-160HD × 1 台
バーチャルプロダクションシステム
Zero Density Reality × 1 式
シンクジェネレーター
AJA GEN10 × 1 台
これまで同社が積み上げてきた経験を活かした機材が完備され、オペレーター陣のサポートも手厚く受けることができる。顧客は何も持たずに同スタジオへ来訪し、撮影・配信・収録の全工程をサポートしてもらえる環境が整っている。 Reality を中心としたシステムによって、“バーチャルスタジオでライブ配信“ を実現できるのが、同スタジオが持つ最大の特長だ。
リアルタイム合成と多機能を備えた Reality で、ライブ配信との相性の良さを実感
ロケッツは、 Reality を導入したことで、高度なリアルタイム CG 技術を使用した仮想スタジオ環境の構築を実現した。ライブ配信に特化したロケットスタジオでは、特にマッチしたソリューションだったと吉富氏は話す。
吉富氏「従来の撮影フローでは大がかりなセットを組む必要がありましたが、 Reality を使えば CG を使って自由に背景をレイアウト・変更できるので、コストや作業時間を削減できるだけでなく、演出変更の自由度も高めることができます。リアルタイムに合成処理を実行できる点も踏まえると、 Reality とライブ配信は非常に相性が良いと感じています。クライアントに新たな表現の可能性を提案できるようになったので、大変嬉しいです」
ロケッツでは Reality の合成品質だけでなく、ライブ配信の現場で最大限活用できる機能の利便性も高く評価されている。以下では、同社が特に制作現場で活用していると話す Reality の 3 つの機能を紹介する。
◾️ Reality Keyer (リアリティキーヤー)
Reality には、 4K HDR 対応の [Reality Keyer] が搭載されている。一般的なクロマキーヤーは、グリーンバックであれば緑 (ブルーバックであれば青) をキーカラーとして色を抜く。しかし、大抵は照明の当たり方などによって、明るい場所や暗い場所が存在するため、グリーンバック全体が単一の緑であることは稀である。そのため、キーカラーとなる緑は、ある程度ざっくりとした範囲の “緑” となり、このことが、被写体のディテールや足元の影を失う要因になるのだ。
対して、 [Reality Keyer] は、リファレンスとなる 3D イメージとカメラからの映像を 1 ピクセルごとに比較し、キーイングを行う “イメージベースキーヤー” だ。処理はすべて 16 ビット浮動小数点演算で実行され、 4K HDR 4:4:4 にも対応する。これにより、足元の影や髪の毛などの細かなディテールを損なうことなく、キーイングを行うことができる。
◾️ ビルボード
Reality に搭載されている [ビルボード] 機能は、 3D 空間の中に配置可能な仮想的なモニターだ。通常、バーチャルではないスタジオで用いるモニターには LED が使用されるが、 LED はズームアップするとドットが目立ったり、モアレが発生したりと、見難い現象が発生する。 Reality のビルボードにはこの現象は発生しない。天気予報やプレゼンテーション、動画などの画像をネイティブ解像度で表示することにより、ズームアップなどの演出も自由自在だ。
◾️ プレイアウト
Reality の操作は、視認性と利便性に優れたノードベースのインターフェイスで行う。しかし、 Reality オペレーターにとっては便利なインターフェイスも、番組を進行する全てのスタッフにとって実用的とは限らない。前述のビルボードを出したり、バーチャルスタジオ内の特定のオブジェクトに対して特定のアクションを実行したりする場合、より簡便なボタンインターフェイスが必要になる場合がある。 Reality にはこの要望に応えるための [プレイアウト] というインターフェイスが備わっている。プレイアウト用のボタンは、 Reality 内の [フォームビルダー] と [アクションビルダー] で簡単に作成し、番組の進行に合わせて自由に配置することができる。
ロケッツは、企業の記者会見や新製品発表会、医療関係の学会、エンターテイメント関係の配信番組、スポーツ中継など様々なライブ配信を担当することが多いため、プレゼンテーションの資料やビデオ素材を CG 内のスクリーンに表示させるために、 [ビルボード] 機能が頻繁に使用されている。また、 [ビルボード] の制御には [プレイアウト] 機能を活用。これにより、オンエアグラフィックスとして使える点が気に入っていると話していた。
◾️ 社内オペレーターからの反応
Reality の検討段階では、”習得までの難易度が高そう” と社内で懸念があったものの、実際に導入時のトレーニングを受けた結果、想像以上に簡単にシステムを理解し、操作することができたと吉富氏は語る。
吉富氏「”ノードベースで構成” と聞いた時は使いこなせるか少し不安でしたが、基本的な組み方さえ覚えてしまえば、都度そこへ必要な機能・エフェクトを付け足すだけなので、ある程度簡単に触り始めることができました。現在当社では 3 名のディレクターが、 Reality のオペレーションも担当しています」
今後の展望 : さらなるスタジオ技術の進化・新しい演出方法の提案を目指して
すでに撮影から配信までワンストップに対応できるシステムを完備するロケットスタジオだが、これからさらにバーチャル演出を進化させるため、機材の追加導入を検討していると吉富氏は話す。
吉富氏「特に注目しているのはカメラトラッキングシステムの導入です。現在はトラッキングカメラとして Panasonic 社の『 AW-UE150 』を使用していますが、今後は stYpe 社の『 RedSpy 』や、 NAB Show 2023 で Zero Density 社から発表された『 Traxis Camera Tracker 』など、 Reality とカメラトラッキング製品を組み合わせることで、番組演出の幅をさらに広げていきたいと考えています。すでにたくさんの驚くような機能を見せてくれている Reality に、どのような新しいテクニックが追加できるのだろうと思うと、周辺機材の更新も楽しみです」
顧客からのニーズと技術の進化を見逃さず、バーチャルの世界をいち早く取り込んで撮影から配信までのトータルサポートを実現しているロケッツ。吉富氏の好奇心と期待が溢れる表情からも、ロケットスタジオが常に進化し続け、より創造的で魅力的な演出を提案し、オンラインの世界に新しいエンターテイメント価値を創造していく姿が想像できた取材となった。
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