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米国でネオバンクが育つのはなぜか?

この記事はカンム社のアドベントカレンダー2020の8日目です。

記事のネタがなくて困った、ということで、いつも通りチャレンジャーバンクの話をします。

米国の銀行業界構造

米国では、Fintechスタートアップが銀行免許を取得して銀行業に参入した英国と違って、Fintechスタートアップが地域銀行などと連携して、Bankingサービスを提供するスキームが主流となっています。

米国の商業銀行(日本で言うところの普通銀行)の数は、2012年と少し古い数字ですが、約6,000存在します。一方、日本の預金取扱機関数は500程度。以下のグラフを見ても、減少傾向にあるものの、依然として数が多いのが特徴です。

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出典:淵田 康之「変貌する米国銀行業界」 (野村資本市場研究所, 2014/7)

続いて、銀行資産全体に対して大手銀行が占める割合を見ますと、下図の左が上位3行、右が上位5行ですが、アメリカ(黄色線)は他国と比較してシェア割合が小さく、上位5位でも50%程度のシェアで推移しています。ただ、逆に言えば、残りの50%を5,000以上の金融機関で争っているとも言えるわけで、中小金融機関は激しい競争に晒されていることが分かります。

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出典:「革新的技術分野の推進に向けた施策および金融分野における RegTech/SupTechに関する調査報告書」(三菱総合研究所, 2020)

ここからが本題です。

中小銀行の機能分化

このような激しい競争環境において、各銀行は生存戦略として、商品開発・取引処理・販売という一連の銀行機能の中で一部の機能に特化する動きを進めることになりました。

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出典:沼田優子『米国金融ビジネス―金融先進国に学ぶ事業再編のヒント』(東洋経済新報社, 2002/3/1) p.23を参考に筆者作成

④のように、全行程を自社で一気通貫で行う大手銀行が存在する一方で、中小の金融機関は大手と同じ土壌で戦うのは厳しいものがあります。そこで①②③のいずれかの機能への選択と集中が進み、

① 商品開発に特化して販売機能を提携先に委託する銀行
② 取引処理を担う黒子役に徹する銀行
③ 営業に特化し、複数銀行商品の販売を行う銀行

という区分で分業化が進みました。

ネオバンク

ネオバンクはこの機能分化構造に綺麗にハマりました。

銀行の機能分化が既に存在していたため、ネオバンクは③の販売機能、具体的にはアプリ開発とマーケティングに特化して、残りの①②の機能は提携先の銀行やプロセシング・ベンダーに任せることで、低コストで銀行サービスを提供することができました。

ネオバンクの急速な拡大は2015年以降で、スマートフォン拡大の時期と重なります。ネオバンクはアプリベースでスマホ最適のUI、マーケティングを行うことで、ミレニアル世代を中心に急速に顧客を獲得することに成功しました。ネオバンク最大手のChimeは利用者数800万人、その他数百万単位で利用者を獲得しているネオバンクがいくつも出てきています。

一方で、銀行業免許やシステム開発など重たい部分は外部パートナーに任せることでスピーディかつ低コストで事業参入ができ、サービス改善や顧客獲得に注力できた、というわけです。

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Chimeのウェブサイトのフッターにある小さい文字をよく読むと、銀行サービスは FDICの預金保険対象である The Bancorp Bank と Stride Bank により提供されている、と書かれています。

Banking services provided by The Bancorp Bank or Stride Bank, N.A., Members FDIC.

メディアではフロント機能を担うChimeなどのネオバンクが注目されやすいのですが、それを支える黒子的なプレイヤーの存在が必要不可欠なのです。

ネオバンクを支える黒子的存在

黒子的プレイヤーの一例として、Green Dot Bank (GDB) を紹介します。GDB はカリフォルニアにある地方銀行です。

ビジネスモデルとしてはBaaSモデルを米国で最も古くから採用している企業の1つです。主なサービスとして、プリペイドカードの発行や同カードの口座管理サービスの提供、提携先の要望に応じた決済アプリケーションの基盤構築を行っています。
同行のBaaSとしての取り組みは、2004年に「アンバンクトが金融サービスにアクセスできるように」という趣旨で、米国大手の小売りチェーンWalmartと提携したことが始まりです。また、2012年にはデジタル戦略としてモバイルバンク “Go Bank”を設立し、独自の銀行免許を取得しています。その後2015年には自行のBaaSモデルの確立を発表し、Uberとは2016年に提携を開始し、Uberの金融サービスの中核的な役割を果たすようになりました。他にも、本稿執筆時点で、Uberを始め、AppleのApple Cash、Stashなどに向けても基盤を提供することで、累計で500万口座以上が開設されています。

出典:「Uberの金融サービスを裏側で担うカリフォルニアの地銀」(マネーフォワードFintech研究所ブログ, 2019/11)

GDBは自行で顧客を抱える一方で、Uberなどの多くの顧客を抱える事業者に対して銀行機能を提供することで事業を拡大しており、今でこそBaaSがもてはやされていますが、20年近くBaaSモデルで事業を拡大してきた銀行です。Uber以外にもロボアドのWealthfrontや、デビットカード決済で株式がもらえるStashなどの新興Fintechとも提携しています。

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GDBのBaaSのウェブサイトを見ると、以下のような銀行の各機能が、まるでECサイトの商品のように並べられており、これはよく言われている銀行のアンバンドルそのもので、事業者が自社に必要なものだけを選んで、API連携できるというわけです。最近ではこういう類のものを "composable banking"  と呼んだりしますね。自分たちで組み立てる、といったニュアンスがあります。

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出典:Case Study 4 (Green Dot Banking)

以上、簡単ですが、ネオバンクが育つ背景にある銀行業界の機能分化構造について紹介しました。ネオバンクとBaaSは切っても切れない関係にあるということがお分かり頂けたかと思います。

有名どころでは、Goldman Sachs もBaaSは本腰を入れていますし、つい先日(2020/12)にStripeもBaaSパッケージを発表しました。

このあたり、今回お話した銀行業界の構造も含めて考えていくべき領域かと思いますので、少しでも参考になれば嬉しいです。

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