Withコロナ時代のアジアビジネス入門⑳「なぜ、菅首相はベトナムを初外遊先にしたのか」@梅田邦夫・前ベトナム大使ONLINE講座(1)
菅義偉首相は10月中旬に就任後初の外遊となるベトナム訪問に向けて準備を進めています。なぜ、菅首相はベトナムを初訪問国に選んだのでしょうか。背景には最も信頼できるパートナーとしてのベトナムの存在があります。そのベトナムの歴史は中国への抵抗の歴史であり、指導者や国民に根強い対中警戒感が存在しています。
毎日アジアビジネス研究所は梅田邦夫・前駐ベトナム日本国大使を講師に迎え、「ベトナムが日本にとって重要になった3つの要因」をテーマに3回シリーズでONLINE講座を行います。第1回講座「政治からの視点:激変する東アジア地域の安全保障環境と最も信頼できるパートナー(自然の同盟関係)」を10月9日に開催しました。
安保環境、人材、投資面で重要国
冒頭、梅田氏は菅首相がベトナムを初の外国訪問国にした3つの理由をあげました。
(1)2012年以降、東アジアの安全保障環境が激変し、ベトナムは日本や米国にとって最も信頼できる存在になった。
(2)人口減少・労働力不足の日本の最大の貢献国はベトナムである。2016年、日本におけるベトナム人の技能実習生数は中国人を抜いてトップになった。
(3)ベトナムの経済は歴史的な発展を遂げ、2017年、2018年の国別投資額で日本は1位となった。コロナ禍でサプライチェーンの見直しが行われ、ベトナムは最も注目される国になった。
無用な摩擦を生まない対中外交
次に、梅田氏はベトナムの歴史について「約千年に及んだ中国支配から独立し、1887年フランスの植民地なった」と述べたうえ、ベトナムは独立を維持した約950年間に中国から15回攻撃を受け、過去50年間でもベトナムと中国は3回(1974年、79年、88年)戦火を交えていると説明。ベトナムの歴史は中国への抵抗の歴史と指摘しながらも、5G、華為技術(ファーウェイ)、一帯一路、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の対応を例にあげ本音と建て前をうまく使い分け、出来るだけ無用な摩擦を生まないようにしたたかに対中外交を展開していると語りました。
中国によるASEAN分断化
梅田氏によると、中国は2012年に南シナ海のフィリピン排他的経済水域(EEZ)内のスカボロー環礁の実効支配確立した以降、中国による東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断化を進めているといいます。特に2012年11月の習近平氏が共産党書記長就任後は、自国の国益をむき出しにした対外活動(帝国主義的行動)を取るようになっています。中国の動きに対し、2019年3月にポンぺオ米国務長官がフィリピンに対し、「南シナ海でフィリンピンの軍、航空機、公船に対する武力攻撃があれば相互防衛義務が発動される」と約束。ポンぺオ長官は中国の「九段線の主張」を国際法違反であると初めて明言しました。梅田氏はこうした南シナ海での動きを通して中国の海洋進出によって東アジアの安全保障環境は大きく変化していると言及しています。
世界有数の親日国で戦略的利益を共有
最後は日越関係です。梅田氏は「ベトナムは世界有数の親日国である」と強調したうえで、航行の自由、法の支配、米軍の存在、自由で開かれたインド太平洋構想など戦略的利益を共有していると述べました。ベトナムから学ぶべき教訓として、中国に対する「危機管理意識」、投資、人材採用などをあげました。
3回目の元寇がなかったのはベトナムのお陰「5つの感謝」
私が面白かったのは「ベトナムへの5つの感謝」です。
(1)13世紀日本は蒙古の攻撃を2回(1274年、81年)受けた。3回目がなかったのはベトナムのお陰(元のベトナム侵攻の失敗)
(2)国連安全保障理事会改革(2005年)。G4決議案、中国・韓国が反対運動、ベトナムとシンガポールが最後まで日本支持。
(3)中国のレアアース対日輸出禁止措置(2010年)。ベトナムによるレアアース共同開発提案。
(4)東日本大震災(2011年)。国を挙げての支援。
(5)TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、2017年APECダナン首脳会議)。
梅田氏は故ファン・フィ・レイ・ベトナム歴史学会会長が日越関係について語った言葉を紹介しました。
「現下の国際情勢下、個人、国家、国際システムのいずれのレベルから分析しても、日本はベトナムにとって最も重要かつ信頼できるパートナーである。日本とベトナムとの間には『自然の同盟関係』が醸成されている」。
■毎日アジアビジネス入門 梅田邦夫・前ベトナム大使ONLINE講座「ベトナムが日本にとって重要になった3つの要因」
第2回 「人材からの視点」 10月16日(金)19:00~20:30=日本時間
https://peatix.com/event/1636935/view
第3回「経済からの視点」 10月23日(金)19:00~20:30=日本時間
https://peatix.com/event/1636942/view
■梅田邦夫(うめだ・くにお) 前駐ベトナム日本国大使
日本経済研究所上席研究主幹 、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
広島県出身。1978年外務省入省。外務省アジア大洋州局南部アジア部長、外務省国際協力局長、駐ブラジル日本国大使などを経て、2016年10月から2020年3月まで駐ベトナム日本国大使。