Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉔「ジャック・マー姿見えず<アリババ失速?>の背景(1)」@毎日アジアビジネス研究所
傘下の「アリペイ」アントグループの上場が延期
スマホを見ていたら、「ジャック・マー氏の姿見えず憶測招く テレビ番組収録に参加せず」(大手金融情報サービス・ブルームバーグ)のニュースが飛び込んできました。このニュースのきっかけは、昨年11月3日、アリババグループの傘下で、スマホ決済サービス・アリペイなどを運営するアントグループの上海と香港の証券取引所で行うことになっていた株式の上場の延期が発表され、創業者のジャック・マーや同社幹部が中国の金融当局から事情聴取されたことを受けたことです。
国外株主の構成状況が要因 金融レバレッジにブレーキ
<ジャック・マー姿見えず→上場に対する中国共産党の圧力→社会主義市場経済の限界>と連想しがちですが、情報を総合すると、事情は少し複雑です。株式の上場が延期された背景には、アリババグループの国外株主の構成状況があり、少額ローンが要因となった米国のサブプライムローン危機と類似する金融レバレッジの問題がありました。
模範的な「既存の存在」という足かせ
私は中国の特殊な経済環境の中で無人の荒野を駆け抜けてきたフロンティアランナー、アリババが成熟市場になるに従い、模範的な「既存の存在」とならざるを得ず、自らのイノベーションを縛って、もがいているようにも見えます。不正に個人情報を流出させた米グーグルがインターネット検索市場やオンライン広告の独占を維持するために反トラスト法(独占禁止法)に違反したとして米司法省に提訴されたように、アリババも顧客とともに当局に対して模範を示さなければならない「既存の存在」になったようでした。もちろん、中国の金融当局は習近平国家主席と直結していますから、「ジャック・マーの姿見えず憶測招く」事態に追い込む強制力があることも事実です。
アマゾンとは違う革新的ビジネス・エコシステム
ジャック・マーの右腕で前最高戦略責任者、ミン・ゾンの著書「アリババ 世界最強のスマートビジネス」(文藝春秋)は次のように謳っています
<「われわれは中国版アマゾンではない」。中国の強みである「ネットワーク」(陽)とアメリカの強みである「データ」(陰)を融合し、進化させた、洗練させ、アリババ独自の「スマートビジネス」こそが、これからの世界を制覇するのだ>
ジャック・マーは同書の序文で、<2036年までにアリババは20億人の顧客にサービスを提供し、1億人の雇用を創出し、1000万社がオンラインとオフラインの商取引を結びつけて収益力のある事業を営むのを支援し、世界第5位の経済圏になろうとしている。(中略)今日の経済で支配的なのはプラットフォームとビジネス・エコシステムだ。両者はデジタルエコノミーの、そしてグローバル社会の進歩を牽引していくだろう>と言及しています。
米国の成熟した小売市場で成長したアマゾンとは異なり、アリババは中国の脆弱な経済インフラ、未熟な小売市場のもとで最先端のテクノロジーを活用し、中国独自の「ネットワーク」(陽)=ビジネス・エコシステムという革新的モデルを構築し、飛躍的な成長を遂げました。さらに、そこから本格的に金融市場に進出するためには、上場延期の要因となった金融レバレッジが必要だったのかもしれません。
中国ビジネス興隆の分水嶺か?
アントグループに上場一時停止のボタンが押されたことによって、アリババグループのみならず中国の金融工学イノベーションに対する当局の影響はさらに強まるとみられています。このことが中国ビジネス興隆の分水嶺になるのかどうか。
毎日アジアビジネス研究所は定期配信する毎日アジアビジネスレポート2020年12月号(同11月末配信)で「金融イノベーションの矛と盾 アント・フィナンシャルの上場一時停止」の特集を組んでいます。次回はアントグループの上場延期とジャック・マーの言動についての中国側の見方を中心に報告します。
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毎日アジアビジネスレポートのトピックなどをもとに、所長としての視点をNOTEでまとめています。レポートの購読や問い合わせなどはメールで毎日アジアビジネス研究所 <asia-biz@mainichi.co.jp>までお寄せください。
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