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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉕「ジャック・マーの姿見えず<アリババ失速?>の背景(2)」@毎日アジアビジネス研究所

マー氏に冷ややかな中国人の見方も
 今日の中国の繁栄は、Eコマース大手のアリババ創業者、ジャック・マーに代表される起業家たちの躍進であり、同じくIT大手のテンセントなどの本社が建ち並ぶ深圳のようなテクノロジーの集積地にその源泉があると思っています。そうした思いをざわつかせるニュースが新年早々に流れました。「ジャック・マーの姿見えず憶測招く テレビ番組収録に参加せず」(大手金融情報サービス・ブルームバーグ)のニュースは、中国の金融当局がアリババグループ傘下で「アリペイ」を運営するアントグループの上場を一時停止し、事情聴取した同氏と同社への当局の調査結果に臆測が広がっていると伝えています。
 このニュースの背景を北京在住の中国人専門家の分析をもとに紐解いていくと、一般的に日本人がジャック・マーに対してリスペクトに近い感情を持っているのに比べ、中国人の見方は冷徹であり、冷ややかな意識すら感じられます。
国家権力にすり寄って急成長
 毎日アジアビジネスレポート2020年12月号(同11月末配信)で「金融イノベーションの矛と盾 アントグループの上場一時停止」(※原文はアント・ファイナンス)の記事を掲載しましたが、そこで専門家である陳言氏(毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー)はジャック・マーを次のように描いています。
 <(ジャック・マーは)国家権力にすり寄り、国内で可能な限りの独占的な地位を維持した。もう一方では、現行の法律体系に挑戦した。ITプラットフォーム企業の将来展望が困難なのは、通常、法律自体がITの発展に遅れを取るため、現行の法律を打破する技術イノベーションが必要になるためだ。一方で現行の法的(行政的)な制約を絶えず打破し続けなければ、イノベーションも継続するこができない>
金融イノベーションの<矛盾>が露呈
 ジャック・マーの挑戦には金融イノベーションの矛と盾、いわゆる<矛盾>があるというわけです。
 記事によると、中国における企業イノベーションは通常、国営企業が中心です。国外の最新技術を導入し、国家資本を使用し、それまでの技術に対するイノベーションを行います。しかし、ジャック・マーは北京から遠く上海からも一定の距離を保つ浙江省杭州市を拠点に、20年余にわたってアリババを苦心惨憺しながら経営してきました。北京(中国共産党)の言うことを聴きすぎるほど聴くアリババは国営企業に近く、数万社の国営企業の中でそれまでになかった役割を演じてきました。ジャック・マーは挑戦し続け、当局側の寛大さもあって彼の挑戦は続けられてきました。
上場前に金融当局への批判
 しかし、昨年10月24日、アントグループ上場予定の2週間前に開催された上海外灘金融サミットで壇上に立ったジャック・マーは主催者が与えた発言時間20分を1分オーバーして金融当局の誤りを指摘しました。
<(世界的な銀行規制基準である)バーセル合意は「シニアクラブ」のようなものだ。何十年も運営されてきた金融システムの老朽化の問題を解決しようというものであり、ヨーロッパの老朽化したシステムは非常に複雑だ>
<鉄道駅を管理する方法を、空港を管理する方法に使うことはできない。未来を管理するために、昨日のやり方を使うことはできない>
アリババグループを独占禁止法で調査
 昨年11月初め、中国当局がアントグループの350億ドル(約3兆6000億円)に上る新規株式公開(IPO)の一時停止を決定し、アリババグループに対して独占禁止法の調査が始まっています。それ以降、ジャック・マーは公の場に姿を見せていません。
イノベーションを矛としてきたアントグループが誕生して16年間、同社が重要な一歩を踏み出す際に当局側の神経を逆なですることは一度もありませんでした。今、当局がリスク管理の盾を掲げ、上場直前の段階で「待った」をかけました。ここ数年来のイノベーションと当局の駆け引きの鐘が乱打され、当局の管理が強化されたのです。
 なぜ、国家権力にすり寄ってアリババグループを急成長させたジャック・マーは上場前に金融当局を批判したのでしょうか。今後、ジャック・マーはどう行動するのでしょうか。引き続き、<矛盾>が露呈した中国のイノベーションの行方を注視して報告してまいります。
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毎日アジアビジネスレポートのトピックなどをもとに、所長としての視点をNOTEでまとめています。レポートの購読や問い合わせなどはメールで毎日アジアビジネス研究所 <asia-biz@mainichi.co.jp>までお寄せください。


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