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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉝「<ベトナムは強権政治か>異例の共産党書記長3選」@梅田邦夫・前駐ベトナム大使ONLINE講座

党規約を超える特例措置
 ミャンマーでクーデターが起きた2月1日、ベトナムでは5年の1度のベトナム共産党大会の最終日にグエン・フー・チョン書記長(76)の異例の3選が決まりました。「書記長連続2期まで」「政治局再選年齢65歳」の党規約を超える特例措置は何を物語るのか。汚職追及を徹底するチョン書記長の体制継続のもと、ベトナムビジネスで新規事業などの承認が遅延することが起こりうるのか。
 毎日アジアビジネス研究所は梅田邦夫・前駐ベトナム大使を講師に迎え、2月19日に「チョン書記長続投と政策課題」のテーマでベトナムONLINE講座を開催しました。
<共産党生き残り>に執念
 梅田氏によると、トップ人事についてチョン書記長が自身の後任と目していたチャン・クオック・ヴオン書記局常務(実質NO5)は党内であまりの不人気であり、対抗馬であるグエン・スアン・フック首相を書記長にするには抵抗があるため、結局は書記長を継続する決定に至ったということです。梅田氏はその決定過程にチョン書記長の政治的なしたたかさが垣間見えると指摘していますが、同時に書記長の掲げる(1)政治改革(2)行政改革(3)汚職対策の推進・強化――がベトナム共産党の生き残りのカギとみて執念を燃やしたとも言及しました。
中国とは違う国民第一主義
 チョン書記長続投について聴講者から「ベトナムは強権政治になったか」「ベトナム共産党への国民の支持はどのくらいか」との質問がありました。これに対し、梅田氏は「ベトナムは中国の強権主義とは性格が違う。ベトナムは国民の声を反映しようと務めている」と語りました。その例として、公共事業の土地収用において中国では強制収用を辞さないが、ベトナムでは補償額の決定など(権利者との)合意までに時間をかけ公共事業がたびたび遅れることがあると指摘しました。さらに、コロナ対策においても、中国のような強権発動とは違い、ベトナムでは医療レベルが低いためむしろ国民の要望によって水際対策や予防策の徹底が図られているとの見方を示しました。
支持低下に省政府の業績評価
 梅田氏はベトナムの歴史学者が1975年に南北ベトナムの統一を達成してから四十数年経ちベトナム共産党の支持が落ちていると指摘していることを紹介し、その理由として(1)南北統一後に生まれた者の人口が全人口の75%を占めて共産党統治の意味が分からなくなっている(2)経済格差が広がり、親が金持ちや共産党幹部ならコネで就職できるなど機会の平等への不満が出てきている(3)ベトナム共産党が統治する組織・システムが非効率化であると考えているーーをあげています。一方、ベトナム共産党も支持の低下に危機感を持ち、住民や企業から見た地方の省政府の業績評価などを積極的に行って国民の声をすくい上げる努力をしていると述べています。梅田氏は「中国もベトナムも<共産党の統治は失わない>との原則は同じだが、ベトナムは国民第一の方法をとっており、統治方法が中国とは違う」と語っています。
汚職追求で事業承認遅れか?
 ベトナムビジネスの関連で「次期体制でも汚職追求が続くと、新規事業などの承認に遅れが起こりうるのか」との質問に対し、梅田氏は「今も起こっている。汚職の場合はやむを得ない。しかし、自分の政策判断で国家に損失を出したケースまで責任を問われると、(事業承認)担当者は怖がって決断ができない。そこはきちんと区別しないといけない」と答えました。
 国家・政府の役職が内定し、3月末の国会会期または5月末の国会議長選挙後の会期で任命されます。次期「トップ4」(書記長、国家主席、首相、国家議長)のうち、チョン書記長(ハノイ市=北部出身)以外の内定者は次の通りです。
党序列NO2:グエン・スアン・フック首相(国家主席内定)
 首相として経済・外交・コロナで大きな実績を残し、内外に幅広い人脈。国民からの厚い信頼、中央委員選出における最高支持率96%。クアンナム省(中部)出身。
NO3:ファン・ミン・チン中央組織委委員長、越日議連会長(首相内定)
 行政改革・幹部人材育成の推進者で、中央組織委員長からの首相就任は史上初。公安副大臣、クアンニン省党書記を歴任。タインホア省(北部)出身。
NO4:ヴォン・ディン・フエ・ハノイ市党委書記(国会議長内定)
元副首相、元財務大臣。ゲアン省(北部)出身。
 過去の幹部人事は北部、中部、南部と地域バランスをとっていました。次期「トップ4」に南部出身者はいませんが、退任するヴオン書記局常務(実質NO5)の後任には、ヴォー・ヴァン・トゥオン氏(南部出身、51歳最年少)が就任し、かろうじてバランスをとった形です。政治局員18人の出身地は北部12人、中部3人、南部3人。
早くも次期書記長候補にフエ氏とチン氏
 チョン書記長は党大会閉幕直後の記者会見で「高齢かつ体調も良くないため、一度は引退すると申し出たが、党書記長に選出されたからには全力を尽くしたい」と発言し、健康不安から途中降板の噂もあります。次期書記長候補には早くもヴォン・ディエン・フエ氏とファン・ミン・チン氏が浮上しています。

【第13回ベトナム共産党大会】
2021年1月25日から2月1日まで開催。全国約510万人(総人口9762万人)の共産党員の代表1587名が出席し、200人の党中央執行委員が選出され、その中から政治局員18人が選出。任期は5年。

■梅田邦夫(うめだ・くにお) 前駐ベトナム日本国大使
日本経済研究所上席研究主幹 、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
 広島県出身。1978年外務省入省。外務省アジア大洋州局南部アジア部長、外務省国際協力局長、駐ブラジル日本国大使などを経て、2016年10月から2020年3月まで駐ベトナム日本国大使。2020年10月から一般社団法人外国人材共生支援全国協会副会長。

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