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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㊷「人権配慮が安全保障に不可欠な時代」@梅田邦夫前駐ベトナム大使ONLINE講座

ベトナムが親日国の理由

 梅田邦夫前駐ベトナム大使は日本サッカー協会国際委員や川崎フロンターレ非常勤顧問を務める、学生時代にサッカーで鳴らした元外交官です。自身の新著「ベトナムを知れば見えてくる日本の危機」(小学館)で強調したかったポイントとして、俳優の杉良太郎氏、歯科医の夏目長門氏、眼科医の服部匡志氏、ベトナム国立交響楽団指揮者の本名徹次氏、日越堺友好協会理事長の加藤均氏、日本語教育者の市村康男氏(故人)らの名前をあげ、ベトナムのために尽力した日本人がいたからこそ、ベトナムが親日国であり得たと述べています。梅田氏自身、ベトナムのために精力的な外交努力をしたからこそ、こうした人々の貢献が自分事として理解できるのでしょう。まさに、<国と国の関係は人と人の信頼>であることを物語っています。
 2020年3月まで駐ベトナム大使だった梅田氏は、帰国後、日本経済研究所上席研究主幹を務める一方、ベトナム人技能実習生らをきちんと日本で受け入れるため、一般財団法人外国人材共生支援全国協会副会長として技能実習制度に関わる不正行為撲滅キャンペーンなどを活発に行っています。「大使まで務めた人間が何も外国人労働者問題に深入りしなくても」と周囲の声も聞こえてきそうですが、梅田氏の生き方は華麗なドリブルでゴールを決めるというよりも、泥臭くサッカーボールを追いかけ回すプレースタイルのように思えてなりません。

バイデン政権と中国

 7月2日に出版を記念して毎日アジアビジネス研究所と小学館が共催したONLINE講座の主題は「バイデン政権成立後の中国をめぐる主な動き」でした。梅田氏は(1)米中覇権争い(2)「人権重視」とビジネスへの影響(3)戦略物資の中国依存見直し(4)新型コロナ・ウイルス関係――の4つの留意点をあげています。梅田氏によると、トランプ政権(米国第一主義)時代に始まった米中覇権争いは、「民主主義」対「専制主義」対決の様相を呈し、バイデン政権成立後の半年間で同盟国・パートナーとの関係を再活性化させ、自由で開かれたインド太平洋構想とともに、中国を「戦略的競争相手」、「体制上の挑戦者」という共通認識が共有されています。

ESG投資と人権


 米中覇権争いの観点は一般的によく言われていることですが、私が改めて考えさせられたのは「人権重視」とビジネスへの影響です。梅田氏によると、ESG投資のうち、E(環境)に加え、S(社会)が焦点となり、ビジネスにおいても人権配慮が不可欠な時代になっています。新疆ウイグル問題、強制労働認定、対中制裁強化、欧州議会―EU・中国投資協定の批准審議の停止がある中で、米当局は中国に関係なく、マレーシアのゴム手袋世界最大手、トップ・グローブに、外国人労働者に対して「強制労働」をおこなっていると認定して対米輸出差し止め(21年年6月)を命じました。人権配慮は国の安全保障にとっても非常に重要になっているというわけです。
 梅田氏の講座を聴いているうちに、「なぜ、大使まで務めた人間が外国人労働者問題に関わっているのか」、その戦略的な意味が分かってきた気がします。梅田氏は著書のおわりに「日本は人口減少と労働力不足の中で、国力維持のために外国人材の定住政策導入を決断する時を迎えているのではないか」と問題提起しています。外国人材なしに日本の将来は成り立たないことを明示しています。

■梅田邦夫(うめだ・くにお) 前駐ベトナム日本国大使

 日本経済研究所上席研究主幹 、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
 広島県出身。1978年外務省入省。外務省アジア大洋州局南部アジア部長、外務省国際協力局長、駐ブラジル日本国大使などを経て、2016年10月から2020年3月まで駐ベトナム日本国大使。2020年10月から一般財団法人外国人材共生支援全国協会副会長

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