Withコロナ時代の北海道ビジネス入門⑦「黒船ペリーも驚く北大祭ホタテカレー」@湧別町未来づくり担当課(2)
ペリー来航がきっかけのホタテの学名
黒船を率いて江戸湾浦賀沖に姿を現したペリー提督は日本に開国を迫ったばかりでなく、寄港した函館からホタテの本種を持ち帰って一行の一人が学名をつけたことを遅ればせながら初めて知った。
<江戸時代末期の1854年にペリーの率いるアメリカ艦隊が来航した際に函館から本種を持ち帰り、Patinopecten yessoensisとして1856年に新種記載された。ラテン語でpatinoは「皿」、pectenは「櫛(くし)」、yessoensisは「蝦夷(北海道)の」をそれぞれ意味する。さらに1963年、日本産の本種が北米産のPatinopecten yessoensisとは別系統であることからMizuhopecten属を新設した>
ホタテの学名はラテン語の訳を組み合わせると「蝦夷(北海道)の櫛のような模様のある皿」となる。ホタテの学名に蝦夷が入っているのはペリー来航の歴史があったからなのかと今さらながら驚いた。ホタテを漢字で書くと「帆立」で、江戸時代の1712年に日本で初めて編纂(へんさん)された図解百科辞典「和漢三才図会」にもホタテガイの名前が出てくる。
北大祭に湧別高校生徒会のカレーブース
ホタテの由来に興味を持ったのは、伝統ある北大祭に初めて高校生がホタテ入りカレーを販売する模擬店を出店したからだ。北海道のオホーツク海沿岸でサロマ湖に面する湧別町にある湧別高校生徒会の生徒によるカレーブースである。今回の試みは北海道大学大学院教育学研究院と提携して湧別町未来づくり担当課が進める「湧別高校魅力化」の一環だ。
北海道大学の科学コミュニケーション教育研究部門が運営する「いいね!Hokudai」のウェブマガジンに文学院修士1年の江口佳穂さんが6月4日、「北大祭2022高校生が湧別カレーを出店」と記事をアップしている。
<さっそく筆者も湧別カレーを実食!ほろほろの野菜や大きなホタテがごろっと入った食べ応え抜群のカレーでとてもおいしかったです>
ごろっと入った大きなホタテの語感はカレーの辛さと相まって思わず食べてみたくなる響きがあった。
ごろっとした大きなホタテと湧別漁協の「四輪採制」
ホタテは漁業が主要産業の一つである湧別町の名産品である。
西浜雄二氏の著書「オホーツクのホタテ漁業」(北海道大学出版会、1994年刊行)には、サロマ湖は世界最高の栽培漁業・ホタテ栽培の故郷であると記載されている。これは1933年(昭和8年)にサロマ湖に派遣された北海道水産試験場の木下虎一郎が湖内でホタテガイ付着稚貝を発見したことがきっかけだった。同試験場の指導のもとに、北見水産会の事業としてホタテガイ採苗事業は始まったが、種苗放流の効果はほとんど不明のままだった。ホタテ養殖の転機になったのは1964年(昭和39年)に付着基質に玉葱(たまねぎ)袋を被(かぶ)せた世界初のホタテガイ用採苗器が考案されたことだった。
湧別漁業協同組合(阿部俊彦組合長)との関係を調べてみると、1972年(昭和47年)にホタテガイ増殖計画に基づき、稚貝採苗1人35万粒義務で「四輪採制」が始まったことがホタテ増産の要因になっている。サロマ湖に面する湧別・常呂・佐呂間の各漁業協同組合は、オホーツク海の漁場を畑のように4つに区切り、1年ごとに海域をずらしながら4年周期でホタテ成貝の漁獲とホタテ稚貝の放流を繰り返す「四輪採制」でホタテ漁業を行っている。サロマ湖で1年間養殖したホタテの稚貝は、オホーツク海域に放流されて、グリコーゲンを豊かに含む、ごろっとした大きなホタテに育つわけだ。
北海道新聞の記事でも湧別高校生徒会の北大祭への出店が紹介された。
同紙によると、2019年に湧別高の当時2年生の女子生徒が、地元の教育活動に協力する北大大学院教育学研究院の篠原岳司准教授に「大学とのつながりを深めたい」と提案したのがきっかけ。北大祭はコロナ禍で20年は中止、21年はオンライン開催となり、思いを受け継いだ生徒会が出店を実現させたという。
ホタテ入りのカレーは300食分が用意され、その費用は湧別町が負担した。
北大祭には湧別町の刈田智之町長、阿部勉教育長、斉藤健悟未来づくり担当課長も訪れ、生徒たちの模擬店での販売ぶりに目を細めた。
湧別町の魅力を存分にPR
「いいね!Hokudai」の江口佳穂さんのインタビューに、湧別高校3年生の伊藤沙緒里さんは「湧別高校生が北大祭に出店するという話は数年前からあり、今年やっと実現しました」と説明したうえで「1年生の頃からこの話が気になっていたので参加しました」と答えている。同2年生の上松聖弥さんは湧別町の魅力について「すごく小さいけど自然や海産物が多くて魅力的な町です。これからも湧別町のいいところを伝えていきたいです。ぜひ湧別町に来てください」とにこやかな表情で話している。今回、湧別高校から生徒会担当の白石平教諭、小澤力教諭が引率したが、生徒会の面々は臆することなく北大祭を楽しみながら、ホタテとともに名産の玉葱も入ったカレーを笑顔で販売し、観光名所のチューリップ公園などの町並みをパネルで示しながら、湧別町の魅力を存分にPRした。
江口さんはウェブマガジンで「来年はパワーアップした高校生たちに会えるのではないでしょうか。今年から始まった北大祭と高校生との関係がこれからも続いてほしいですね」と結んでいる。
来年以降もペリー提督さえも驚くような地元の食材を使ったフードを北大祭で販売して湧別高校と湧別町の存在感を示してほしいと思う。湧別町未来づくり担当課の進める「湧別高校魅力化」が北海道大学を架け橋にさらに深化することを望んでいる。
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