アジアビジネス入門63「沖縄のバスケW杯と米軍基地」@地域再生を考える(2)
■ファーストスラムダンク、宮城リョータは沖縄出身
高校バスケットボールを舞台にした大ヒット映画「THE FIRST SLAM DUNK」(ファーストスラムダンク)の主人公、神奈川県立湘北高校のポイントガード(PG)、宮城リョータは沖縄出身だ。沖縄での生い立ちとバスケットボールとの出会いから、引っ越した湘南で湘北高校に進学してチームメートの桜木花道らと成長していく姿を描いたストーリーは、日本ばかりではなく、アジア各地で感動をもたらした。
■オーストリア戦を観戦 健闘の日本チーム
その沖縄でFIBAバスケットボールワールドカップ2023(バスケW杯)が開催された。8月29日、「ディフェンス」「ニッポン」の大歓声が鳴り響く沖縄アリーナ(沖縄市)で、1次リーグE組の日本対オーストリア戦を観戦した。隣りの席から沖縄の祝い事などで盛り上げるために使われる指笛(ゆびぶえ)がピューピューとなった。
日本(世界ランク37位)は全米バスケットボール協会(NBA)プレーヤー、渡邉雄太やジョシュ・ホーキンソンが得点し奮闘したが、結果はチーム12人中パティ・ミルズ ら9人のNBAプレーヤーをそろえて自力に勝るオーストラリア(同3位)が109対89で日本を退けた。
それでも、日本は1次リーグで格上のフィンランド(同24位)に98―88で逆転勝ちし、大金星を上げた。W杯での勝利は前身の世界選手権だった2006年のパナマ戦以来、27年ぶりとなった。
■米軍向けNBA放送を近隣で視聴
「ファーストスラムダンク」で宮城リョータ少年が兄(海難事故で死亡)に憧れてバスケットボールを始めた沖縄は、バスケ競技者人口が人口比で全国1位の「バスケ王国」である。今年5月には男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)2022-23シーズンで沖縄アリーナを拠点とする沖縄ゴールデンキングスが初優勝した。
スカイマークの機内誌「空の足跡」8月号では沖縄のバスケットボールが特集された。特集によると、戦後の沖縄におけるバスケットボールの興隆は、米軍の存在を抜きに語れないという。1955年、嘉手納の米軍基地で、FEN(Far East Network 極東放送網)、通称「6チャンネル」という在日米軍向けの英語放送がスタート。その後、テレビの発達とともにその電波は基地の高い塀を越えて、隣接するゴザ(現・沖縄市)にも届いた。FENではNBAの試合も放映していたから、ゴザの町では、地上波で、世界のトップレベルのプレーを目の当たりにすることができた。
■沖縄バスケのリズムは島人(しまんちゅ)文化
沖縄バスケに影響を与えたのは、NBAだけではない。本土ともアメリカとも違う“沖縄風”のプレースタイルは島人(しまんちゅ)の文化だった。
沖縄県バスケットボール協会の日越延利会長は特集で「『沖縄のバスケは何かが違う』と、よく言われます。体は小さくても俊敏さがあって、パスの仕方も全然違う。型にはまっていなくて、リズミカルなんです」と語っている。本土と違うリズムとは、弦楽器の一種、三線(さんしん)のリズムに合わせ、カチャーシーを踊る沖縄の伝統芸能のリズムがDNAとして沖縄バスケにも受け継がれているという。
確かに、アニメで描かれた沖縄出身の宮城リョータは身長168 cm、体重59 kgと小柄ながら、スピードを武器にして低い姿勢でのドリブルは変幻自在の対応力があった。
■4Kカメラとデジタル技術でショーアップ
生のバスケットボールの試合を観戦したのは、1998年、当時駐在していた米ワシントンD.C.で、地元ワシントン・ウィザーズと神様マイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズのNBA戦以来だ。ジョーダンは(2度目の)引退直前で出場時間が短かったが、コートに立った時のプレーヤーとしての眩(まばゆ)いばかりの輝きは今でも脳裏に焼きついている。
当時と比べて、沖縄アリーナで観たバスケW杯は、60台の4Kカメラで撮影した映像を360度の視点からリプレイできる映像技術「4DREPLAY」を常設し、510インチのメガビジョンに投影するなどデジタル技術を駆使してショーアップされていることに驚いた。一方、今やスポーツビジネスの世界では常識なのかもしれないが、バスケW杯での有力スポンサーが複数の中国企業だったことも目を見張った。
■苦悩の歴史と難航する基地移設
バスケの祖国アメリカは、米軍基地の存在によって、予想もしない形で沖縄バスケの発展に一役買うことになるわけだが、一方で基地が存在する故の沖縄の苦悩の歴史を忘れてはならないだろう。
米国の東アジア最大の空軍基地、嘉手納基地は、沖縄アリーナのある沖縄市、北谷町、嘉手納町の本島中部1市2町にまたがっている。米海兵隊の拠点基地である米軍普天間飛行場(宜野湾市)は住宅密集地に位置して危険なため、名護市辺野古への移設が決まったが難航している現実がある。8月28日、沖縄都市モノレール「ゆいレール」の県庁前駅では「辺野古新基地工事の中止」を求める集会が行われていた。
■スポーツ振興で格差是正の弾みに
日経新聞によると、1人当たりの沖縄の県民所得は2018年度で239万円と全国で最も低く、全国平均の7割程度で推移している。非正規従業員比率も17年に43.1%と全国最高で、雇用環境は本土に比べて不安定だ。ひとり親家庭の割合も高く、子どもの教育投資に回せない「貧困の連鎖」が課題となっている。
沖縄では地域再生のため、地元の青少年教育と結びついたスポーツ振興は欠かせない。プロバスケットボールチーム、琉球ゴールデンキングスは沖縄バスケのDNAを生かす最大のコンテンツである。同じ沖縄市を拠点に沖縄県全県をホームタウンをする日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)加盟のFC琉球は地域の学校などと結びついた活動をしていると聞く。今回のバスケW杯を、日本のバスケットボールが世界トップレベルになるための起爆剤にするとともに、格差を是正するためスポーツ振興による地域再生の弾みにしてもらいたいと願っている。