見出し画像

Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉛「スーチー氏拘束と<黒魔術がひそむ国>」@毎日アジアビジネス研究所

ミャンマーの本質をあぶりだす<予言の書>
 ミャンマーの国軍が2月1日、アウンサンスーチー国家顧問らを拘束するクーデターを実行しました。2011年に民政移管されたミャンマーはまた10年時間が逆戻りしてしまったのかと落胆しました。クーデターのカギを握るのは国軍のミンアウンフライン最高司令官。日本のジャーリストでもっとも最高司令官を知るのは春日孝之・元毎日新聞アジア総局長兼ヤンゴン支局長です。春日氏は2020年10月、「黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏」(河出書房新社)を出版しました。同書には2015年6月9日、首都ネピドーの国軍司令本部迎賓館で、<予言を与えた給う仏陀>像の絵を背景に、春日氏が最高司令官に単独インタビューする様子が描かれています。ミャンマーの内実を読み解くには今も人々の暮らしに息づく「おまじない」の理解が必要不可欠だとの書評を最初に目にした時、同書は過去をたどるヒストリー本だと思っていました。しかし、今、クーデター勃発という現実を前に同書を改めて読むと、それはミャンマーの本質をあぶりだした<予言の書>であることが分かります。
時代の深層にひそむ不気味な空気感
 今回のクーデターで「黒魔術がひそむ国」に着目したのは、今年1月6日のトランプ前大統領支持派による米連邦議会議事堂占拠事件と無縁ではありません。南北戦争時代の南部連合の旗が議事堂内に持ち込まれましたが、そこに単なる分断ではなく、民主主義の論理では説明がつかない<時代の深層にひそむ不気味な空気感>が漂っていることを感じるからです。ミャンマーのクーデターは単なる内政問題ではなく、米国にひそむ<不気味な空気感>が連鎖してミャンマーにもつながっているのではないか、さらに他にアジア諸国や欧州にも伝搬するのではないかと危惧するからです。
憲法をめぐる国軍とスーチー氏の攻防
 著書によると、ミンアウンフライン最高司令官との単独インタビューは「『スーチー大統領』遠のく」の見出しで毎日新聞朝刊(2015年6月11日付)1面に掲載されました。最高司令官は「軍の優位が揺るがないからこそ国家は安定している」との論理で、軍事政権下につくられた憲法を改正する意思がないことを明確にしました。一方、国民民主連盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏は国会の4分の1の議席を軍事枠とした憲法の規定こそ民主化を妨げていると改憲に向けた動きを強めます。改憲には国会の4分の3の賛成が必要で、軍人議員が反対すれば、改憲は阻止することができます。しかし、2015年に続き、2020年11月8日の総選挙でもNLDが圧勝しました。総選挙後初となる国会開会日は2月1日で、開会前に国軍は「総選挙の不正問題が解決されておらず、憲法に基づいて非常事態宣言を宣言する必要があった」とクーデターを正当化しました。
「確執の末 意趣返し」の精神世界
 春日氏は今回のクーデターについて毎日新聞朝刊(2月2日付)に「確執の末 意趣返し」との論文を掲載しています。憲法上、国家元首の大統領になれないアウンサンスーチー氏はこれを逆手に、憲法を超越する国家顧問ポストを創設して「大統領の上」に立ち、スーチー氏の「下の存在」でしかないミンアウンフライン最高司令官によるクーデターは一泡も二泡も吹かされた彼の意趣返しだったのかもしれない――。「ミャンマー仏教の壮大なコスモロジー(世界観)」とミャンマー人の精神世界を深掘りする、日本でもっとも最高司令官を知るジャーナリストの言葉は深く響きます。

春日氏を講師に毎日アジアビジネスONLINE講座を開催        日時:2021年2月12日(金)19:00-20:30(日本時間)
テーマ:ミャンマーの衝撃「スーチー氏拘束と国軍最高司令官」
講師:春日孝之(かすが・たかゆき) ジャーナリスト、元毎日新聞アジア総局長兼ヤンゴン支局長
申し込みの際は下記のpeatixのURLをクリックしてください。 https://peatix.com/event/1636282/view


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?