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踏み出し、つまずき、それでも前へ(We Are the Change x Kansai 開催レポート②)

12月19日に大阪で開催されたWe Are the Change x Kansai のレポート第二弾です。ASHOKA基準の社会起業家、渡辺周さんの基調講演の後は、現役で社会を良くするための活動に取り組む5人の若者チェンジメーカーがプレゼンを行いました。

勇気を持って一歩目を踏み出し、途中でつまずくことがあっても、「こういう社会が作りたい」「こういう変化を生み出したい」という気持ちを持って前へ進み続ける5人の話を抜粋してお届けします。


谷津 凜勇 (17) Rinyu Tanitsu

「『次の 1 冊に手をのばす喜びをすべての子どもに』ということで、本を心から楽しんで読むということ、そして本を通じて自我を育てていくことをより多くの子どもにしてほしいなと思っているので、『月あかり文庫』というフリーペーパーを作って、子どもたちにより本好きになってもらうための活動をしています。元々は知り合いの方に置いてもらっていましたが、色んな方に声をかけてもらって、いつの間にか全国60箇所に広がっています」

新聞部と文芸部に入っており、元々文章を書いたり、デザインするのが好きだった凜勇君は、コロナ禍での自由時間を使い、趣味として作り始めました。仲間も増え、さらに活動を広げるため、NPO法人化を計画しているそうです。最近は大阪の印刷会社にも協賛してもらい、1400部の印刷の協力をしてもらっています。

保護者をメインのターゲットにしており、ただあらすじを紹介するだけでなく、「こういう風にお子さんに手渡したらいいですよ」「こういうところを一緒にお子さんと読んだら楽しいですよ」と書くことで、子どもに本を手渡す大人の助けになったらいいなという気持ちで活動しているそうです。今後はフリーペーパー以外にも、本で読んだことを実際に体験してみるイベントなど、様々な企画に挑戦してみたいと話してくれました。

この活動をしたことで、将来やりたいことが明確になってきたという凜勇君は、大学では教育学、特に読書教育について学ぶことを考えています。本を読むことが、将来の道のヒントになる、と自分自身の経験から感じている彼は、より多くの子どもに読書を届けたいという強い思いを持って活動しています。

<子どもの読書文化振興NPO Dor til Dor(ドア・チル・ドア)>
HP:https://pando.life/dor-til-dor
Twitter:@Dor_til_Dor

熊谷 沙羅 (15) Sara Kumagai

「私は、どこか行くときは文庫本を一冊か二冊か持ち歩くんですけど、今荷物に本持ってる人、手を挙げてください」と話し始めたのは、読書が大好きな中学三年生の沙羅さん。会場から二人が、どんな本を読んでいるのか紹介してくれました。

「こんな風に、一人ひとり思いを持って今読んでる本があったり、大切な本があって、その本を通して会話が生まれたり、つながることができますよね。それが私のプロジェクトです!
多摩川の横で『川の図書館』というものをやっています。毎週日曜の10時から12時まで、1400冊くらい蔵書があるんですけど、家族で自宅から運んで図書館をやっています」

2020年の4月、コロナ禍で本屋さんや図書館が閉まってしまい、自宅の本を読み終えてしまった沙羅さん。「もっと本が読みたい!」と思った時に思い出したのが、アメリカのワシントン州でLittle Free Library。ポストのような木箱に十数冊の本が入っていて、自由に持って帰ったり寄付できるというものです。早速、市の公園課に提案書を持っていったものの、公園の法律上無理だということで却下されてしまいました。

「すごい落ち込んで、何したらいいのかわからなかったんですけど、その時に家族が『なんで沙羅そこで止まってるの?』と言ってくれました。その時に、『もし無人がダメなら有人にすればいいじゃん』『管理する人がいない?じゃあ家で管理すればいいじゃん』という逆転の発想で、朝却下されたのが夜には新しいアイデアになっていました。次の日の朝から、近所をピンポンして回って本を集めて、次の火曜日にスタート。そんな早いペースで始めました」

元々は自分が本を読みたくて始めたこのプロジェクト。しかし、やっていく中で、来館者が世代も超えて自由に話していく様子を見て、コロナ禍で必要とされている活動だったんだなと感じたそうです。子ども向けに紙芝居をする方や、アコーディオンの練習がてら演奏する人がいたり、自然と色々なコラボレーションが生まれているのも魅力的です。今は、全国4箇所に広がり、さらに企業との協力でショッピングモールでの開催も始めています。

「嫌だ、しょうがない、めんどくさい」が禁句という、
熊谷家の面白いルールも紹介してくれました。

<Book Swap Japan>
HP:https://bookswapjapan.org/
Twitter: @BookSwapChofu

黒田 旬 (19) Shun Kuroda

表面に柔らかそうなフェルトを貼った卓球ラケットを取り出して会場内のオーディエンスに渡し、話し始めたのは、無回転卓球という新しいスポーツを作り出した旬くん。

「私自身、中学校の頃から卓球をやっていて、3年間、ほぼ週7日やってたんですけど、3歳の頃からやっていた人には敵わないんですよね。逆に、友達とやっても自分が勝ってしまって楽しめない。経験や年齢、運動神経など、スポーツには色んな障壁がありますが、そういうものをなくしてフラットにし、みんなが同じレベルで楽しめる新しいスポーツを作りたいと思いました。卓球はスピードと回転がすごいので、それをなくすために色々実験した結果、フェルトに辿り着きました」

中学入学後に放送大学へ飛び入学したという面白いバックグラウンドも持っている旬くんは、自分の時間を有効活用して無回転卓球の活動を広めるためのイベントを開催し、車イスの人も一緒に楽しめることや、卓球のオリンピック銀メダリストを一般人が負かせたりすることを証明しています。

イベントだけでなく、企業にも置いてもらうことで、日常の中で気軽に運動する機会を作っている上に、障がい者施設や高齢者施設にも導入してもらえるよう取り組んでいます。

「デンマークに留学した時に英語ができなくて、コミュニケーションの点でやっぱり壁があったんです。でも無回転卓球をやっていくうちにみんな仲良くなって、スポーツは言葉を介さなくても交流ができる、ものすごく強力なツールだなと実感しました」

オーディエンスから、「黒田くんは、どちらかというと卓球が上手い側の人間だと思うので、無回転卓球だと負けることも多くなると思うんですけど、勝つことと楽しむこと、どういう風に考えていますか?」という質問がありました。

「もちろん自分が勝つこともあるし、負けることもあります。でもみんなが公平なレベルになることによって、全員が勝つっていう成功体験もできるし、負けるって経験もできるんですよ。そういう部分が一番の楽しみですね。逆に、障がいがある方相手でも存分に楽しみながら時間を共有できるんです」

質問した方からは「アショカのいうエンパシーがすごくあると思うんですよ。要は自分が勝ちたいと思ったらこれをやらないと思うんですけど、やっぱりみんなでいい時間を過ごそうっていう前提があるんですね。すごく素敵です」というコメントをいただきました。

<Nonspin 世界無回転卓球協会>
HP:https://www.mukaiten.com/

岩橋 雪野 (21) Yukino Iwahashi

「私はいわゆる『ケアリーバー』と呼ばれる、社会的養護(社会で子どもを養育するシステム)の中で育った一人です。高校生の時に教育系NPOに出会い、そこには色んな活動をしている同年代の人や、自分の仕事に誇りを持っている大人たちがいました。そんな人たちに触発されて、私も何かやりたいと思い、色んなソーシャルセクターの方にインタビューして記事にするという活動をしていました。でも一方で、やっていることはめちゃくちゃカッコいいのに、自分が行く立場だったらちょっと行きたくないなっていう違和感がありました。じゃあ自分たちで作ってみようということで、「昔、私たちが欲しかったものをカタチに」というコンセプトで居場所づくりを始めました。

まずは不登校の中高生をターゲットにした居場所づくりをしていたものの、「意識高い系」の子しか集まらず、本当に来て欲しい子が来てくれなかったり、過去の経験で盛り上がって、なかなか前へ進めなかったこともあったそうです。その後も給付型の奨学金一覧サイトを日本で初めて作ってみたり、カッコいい大人たちを紹介するロールモデル図鑑を作ってみたり、色々な試行錯誤を繰り返していきました。

「私は『支援と制度の狭間』というキーワードに辿り着きました。私は高校三年生まで、誰からもSOSを掬い上げてもらえずに、嬉しいことも楽しいことも、悲しいことも痛いことも全てわからずに、SOSさえあげない子どもになっていました。私はずっと支援と制度の狭間にいたんだなと気づいてからは、それを埋めたいと思っています」

現存する福祉に関わる施設や制度に欠けている部分を分析した結果、今は「学ぶ・安心・守る・向き合う」という4つのシステムを兼ね揃えた施設を開設しようとしています。

雪野さんは、当事者だからこそできる活動もあるけれど、過去の経験を思い出して苦しいこともあるだけでなく、居場所を必要としてくれる子どもができた場合、お金がなくて行き詰まってしまうとその子たちが路頭に迷ってしまうため、助成金などに頼らずに持続可能性を確保しなくてはいけない難しさについても話してくれました。

「最後に私がどんな世界を作りたいかお話して終わりにしようと思います。私は、どんな家庭に生まれ育っても、どんな国の法律や制度の有無に関わらず、自分の人生のキャンバスに、自分で絵の具を選んで、自分で筆を持って、自由にその子らしく自分の人生を描ける子どもたちで溢れる社会を作りたいと思っています。そんな社会を作るためには、虐待や貧困などの負の連鎖を断ち切る必要があると思います。なので時間はかかると思いますが、今の家族制度を見直して、一人の子どもに複数の家族がついて、その子が大人になった時に、一生を共にする家族を子ども自身が選ぶという制度を作って、この社会を実現したいと思います」

<NPO法人 未来のカタチ>
HPなど:https://lit.link/mirainokatachi
Twitter:@MiraiKatachi

山内 ゆな (19) Yuna Yamauchi

本と言葉、人が好きな大阪の大学一年生、ゆなさん。「全ての子どもが『好き』や『やってみたい』に挑戦できる社会」をビジョンに掲げ、児童養護施設の子どもたちに、情報を得る機会、体験する機会、施設以外との関わりを作ることをミッションとしています。

「私自身が2歳の時から18歳まで、今年の3月まで児童養護施設で育ちました。児童養護施設ではインターネットがない場所がまだまだ多いんですけど、私は高校一年生からバイトを始めてケータイを買い、初めて情報格差に気付きました。コロナ禍で、施設の外に出られなくなった時に、小学校5年生の女の子から『本を読みたいから教科書を貸してほしい』って言ってきたんですね。そこでSNSに本が増えたらいいなと投稿したら、『本ならあげるよ』って300人くらいの方が言ってくださって、本を集めることならできるんじゃないかと思いました」

2021年の5月、たくさんの人に児童養護施設について正しい理解を持ってもらい、その上で「人生で出会った最高の一冊」を子どもたちに送ろうというクラウドファンディング「JETBOOK 作戦」を実施しました。ゆなさんは40日間で5,500人から3,700万円以上の寄付を集め、110施設に100冊ずつ本を届けました。また、寄付者のメッセージと職業、都道府県を一つづつしおりにすることで、施設の外のことももっと知ってもらうきっかけにしました。

お礼状は要らないと言ったのにも関わらず、子どもたちが自発的にお礼を言いたいと40施設以上からの声が届いたそうです。施設での会話が増えたり、パイロットになりたい男の子が、実際にパイロットの方から届いた本を読み始めたりと、本から良い影響が広がっているそうです。

「友達に『児童養護施設に住んでるよ』って言った時に、『聞いてごめんね、なんか大変そうだけど頑張ってね』みたいに勝手に離れていかれたという経験があって。私自身は2歳からずっと住んでて、すごい長い修学旅行みたいな感じでワイワイ集団生活している感じなのに、外からはドラマやニュースの影響ですごい暗いものだって捉えられているので、そうじゃないよってことを伝えたいなと思っています。施設の子どもたちは自分で選んで住んでいるわけではないし、彼らが悪いわけじゃないのに施設に住んでいることを隠さなきゃいけないってところや、隠していることで、18歳で施設を出た際のアフターケアにつながらないという問題があって、もっとポジティブなものとして発信したいなと思っています」

今は、AmazonとYMCAと共同で、プログラミング教育を無償で施設に届ける計画を進めている他、ライフスキルを磨くワークショップを施設の子どもに提供しています。また、特別養子縁組や里親を支援する活動もしており、「愛に、血のつながりがいらないことは、夫婦が一番知っている」という素敵なコピーも考えました。

<JETBOOK作戦>
クラウドファンディングのページ:https://readyfor.jp/projects/JETBOOK

まとめ

印象的だったのは、5人がとても楽しそうに話していたこと。「社会にいいこと」と聞くと、どこか奉仕活動や自己犠牲のようなイメージを持ちがちですが、若者チェンジメーカー達は「もっと多くの子どもに読書を楽しんでほしいな」「誰でも卓球を楽しんで、気軽に運動したり交流できたらステキだな」と、生み出したい変化とその先に見える明るい社会にワクワクしながら活動している様子を話してくれました。

それぞれの活動のSNSやホームページを載せていますので、ぜひ気になるチェンジメーカーの活動をチェックしてみてください!


もっと知りたい方へ

今回登壇したユースベンチャラーを含む、最新の10人の若者チェンジメーカーを紹介した資料ができました!こちらからご覧ください。

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渡辺周さんの基調講演「探査ジャーナリズムの挑戦」
チェンジメーカーの対談「自分を貫いて生きていくには」

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