ヤングケアラーが、ケアと自分の人生のバランスを選択できる社会を目指して(原田伊織)
社会を変えようと本気で取り組んでいる20歳以下の若者が、失敗を恐れずに自由に挑戦できる場であるユースベンチャー。10月23日、その審査会にて、ヤングケアラーへの新しい支援の仕組みを考える原田伊織くんが発表しました。
もしかして自分もヤングケアラーかも…
2歳から母子家庭で育ち、お手伝いなどは日常的にあったという伊織くん。初めは高校の授業で「ヤングケアラー」という言葉を学び、彼らの支援をしたいと思っていたそうですが、事例などを調べていくうちに、「日常的な家事がある」「進学資金のためにバイトしている」など自分の経験とリンクする部分も多く、一ヶ月ほどかけて「自分もヤングケアラーだ」と認識していきました。
特に高校一年生の時に母親がうつ病と診断されて、夜遅くまで相談を聞く日々が続く中、学校生活にも影響が出始め、助けを求めて友達を頼ることもあったものの、その度に逃げているようで罪悪感を抱いたと言います。
見過ごされるグレーゾーンの自己決定
伊織くんのような存在は、ソフトなヤングケアラーと呼ばれるそうです。国などで取り上げられる重度な事例とは異なり、あんまり目立たない、気づかれない存在。本人が自覚していないケースが多く、見過ごされがちで、支援もあまり存在しないのです。
このソフトなヤングケアラーにとって一番問題なのは、「日常的なケアが、子どもの自己決定の機会を奪うことだ」と伊織くんはいいます。人生設計をしていく子ども・若者の時期にケアが制約となり、自分を優先した選択ができないと、幸福度や自己効力感、健康にも影響していきます。
行政の制度や支援などが主なターゲットにしているのは、ヤングケアラーの課題解決。別の言葉で言うと「ケアを軽減するために必要なもの」というニーズに関するものです。これと同時に伊織くんがフォーカスしようとしているのは、「本人がどんな人生を歩みたいのか、どんなことがしたいのか」という部分(ウォンツ)です。このニーズとウォンツへの両輪の支援が必要だと彼は考えています。
「生きているか?」とLINEをくれる地域の人
では、グレーゾーンのヤングケアラーが、ケアをしながら、自分の人生について考えるようになるためにはどうすればいいのか。そのヒントが「地域」にあると考える背景には、伊織くん自身の経験がありました。
ケアと自分の活動を両立しながら、自分が体調を崩してしまった去年の11月、3ヶ月ほど引きこもりの時期があったといいます。その時に支えてくれたのは、ボランティアなどで知り合った地域の人たちでした。
「生きているか?」というLINEをくれた人。知り合いがたくさんいる場に呼んでくれて、色んなことを一気に報告・相談できる場を作ってくれた人。一週間、家に泊めてくれた人。自分のやりたいことをサポートしてくれる人。辛い中でも活動を続け、回復することができたのは、色んな地域の人の愛情が支えになったからでした。
ある友達からの相談
グレーゾーンのヤングケアラーに対して、地域とつながりながら「ケアの軽減」と「自己決定のサポート」を両立できたら……そう考えていた伊織くんの元に、お母さんの調子が悪くなったという友達が相談してきました。
話していく中で、「やりたいことはないの?」と聞くと、「本当は子どもと関わることがしたい」と教えてくれたその友達。でも同時に、お母さんと二人で生活しているし、支えないといけないと感じている不安も打ち明けてくれました。
本人のやりたいことを大事にしながら、ケアで何かあった時に頼れるようにできたらいいのではないかと考えた伊織くんは、その友達が住んでいる地域に知り合いが多かったため、ヤングケアラーのことをよく理解しているカフェのオーナーの元へ連れて行ったり、子ども食堂をやっている方に紹介したりしました。その友達は、子どもへのボランティアという「自分のやりたいこと」を通じて地域の人々と知り合い、いざという時に頼れるつながりを自然と作っていきました。
伊織くんはこのようにつながりを作っていく人、「地域ユースコーディネーター」を訓練し、増やしていく計画を立てています。
既存の取り組みへの違和感
審査パネリストからの「3ヶ月引きこもりの期間があったくらい、思い通りにいかないことを既に痛感していると思う。それでもこの活動を続けようと思える熱量はどこにあるのか?」という質問に対する伊織くんの答えは、「今の制度や支援が嫌だ」というものでした。
別のNPOなどで、ヤングケアラー向けのオンラインサロンなどの運営も実際にしていく中で、あまり効果的でないことに気づいていったようです。実際に別の質問で「居場所づくりと、伊織くんがやろうとしていることの違いは?」と聞かれると、次のように答えていました。
結果発表
審査の結果、伊織くんはユースベンチャラーに認定されました!
まだ問題としての名前が付いておらず、見過ごされがちな「ソフトなヤングケアラーの自己決定」に焦点を置いている点、現行の支援では満足いかず、「自分がやらなきゃ誰がやるんだ」という使命感を持ちつつ行動している点などがフィードバックでも言及されました。
これから様々な方策を模索しながら、今は取り残されている子ども達が、自己決定とケアのバランスを自分で決められるような仕組みをどうやって作っていくのか、注目して見守りたいと思います!
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