見出し画像

プラディープ・サルマ:リキシャドライバーに安心感と尊厳を(究極のチェンジメーカー #7)

Pradip Sarmah - リキシャ銀行, Centre for Rural Development (India, 2001)

「究極のチェンジメーカー」シリーズについて
私たちアショカは世界最大の社会起業家ネットワークです。1980年創立以来、アショカ基準の社会起業家を発掘しており、2020年までに世界90カ国以上で約3800人を「アショカ・フェロー」として選出してきました。彼らは、社会にある問題の表面的な応急処置ではなく、それらの歪みを生み出している水面下の仕組みそのものを変えています。この連載では、社会を大きく変えている、「究極のチェンジメーカー」の名にふさわしいアショカ・フェローを一人ずつ紹介していきます!

皆さんは、「リキシャ」という乗り物を知っていますか?日本の「人力車」とは少し違います。

画像1

上の写真のようなリキシャは、インドで毎秒約800万人が使用していると言われている三輪人力車で、インド国内を速く、そして安く移動する事が可能な乗り物です。獣医だったプラディープは、あるリキシャドライバーとの会話をきっかけに彼らの家族の人生を劇的に改善する「リキシャ銀行」というシステムを構築しました。

何気ない会話から

プラディープはある日、リキシャを利用して移動をしている際に、道が渋滞していたため、ドライバーと会話を交わしました。その中で、ドライバーは16年間も勤務しているのにも関わらず、毎日の稼ぎの三分の一を他人に支払いリキシャを借りているという事が判明しました。更に、ドライバーは、一日60-70ルピー(≒約90-100円)を稼いでいるのにも関わらずリキシャを買うお金がないと話したのです。

プラディープは家に帰ってもこの会話が忘れられず、気づくと電卓をたたき計算を始めていました。すると、ドライバーが今までずっと払ってきた借り費で、十分リキシャが所有出来る事が分かりました。弱い立場に置かれた彼らは搾取され続け、貧困から抜け出せない状況にあったのです。

過酷な肉体労働の裏に

リキシャドライバーはインドに約800-1000万人いるとされており、彼らは週7日、そして一日平均8-10時間勤務します。中には、仕事の辛さからドラッグやアルコールといった依存症になるドライバーもいるため、ドライバーとしての仕事が社会的に容認出来ない者としての認識が社会に広がっていました。

また、彼らは路上で生活をしているため、住所がなく、金融サービスや社会保障制度等の十分な社会的サービスを受けられずにいるという状況がありました。病気になったり、ケガをしても、きちんとした治療が受けられないだけでなく、ローンや預金も利用できません。

安心感と尊厳を

これらの問題に取り組むのが「リキシャ銀行」です。ドライバーの生活を改善し、彼らが安心感と誇りを持って働ける環境を作ることを目的として、「リキシャ銀行」は技術・財政・社会の3つの柱を基に構築されています。

プラディープはドライバーへのインタビューを基に、様々な試行錯誤を繰り返しました。技術面としてはドライバーの負担を軽減するために、リキシャを軽量化させる事に成功しました。人間工学を元に改良されたリキシャは、約40%軽量化されています。また、乗客も乗り心地が良いように、床を低く設計したり、重心を安定させることで、傾きや転倒が起きにくい構造に設計されています。

次に財政面では、800万人が一台約一万ルピー(≒約14000円)のリキシャを所有するという巨額をビジネスチャンスとして活かして、インドの4つの商業銀行から事業支援の申し出がありました。さらに、なんとインド史上初のリキシャドライバーが銀行口座を開設出来るという変革ももたらしました。

そして、最後の経済面では、ドライバーが一日当たり支払う24-40ルピー(日本円25-55円)は、借り費ではなく、リキシャを保有するための料金、保険料、リキシャの政府認可にかかるコスト、ユニフォーム、そして身分証明書が全て含まれています。つまり、借り費としていて払っていた金額と同じ金額を「リキシャ銀行」に預けることで、約1年でリキシャの所有が出来るのです。

この3つの柱を改善することで、ドライバーは、リキシャを所有することで安定した生活を送ることや社会サービスを受ける事が可能になり、そしてユニフォームや身分証明書を保持することでドライバーが尊厳をもって仕事に従事できるシステムを作ったのです。プラディープの優れた共感力と柔軟なアイデアで「リキシャ銀行」は今までに一万人以上のドライバーを支援し続けています。


さらに詳しく

アショカによる紹介ページ(英語):
https://www.ashoka.org/en-us/fellow/pradip-sarmah

Center for Rural Development: http://www.crdev.org/

Pradipによるトーク(英語):https://youtu.be/s3i2yLgdtF0

本人のHP:http://www.pradipsarmah.com/pradipsarmah/



いいなと思ったら応援しよう!

Ashoka Japan
アショカの全ての活動は、共鳴してくださる方々の寄付金で実現しています。少額でもとても励みになりますので、ぜひご支援のほどよろしくお願いいたします。