味なニッポン戦後史 読書会
帯に、「味の素はヤバい」ってーーーどうして信じたの?
日本人の味覚を問い直す!異色の戦後史
日本人の味覚を深く掘り下げた異色の戦後史に舌のみならず脳にも刺激を受ける一冊。
食とか味とかここ数年来、否が応でも耳雑学が増えている気がする。僕だけではあるまい。
しかしこれ一過性のブームではないと思っている。「食」や「味」に関しての雑な情報の行き交いの活発さは本能と関係している、という僕の仮説だ。
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「味なニッポン戦後史」
著者 渋川祐子
発行 集英社インターナショナル
味を切り口に章立てされた見事な工夫、読みやすさは著者の文体力と表現力だろうが、
正に異色な戦後史なのである。
2024年4月17日、
著者である渋川祐子さん、編集者である中矢俊一郎さんも参加したzoom読書会が開催された。
著者に直接、感想や意見、質問ができるという贅沢な「空間」である。
時代や環境によって「味」は変化する。舌が変化したのではない、感じ方が変化したのだろう。感じ方の大きな要素には「メディア」の存在は極めて大きい。
味の素の捉え方が象徴的である。いまだに論争が絶えない「味の素」だが、塩も砂糖も油だって時代に翻弄されている。著書を見るとその変遷が詳しく描かれている。好まれる「味」の変遷に何が関係していたのか、そこには善も悪もないし正も邪もない。
例えば本書に書かれている一部抜粋
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「この世で一番うまいものは何か」家康の雑誌の問いに側室のお梶の方は答える。「塩」と。理由は明確で、塩がなければどんな料理も美味しく出来ないと。さらに家康が「一番ますまいものは何か」と訊くとお梶の方はまたも「塩」と答える。「どんな美味しいモノでも塩を入れすぎたら食べられない」と。
ーーそうなのだ、塩加減。何であっても加減の程度。毒も薬も紙一重。
全体を通して根底にあるのは、「健康教」的なる呪縛からの解放を手助けしたいーという著者のメッセージがかすかに聞こえる。このzoom読書会でも、そんなニュアンスを渋川さんは語ってくれた。加減の程度への思いだろう。
主催者の橘川幸夫さんは、1970年あたりに一つの大きな端境期があった話とその周辺のエピソードを聞かせてくれた。また、この本では1980年後半に一億総グルメと言われ始めた時に、食と健康が強く結びついた転換期を取り上げた。
話題は拡がり「嗜好品との付き合い方」や「計算づくではない人間らしさ」などの話は、味覚を通して人間論へ向かうという濃度のある読書会だった。
著者の渋川祐子さんは、最後に
「多様なものがあって欲しい、という願いがある」と言った。「選択肢が多い社会であって欲しい」と。
章立て
うま味-西日本と東日本
塩味-自然塩と化学塩
甘味-甘さを競う野菜果物、低糖ローカロリー
酸味-レモンへの誤解
苦味-ビールとコーヒー
辛味-トウガラシと麻婆豆腐
脂肪味-背徳系と健康系
今回のzoom読書会では、本書に書ききれなかった内容の話も聞けた。抜群に面白い読書会となり次回作もますます楽しみ。
あー色々なものを食べたい、味わいたい!雑多でありたい!しかしお腹すいたなぁ。
みなさん、是非お手に取って読んで頂きたいと思います。その理由は以下の通り
買い物が楽しくなります。記載表示に関心が向くからです。雑学が深まります。戦後からの歴史を知れるからです。自分の舌を疑います。味覚は決して舌だけで感じるものではないと気づくからです。
モノコトフロー研究所
浅沼正治