未来へと意識的に飛び始めたハク。の完全なる熱を帯びた1st アルバム
https://haku-circle.lnk.to/BJDN
今年3月リリースのEP『僕ら』についてのライナーノーツを担当した時に、彼女たちが高校を卒業するタイミングの2021年3月に聴いた『アップルパイ』という楽曲から感じた驚きから書いた。現役女子高生が書いたとは思えない冷静に自身を俯瞰で観察する現実的な歌詞に度肝を抜かれたし、そこに乗っかるメロディーは全く浮足立っていない飄々淡々というヒヤッとした浮遊感ある摩訶不思議なグルーヴ…。なのにポップでキャッチ―で耳に強烈に残る。まさしくアンファンテリブルである恐るべき子供たちでしかなかった。10代から20歳になる大きな成長過程で制作された『僕ら』には、言葉にも音にも熱を感じたが、それは大袈裟でドラマチック過ぎない微熱という何気ない自然体であり、あくまでフラットな視点を持ったままの変化と進化。
たった5ヶ月のインターバルで、遂に1st アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』が発表される。『僕ら』同様、宇多田ヒカルなどのプロデュースや楽曲制作を手掛けてきた河野圭がプロデューサーとして参加。前作でもアレンジや構成など奥行きや幅は感じられたし、それらが変化や進化に繋がっていたが、今までの大きな軸に一切ブレが無く、ハク。らしさが全く失われていなかった。ところが、今作は微熱どころの変化や進化では無く、大きな飛躍を遂げている。もちろん今までの延長線上である事に違いは無いし、ハク。らしさも健在なのだが、完全なる新しいハク。が誕生した。この大きな飛躍は何なのだろうか? 河野と共同作業を続けていく事で相性の良さが大きく実ったのも当然であろうが、全曲の作詞作曲を手掛けるあい(Gt&Vo)のクリエイティブなクオリティー&センスが大きく開花している。それに伴って、バンドが生み出すグルーヴ感も圧倒的な成熟を魅せた。その点に最初に気付いたのは、『僕ら』レコ発ライブでもあった3月の心斎橋Pangea。これまでのライブに感じていた楽曲同様のフラットな微熱では無くて、明らかな新しい熱を感じた。『僕ら』以降の未発表新曲が早くも鳴らされた事に驚いたし、それも迫力あるグルーヴで威風堂々と鳴らされる。尋常じゃないスピードでの進歩で次なる局面へと突入していた。兎にも角にも、音と言葉が研ぎ澄まされまくっている。
1st アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』は、『僕ら』収録の『ハルライト』・『直感 way』・『ナイーブ女の子』・『無題』という全4曲も収録された全10曲。まずは1曲目『回転してから考える』を一聴した時点で、今までとの絶対的な違いを感じる。トラックメイキングと勝手に錯覚してしまうイントロダクションにおける心身ともに弾むしかない的確なビート。もちろんバンドによる生音であるが、メンバー4人の演奏へのストイックな対峙に身震いすら覚えた。そこからサビでの『回転してんだベイべ』という言葉と共に、4人のグルーヴが爆発していく感じ…。もはや微熱なんかではない完全なる高熱だ。覚醒などという使い古された言葉を使うのは基本的に嫌なのだが、これを覚醒と言わず何と言う。
『ハタチになった特権で少しだけ意識を飛ばしてみた』
意識的に熱を帯びている、それもハタチという年齢きっかけで。文句のつけようがないぶっ飛ばしてくれるオープニングナンバー。こちらも使い古された言葉なので安易に使いたくないが、これを初期衝動と言わずして何と言う。『今夜しつこく踊ろう。』という言葉で〆られるが、まさしく、しつこく踊らさせてくれるアルバムの始まりを高らかに宣言している。
続く『自由のショート』。ハク。真骨頂の淡々飄々としたリフレインから鳴らされていくが、1曲目でも感じた演奏グルーヴの鉄壁さは変わらない。思わずゾクッとする感覚…。それにより一層伸びやかに歌が届けられる。弱さや虚しさを引き受けた上で、数年後という未来への強い意志が込められたナンバー。また、『夏熱と秋風』という歌詞も歌われるが、この熱い夏ながらも、どこか秋風のような涼し気な空気も感じられる。やはりハク。は独特の浮遊感で踊らせる稀有な存在のフレッシュなバンドだ。この冒頭2曲を聴いただけで、とんでもないアルバムだという事が早くも伝わってくる。
『僕ら』で肝となったのは、『直感 way』で描かれた浮足立たない直感の強さであった。だからこそ、このアルバムで『直感way』の次に並ぶ『第六感』は気にならざるおえない。空を飛んでいったカラスと自分を照らし合わせて、自由な妄想に惹かれる人間を描く。たゆたうドリーミーサウンドと相まって誠に心地好い。目に見える直感を信じながらも、目に見えない第六感も信じたくなる。相反するかも知れないものを従順に信じる姿は至誠としか言い様が無い。
ミドルテンポながらもアッパーさも感じさせる『なつ』。季節の歌における根拠無き能天気な元気さや明るさが個人的には苦手だが、ハク。の季節の歌は『ハルライト』でも感じた様にトゥーマッチな押し売りが皆無なので心から信頼できる。気にしない想いと気にしたい想いが若さゆえにこんがらがりながらも、ゆらゆら前向きに日々を過ごしていく。規則正しく行進していくリズムに揺れる気持ちが乗っかるアンビバレントさが甘酸っぱい夏をナチュラルに描いている。
時代の流れや欲望の渦といった不安さを生き急ぐか様に表現する律動感に惹きこまれていく。曲順として終盤の8曲目『君は日向』だが、改めてブレが無い演奏の正確さがあるからこそ、安心して聴けるし、高揚感さえ得られるのだなと想う。あいによるラストでの『ワン・ツッ・スリー・フォー』というクールなカウントにも趣を感じる。冷静と熱情を感じるアルバムに仕上がっていると再認識しながら、いよいよアルバムタイトルにも繋がるラストナンバー『僕らじゃなきゃだめになって』へ。
5月に先行リリースされた楽曲。ハク。ならではの微熱を感じさせる飄々淡々としたフラットなメロディーであったが、『変わらない僕が居る。』『変わりたい僕が居る。』という歌詞の対比が気になっていた。アルバム楽曲について、相反するやアンビバレントといった言葉で書き表してきたが、その兆候が既に顕著に表れていた楽曲かもしれない。子供から大人の成長における二律背反的な気持ちを見事に描写している。
『愛しい 愛しい 愛しい 愛しい』
消え入るような声で囁くように呟かれる。人生で一度きりの子供から大人になる成長の瞬間を、自分で愛しいと言いきる尊さ。美しきラストナンバー。
楽曲タイトル『僕らじゃなきゃだめになって』。
アルバムタイトル『僕らじゃなきゃダメになって』。
だめとダメの違いは何なのだろうか。だめからダメになった事で、より強い気持ちが伝わってくるのは私だけだろうか。
そして、最後にジャケットにも触れておきたい。ハク。のジャケット特徴といえば、チャーミングながらもセンチメンタルな可愛らしいイラストであった。最近はアーティスティックで抽象的な魅力を感じさせるジャケット写真になっている。しかし、シングル『僕らじゃなきゃだめになって』のジャケット写真には具体性があった。フェンスに何気なく置かれたばらの花。何気ないのだが、そこには儚さや切なさと共に、咲き続けようとする覚悟すら伝わってくる。で、アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』のジャケット写真だが、青い海を見つめるメンバー4人の背中が写っていた。これから大海へと漕ぎ出していく姿を観ているようだ。アーティスト写真も青空をバックに、メンバー4人が岸壁に座っている。自然な表情でカメラを見つめる4人。柔和ながらも凛々しさを感じる。
言いたい事、つまり伝えたい事、届けたい事、広めたい事は、全て書いたので、もうこれ以上書く事は無い。いわゆる〆の文章は特に無いのだが、でも、これだけは最後に書いておきたい。
ハク。1st アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』は大傑作。
文・鈴木淳史
(ライター・インタビュアー・ラジオパーソナリティ)