風通しの良い家族ってなんだろう
スロウな本屋さんのフラワー読書会『29歳、今日から私が家長です。』に参加した。ナビゲーターはてつがくやさんの松川えりさん。
(以下、ネタバレを含む感想です)
小説の前半は違和感にモゾモゾして、なかなか読み進めることができなかった。娘が両親を雇用して「家女長」になるということが私には受け入れにくいのだと、読み止まる度に実感した。自分の中に確かにある、内面化している〈秩序〉の存在に気付かされる。
「あー、読むのやめようかな、いかんいかん、読書会までに読まなきゃ!」って思いながら読み進めるうちに、気づけばどんどん引き込まれていた。心に迫る箇所に付箋を貼りながら読んでいたら、ラストにかけて本が付箋だらけになった。まるで作者に伴走しているような読書感覚。
冒頭からグイグイ引き込まれる本も良いが、こんな風に自分の中にあるブロックを感じられる本も良いなって、読み終えて思った。読み通すから味わえるよろこびがある。
そして、やはり嬉しいのは、読後に読書会が待っていること!
スロウな本屋さんの読書会やてつがくカフェでは、いつも安心して感想を共有したり、問いを投げかけたりできる。そうできる理由は3つあると思う。
一つ目は私が店主の小倉さんが選んでくださる本を信頼していること。二つ目は松川さんのナビゲート。松川さんが、参加者の対話が迷子にならないようにポイントを明らかにしたり、絞ってくださっていること。また、モヤモヤをモヤモヤのままシェアできる場を守って下さっていること。三つ目は、参加者の皆さんの誠実さ。皆さんから本の中で好きな箇所、印象に残った箇所を聞きながら、「そこ、確かに素敵!」「私もそう思った!」「私は読み飛ばしてたけど、その箇所大切だなぁ」…など、本をいろんな角度から味わい直せるのが楽しい。
この本の中で好きなのは、変えられないことを深く考えず、変えられないことをあきらめてきたボキが、スラやウンイと働き、スラの周りの人たちと関わりながら、それは「本当に変えられないことなのだろうか」と考えるようになるところだ。人は変わることができる。その人がその人のままで尊重されて、変容していける関係をつくることは不可能ではないのだと読みながら感じさせてくれる。
参加者の方がスラとウンイとボキを、「風通しの良い家族」と表現されていて、共感した。そして、どうして3人は風通しの良い家族でいられるのかな…と対話の中で皆さんの言葉を手掛かりに考えた。互いの仕事に敬意を持つこと、互いに尊敬していることって、家族だけではなく人と人との関係の中でとても大切なことだ。
また、他の参加者の方からの、「この本は冒頭から『言葉』を重要視している」という指摘にハッとした。“言葉というのは秩序であり権威だ” (p.8)というところ。この方がおっしゃったように、この本を「言葉」という視点から読み直したら、また新しい世界が見えてきそうだ。
読書会で松川さんもおっしゃっていたように、この小説には「家父長制と家族」と「書くこと」という二つのポイントがあると思う。作者は新しい家族の形を実験的に描き、描きながら“自分の美しさを自分で作り出” (p.294)している。
読み終えて思う。私にもできるかもしれない。“家族の遺産のうち、良いものだけを受け継ぐこと”、“家族を愛しながら、彼らのもとから遠く離れること”、“近くにいながら憎まずにいられる” (p.295)ことが。
家族ってなんだろう。風通しのよい関係でいるためにできることはなんだろう。この本はそれを考え、実践する手がかりになる一冊だ。
色々他にも思ったことがあるけれど、今日はここまで。
読書しながら作者と対話して、読書会で皆さんと対話して、こうして書きながら自分と対話して、また作者に会いに読んでみようって思えるこの瞬間がとても好きだ。
スロウな本屋さん、松川さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。
追記:「他人の乳首に構うな」(p.220)問題はあらためてじっくり考えたい!