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彼は本当はタイを愛したいと思っている

(これは以前書いた日記をリライトしたものです。日本人の僕が見たタイのことを、今一度記録として残しておきたいと思って掲載しました。)

僕にはタイを憎んでいるタイ人の友人がいる。

彼のおじいさんは日本人だ。彼はよく「俺は日本人の血が入った大和民族だ」と主張した。日本こそが祖国だとして、日本を愛していた。

そして彼は心からタイが嫌いだった。口を開けば、タイの悪口を言っていた。悪口と言うとかわいく聞こえてしまうが、そんな生優しい感じではなく、ほとんど憎悪に近かった。

彼はタイ人のルーズさをいつも指摘していた。
「彼らはいつも遅刻する。他人の時間を大切にしようという気持ちがない」
と嘆いた。

また彼はタイ人の運転にいつも腹を立てていた。車間距離をとらずに、猛スピードで後ろにつけてくる車。急に車線変更し、目の前に突然割り込んでくる車。そういう車に対し、憤りを露わにしていた。一触即発、下手したら路上で乱闘が始まりそうな予感さえした。

あまり詳しくは述べられないが、彼はタイのことを、何度も非難した。政治のことを、警察のことを、役人のことを、何もかもを非難した。

彼はタイを憎み、その結果、タイも彼を許さなかった。

タイにおいて自国民である彼の心の根底には、もう憎悪がこびりついていたのだ。ちょっとやそっとじゃ拭えない。生まれながら備わっている特質のようにも見えた。

そして彼はタイを去った。

僕はかつて彼がタイを鋭い眼差しで睨みつけるのをよく目にした。でも本当は、それだけじゃないと思いたいという僕がいた。

だから僕は彼がタイを去っても、彼と会い続けた。彼はタイ人であるのだから、タイを愛する気持ちが必ずあると思いたいと思いながら。

たぶん僕は、彼にタイを愛してほしいと思っていたのかもしれない。タイを本当は愛したいという気持ちが彼に見え隠れしていたから。

2020年10月20日


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