一片:二月十日、雪、夜
これは虚飾と虚栄を塗り固め続けた結果の私の話。
書く内容もお利口に行儀よく書いたものになると思う。
二月十日。今日という日をこの先私は忘れることはないと思う。
左に目を向ければ、はらはらと舞い降る雪。
右に目を向けると、積み重なる白い箱、箱、箱。
積もっていくものと、行き去っていくものが半径一メートル以内に混在している。狂いそうになるような感情を理性で抑え込み、作った愛想笑いを浮かべるのが関の山だった。
この二ヶ月、私がまともに掛けることが出来た言葉は
「ありがとう」「いってらっしゃい」「おかえり」
この三つくらいだったと思う。そして、そのドアを閉じる間際の言葉も
「じゃあ、またね。『いってらっしゃい』」
だった。ドアの前での笑顔もまた忘れることは無いと思う。
流れていた曲はSOS / ABBAだったかな。なんだっけ覚えてない。
ただ、皮肉なものだなって思ったのは覚えている。
そこから先は少し泣いた。
ただ直ぐに仕事の連絡がきて
落ち着いた頃には雪が積もり、夜の帳はおりていた。
なにかに置いていかれた気持ちが急激にきた。
部屋を見回す。
嗚呼、広い。広すぎるんだ。改めて一人でいることを実感した。
自分が引き起こしたことだということはもう十分わかっている。
だからこれ以上自分を追い詰めるような振り返りもしない。
ただ、ただ、今は悲しく、寂しい。のだと思う。
年齢に見合った内容じゃないかもしれない。
でも、それでも、今日は下を向くことしかできない。
明日は前を向く。だから今日はおやすみ、おつかれ。
ありがとう。
なんて、今全部を素直に思えるわけなんてない。