死なないとダメ?(「東京卍リベンジャーズ」レビュー)
「なんでもっと早く言わないんだよ?」「なんで言われたことしか出来ないんだよ?」「この仕事の目的分かってんの?」。部下を持つ人であれば一度は、いや何度も、口に出すか出さないかは別として、思ったことがあるセリフではないだろうか?私もそんな一人なのだが・・・。そんなことを常日頃思っている人に漫画『東京卍リベンジャーズ』(以下「東リべ」)をオススメしたい。
なぜオススメなのかをお話する前に、前述のような、質の低い仕事を部下がしてしまう原因を考えてみよう。大抵の場合は、自分たちの会社の理念を部下が共有出来ていないから起こっている。自分たちが何のために、何を最大化しようとして仕事をしているかを理解している部下は、このような質の低い仕事はしない。だから会社は、社訓の唱和、社員研修などで理念共有を促し、部下とのコミュニケーションの機会を増やし、褒めることで部下の承認欲求を満たし、会社の理念を共有してもらうように努力する。
しかし大抵の場合、そんな努力は無駄である。若い社員たちは、全くやりたくない唱和をし、つまらない上司とのコミュニケーションに飽き飽きしているからだ。だからそんな努力よりも、本当の理念共有の特効薬になる方法が描かれている「東リベ」を読むことをオススメする。
まずは「東リべ」の簡単なあらすじと作品紹介をさせていただこう。まずはあらすじ。主人公・花垣武道(タケミチ)は、26歳の取り柄のないダメフリーター。偶然かつてのカノジョだったヒナの死を知り、自分も電車のホームで突き飛ばされる。ホームに入ってきた電車に轢かれるその瞬間、タケミチは12年前にタイムリープする。そして、ヒナが殺された原因となる暴走族「東京卍會」と関わり、未来を変えてヒナを救おうと奮闘する。(※1)この作品は、大ヒット漫画「新宿スワン」の作者として有名な和久井健の作品だ。そして作品の世界観を説明するとしたら、同じ講談社漫画のマスターピース「特攻の拓(ぶっこみのたく)」と「代紋TAKE2(エンブレム テイクツー)」を足して2で割った感じといった具合だ。
そしていよいよこの作品最大の特徴を説明したい。この漫画「東リベ」の最大の特徴は、多くの死だ。はっきり言って、どんどん死ぬ。仲間も敵もどんどん死んでしまう。正直、私は読みだした初期の頃、あまりにも多すぎる死でこの作品を嫌いになりそうになった。しかし、何故こんなに大勢が死ななければならないかを考えながら読み進めた結果、そこにはこの漫画から我々が学ぶべきテーマがあった。それが、「理念の共有」だ。
「東リベ」では多くの仲間が死ぬ。そして仲間が死ぬ時は、必ずタケミチへ理念が共有されていく。それはまるで、タケミチに理念を繋ぐために自分の命を投げ出しているような印象さえある。そういう死。理念を繋ぐ死が繰り返し繰り返し描かれていく。
そもそも、理念の共有が出来るのは人間だけだ。会社はもちろん、宗教や国家など人間の寿命よりも長い理念を繋いでいけるのは人間だけだ。寿命より長く理念を繋いで行くために、人はなにかを残して死んでいく。
この、死によっての理念の共有というテーマは、「東リべ」以前のフィクション作品にも度々描かれている。例えば「鬼滅の刃」の煉獄杏寿郎は、自分の命をかけて炭治郎を守ることにより、鬼を絶滅させるという理念を継承した。「スターウォーズ」のオビワン・ケノービも、自らの死を持ってルーク・スカイウォーカーへ正しいフォースのバトンを渡した。また、「あしたのジョー」の矢吹ジョーは、死んでしまったライバル力石徹と理念を共有したから、パンチドランカーになってまでも最後までボクシングを辞めなかった。
このように、先達の死によって理念の継承・強化が行われる例は以前にもあった。だがここでもう一度考えておきたいことがある。なぜ生きたままでは理念の共有ができないのか?だ。これを説明するのにまた会社を例にとろう。会社という組織内においては、上司の方が存在感もあるし、責任のある立場に居る。この当たり前の事実が時に部下のやる気を削ぐ。つまり、自分より存在感があって責任のある人間がそばに居れば、誰だってその人間に頼ってしまうし、周りの人間だって上司の方を重要視する。部下は、自分より会社の理念を分かっていて使える人間の下で仕事をしている、という甘えが生じる。その結果、部下が会社の理念を心得た行動をとることを阻害するのだ。さらに、上司がずっと現役で頑張って部下を育てるとどうなるか?どんなに仕事ができる上司でも、理念の継承は難しいことは簡単に説明できる。想像してほしい、スーパースターのキングカズやイチローが上司だったら、あなたは仕事が頑張れるだろうか?最初のうちは、スタープレイヤーの下で働ける喜びがモチベーションになるかもしれないが、そのうち、絶対に抜けない上司の存在が疎ましく感じるではないのだろうか?やはり、生きていてはだめなのだ。死によって理念を共有するのがベストなのだ。教えを乞うべき人間が死んでしまったのなら、自分が一番の人間になり、存在感も責任感も増すのだ。
何も出来ない若い人間に任せて上手くいくわけがないという人がいるかも知れない。だが心配しないでほしい。「東リべ」を読めばそんな心配も不要だと分かる。これは「東リベ」独自の特徴で、同じ死による理念の共有をしている前述の「鬼滅の刃」「スターウォーズ」「あしたのジョー」たちと決定的に違う点なのだが。それは、主人公タケミチが強くならない。ということだ。前述の作品の主人公たちは、先達の死をきっかけに強く成長していく。それに対してタケミチは、特別強くならない。これがまさに現代の理念共有・継承の方法を提示している。つまり、現代の仕事において、少々乱暴な言い方になるが、スキルは要らないのだ。インターネット・SNSの発達により、大抵のスキルは何でも検索し入手可能だ。あとはそれの組み合わせだったり、それを調達する力の方が求められるのが現代の仕事なのだ。だから、スキルがないから任せられないというのは、理由として成立しない。
だから、安心して部下に任せ。そして自分は死ね。これが東リべ流の理念の共有・継承方法だ。部下が質の低い仕事をしている時には、自分が死ぬしかないのだ。しかしリアルに、生命的に死ぬのは私だって嫌だ。だから居なくなれば良いと思うのだ。部下に任せて、自分はさっさと居なくなるべきなのだ。そんなことをしたら、会社での自分の居場所がなくなると思う方がいるかもしれない。しかし、部下に任せて居場所がなくなるような、その後の新しいチャレンジが見つからないような会社は辞めてしまった方が良いのだ思う。だから私は断言する。漫画「東京卍リベンジャーズ」を読めば、きっと部下は機能する。
〈参考〉
※1
『東京卍リベンジャーズ』全巻ネタバレまとめ !重要キャラを踏まえながら最新巻までを徹底解説 | プレイリスト&カルチャーメディア | DIGLE MAGAZINE
https://mag.digle.tokyo/manga/tokyo-revengers/about