横顔の影
動物の横顔が好きだ。
真正面の視線はとても強くて、命で、音がある。
常日頃情報の多い世界で生きてる中で
なんにせよ表情を真正面から受け止めるというのはなかなかに私にとって体力のいる行為なのだ。
その中で横顔は、正面よりかは静かだ。
感情もわかるし、なぜだかその向こうの景色が見えるのが横顔なのだ。
正面からだとエネルギーを受け止めるだけで精一杯だが
横顔だとその人が今いる状況、背景、感情
それが少しだけ透明さを得る。
時代を生きているなあと思うのだ。
特に横顔が素敵なのがわが愛犬だ。
これはすべて愛する人間以外の家族がいる方はわかってくれると思う。
私は今でもただじっと庭を眺める愛犬の顔が
世界で一番静かで、今をとても生きている世界で一番透明な存在だったと確信している。
私はそれがとてもとても好きだった。
暑い日々が続く。
久方ぶりの花火の催しに、ついには蝉が鳴き始めた。
とても私が、いやでたまらない季節だ。
生々しい人間が特に生々しくなる季節だと思うのだ。
ただ夏野菜はすごい良い
良いといいたいが今年はすごくとても水不足だそうで
そりゃ火も起こるし人も死ぬ。
迫りくる生と死が、とても生々しいなと思ってやまない。
涼し涼しと思いたいが、蝉はいつでも暑さを歌うし
日が煌々と世界を照らすのはとても喜ばしく畏れてやまないことなのに、すごく逃げたくなることでもある。
ただ太陽光と風が、ただ昔からあるところに私がいてしまっただけなのに。
涼しくなったら愛犬の命日が来る。
それもまた、私が夏を苦手とする一つの話なのだ。
あの透明な瞳と、命が宿ったまつ毛と
それに差した日が落とした影が、きっと私の世界で一番涼しい一瞬の一つであっただけに