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わたしはもう、死んでいる。雑魚チャトレの被災
今年の1月1日、震災に遭った。
スマホで稼働ができない。アラーム音が鳴るから。情報が必要だから。
そもそも稼働のメンタルにならない。
画面越しの男たちは、地震があろうがなかろうが、お構いなしにエロを求めてくる。
身バレが怖いので、今ちょっと揺れたとかそんな話はできない。
居場所を知られたくない。
すごかったみたいですよね…地震、
大丈夫なんですかね…?
他人事のようにふるまって何日か稼働した1月であった。
チャットを始めて途切れない常連さんは、掃除機の男、転生してきた元彼のほかにもう1人いた。
いわゆるガチ恋であった。仕事で少し時間が空いたから昼間、夜はちょっとさみしくなったからとずっとずっと、わたしにお金を落としてくれた。
住んでいる場所はかなり遠い。だが、かわいいななちゃんにいつか会いたい会いたい大好きだと言っている。
今日はちょっとアダルトできない、したくないんですと正直に言うと、わかった、じゃあずっとおしゃべりできるね!ななちゃんの控えめなところが好きだよと2ショットの時間をたくさんとってくれる。
肩書きのある紳士にまっすぐ情熱を向けられ、求められるのは悪い気はしなかった。主導権は自分にあった。
そのガチ恋の客にも普段通りに接した1月だった。
2月に入り、わたしはすっかり参っていた。
「今揺れた?揺れたよね?」と何回も何回もスマホを確認していた。揺れていないのに揺れているかもしれないと体が感じてしまう。常に船酔いのような感覚で、夜もよく眠れない。家族と狭い部屋に一つになって寝ている。
雪が積もってゆく。
明日はどうなるかわからない。
寒い。
新年を祝う1月1日に被災したというのがわたしの中に影を落としていた。
あの日、わたしは初詣に来ていた。地震には免疫がなかった。立っていられないほどの揺れ。揺れのせいで地面から体が投げ出される。神社の石が崩れ、あれだけ並んでいた人々は散り散りになった。駐車場整理員が避難してその場にいなくなっていたため、車が混雑し、帰宅できたのは夜遅くだった。幸いにも自宅に損傷はなく、家族も全員無事であった。
テレビの画面は地震情報だけである。津波が来るかもしれないので日本地図が消えない。楽しみにしていた正月番組もやらない。
なんだよ。大津波警報って。
めでたい日だったのになあ。
メンタルが回復しない。
わたしはコロナ禍に「なんだかよくわからないけどすんげー不安」といううつ状態になったことがある。休職したが回復せず、自分を騙し騙し働き続けている。
今回は地震という明確な原因があるが、揺れの回数も減り、衣食住に困ることも今のところない。復興に向けて、少しずつ動いている。本業の職場でひび割れた床も全部もとにもどった。
なのにすごく不安で、悲しい。
そんなとき、ガチ恋客からのメッセージを受信した。
「ななちゃん、元気ですか?
最近あんまりチャットできないですね。
お忙しいですか?
無理は言いませんが近々お話できたら嬉しいです。
返信待ってます。」
ああこの人になら、全部話そうかな。
この漠然とした不安、正直に言っちゃおうかな。
わたしが地震に関して過剰反応するため、家族がすごく心配していた。わたしに対する不安が大きくなっているのがわかるので、感情は押し殺していた。
素性のわからない相手なら吐き出してもかまわないだろう。
「メッセージありがとうございます……」
実は、被災していたこと。
メンタルが安定していないこと。
自分だけが前を向けていないような気がすること。
チャットをする気分になれないこと。
洗いざらいとまではいかないが割と正直に、シンプルに、自分の気持ちを吐き出した。
ガチ恋から返事が来た。
「大変だったんだね。まずは体を休めて。
心がつらいときは、好きなことだけをして。
ななちゃんが落ち着くまで、待ってます」
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