タロミケ:ネコの2025年
「にゃあ、ミケ」
タロの呼びかけも無視して、ミケはのんびりと毛づくろいをしている。
「おい、ミケってば!聞いてるのにゃ!?」
タロの二度目の呼びかけでようやくジロリとミケはタロの方へ目を向けた。
「どうしたんだミケ、機嫌でも悪いのにゃ?」
「神聖な俺の毛づくろいを邪魔するにゃ!」
そして2匹は新年1回目の軽いケンカをした。といってもいつも仲良しの2匹はお互いにケガをさせるような事は絶対ににゃいのだが。
「にゃあ、ミケ、俺たちってなんでケンカしたんだっけにゃ?」
「わかんにゃいにゃ、まあいいにゃ、なんか用かタロ」
ケンカの最中にはもうこんな事を言って2匹で仲直り、というよりも全てを忘れています。
「そうそうミケ。オマエにゃ、確かミケネコだったよにゃ」
「そうよ、俺様はれっきとしたミケネコのミケ様よ。それがどうしたにゃ?」
「俺の記憶が確かならばにゃ、ミケネコっては確かメスしかなれないんじゃなかったかにゃ?オマエ実はメスか?」
「タロ、オマエ今頃気がついたのか、やっぱりオマエの頭はちょっと足りないにゃぁ…。俺はミケネコだけどオス、10万匹100万匹に1匹と言われる貴重なミケネコのオス様よ!どうだ、オマエみたいな適当なハチワレにはちっと近寄れない威厳を感じないにゃ?」
にゃにゃにゃんと!ミケはあの貴重なミケネコのオスだったのです!
「なんだただのオスか…、メスだったら彼女にしてやったにゃ、でもオスだろ?オスならば今まで通りの友だちにゃ」
タロはいきなり興味を失って、また地べたに座るとさっきのケンカで乱れた毛並みを丁寧に毛づくろいはじめた。
「にゃあタロ、オマエ今日はマグロ食ったにゃ?」
「ああ、朝早く適当に家回りしてたら3軒で刺し身をくれてにゃ。にゃんとマグロが入ってたぜ!もううまくてにゃー、夢中で食べたにゃ!」
タロはマグロの味を思い出すと思わずまたよだれがたれてきた。
「ミケ、オマエはマグロ食えたのかにゃ?」
ミケは待ってましたとばかりにニヤリと笑みをうかべ、タロの方へと向き直った。
「ふふふ…タロ…、オマエみたいなアホのハチワレにはわからなくても仕方のない事かも知れにゃいにゃ…。オマエ、マグロにも種類がある事を知らないだろうにゃ…」
タロはそれを聞くとびっくり、目をまんまるにして耳をピンと立て、毛づくろいを止めてミケの方を見直した。
「にゃにゃにゃ、にゃんだって!?あの至高の美味のマグロに、種類があるだって!?」
「そうにゃ。そして至高の中の至高と言われるマグロこそ、今朝俺様が召し上がったマグロの王、クロマグロにゃ!」
タロはあまりの驚きい思わず後ろへでんぐり返しになり、そのままの姿勢でミケをじっと見つめた。クロマグロを食べたというミケに後光が指して見えた。
「にゃんだってー!クロマグロ…じゃあ俺が今朝もらったマグロはなんだったにゃ!俺がもらったマグロは黒くはなかったにゃ!」
「だからオマエはバカって言われるにゃ。クロマグロっていってもそれはきっと魚だった頃の色の話にゃ。我々ネコ様が召し上がるように切り身になった時はどのマグロも赤かピンク色をしてるもんにゃ。」
「ほほう、色はみんな同じなのにゃ。じゃあミケ教えてくれにゃ!クロマグロかどうかはどうやってわかるんにゃ!」
「ふふふ…タロ、オマエの鼻と舌でわかるかどうかは難しいにゃ。しかしにゃ!俺様にはわかるにゃ。クロマグロはにゃ、なんとも言えないいい香りがぷぅんとしてにゃ、食べると生臭みが一切なくて、マグロの甘みだけを濃縮したような芳醇な旨味が口の中いっぱいに広がるんにゃ。」
タロは朝もらったマグロの味を思い出してみた。確かに美味しいマグロではあったが、そう言えば少し臭みがあったような…そう言えば少し旨味が足りずに水っぽかったような…そんな気がするとそのマグロの王クロマグロの味が気になっていてもたってもいられなくなってきた。
「そんなうまいマグロ、食べた事がないかも知らんにゃ…」
またタロはよだれをこぼしてじっとミケを見つめる。ミケは得意満面な顔でタロを見返してさらに続けた。
「やっぱりにゃ。多分オマエが食べたというその水っぽいマグロはミナミマグロかせいぜい冷凍のインドマグロにゃ。俺達高貴なネコにとってはそんなマグロは代替マグロ、マグロのB級品、本当に食って立派なネコになるにはクロマグロを食わないとにゃ。」
タロはがぜんミケがうらやましくなってくると言った。
「ミケ!クロマグロがある家を紹介してくれにゃ!俺もクロマグロ食ってもう少しかしこくなりてえにゃ!」
「わかった、正月だし、特別にあの家をオマエに紹介してやろう。でかい家じゃないが、主人の食い物の趣味がよくてな、いつも一級品を揃えている、ニンゲンにしてはなかなかいい心がけの家にゃ。よし、ついてくるにゃ。」
2匹は正月だというのに、にゃにゃっと出かけていきました。
みなさまも良いお正月をお過ごし下さいね。
2025/1/1 みゆき・シェヘラザード・本城
あとがき
10万匹に1匹なんて問題よりも、きっとネコにとっては美味しいマグロが大事です。わたしたちもそんな数字やスペックに踊らされる事のない、美味しい毎日を過ごせる1年にしようではありませんかにゃ?