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朗読:枯れない花物語4「画家」

花の事は親父から聞いていたよ。親父が森に籠もって絵の制作をしている時だったとか、その花に出会ったんだそうだ。
死んだ親父も、まあろくでもない絵を高値で売ってるようなしょうもない画家だったけどな。若い頃は全く売れなくて、森に籠もって絵を描いて、満足のいく絵が描けなかったら毒キノコでも見つけて死んじまおうと決意して森に籠もったんだそうだ。

当然だが、こんな決意をするような精神状態で絵なんてろくに描けるもんじゃない。やはりろくでもない絵しか描けなかったようでね、決めていた通りに毒キノコを食べようかと辺りを探し回ったんだ。しかしねぇ、興奮して外に飛び出したものの、手に灯りもなけりゃ、僅かな月明かりさえ森の中じゃ木の葉に遮られてね。キノコなんて見えやしなけりゃ、よく考えたら親父は毒キノコの見分けも付きやしない。だめだよねぇ、気安い決意ってやつは、何も産みやしない。

それでも親父のやつ、意地はあるからさ。はぐれたオオカミにでも出会って食ってくれないかなんて、まだ考えたらしくてね、森をうろついてたんだよ。大体あんな森、たぬきがいいところじゃないか?
するとどうだい、森の向こうに何やら金色の灯りが見えたらしいんだよ。誰かいるならそりゃ焚き火の炎だろ?金色ではないわな。それが金色なんだとさ。親父のやつ、なんだか興奮したのも忘れておそるおそる光の方へ進んでいったんだ。

それは花だった。親父はその花に「枯れない花」なんて名前をつけた。そして持って帰ろうとも思ったんだが、その花からは神々しい何かを感じたらしくね。慌てて道しるべを作りながら小屋へ帰ってね、絵の道具を持ってきて夢中で絵を描いたんだ。

夢中でどれだけの絵を描いたか、気がついたら意識がなく眠っていて、起きた頃には花は消えていたんだ。そして親父の手元にはたくさんの花の絵が残された。
そこからだよ!親父の絵はとんでもない値段がついて売れだした。1枚で高級車の2〜3台は買えちゃうくらいにな。命の画家、命の花の絵なんて言われるようになってね。街の競売なんか毎月親父の絵で賑わっていたのは君たちも知ってる通りだね。

そういうわけで、親父の絵は実は本物の命、枯れない花を描いたものだったんだよ。そりゃ本物の枯れない花をモデルに描いたんじゃ、いい絵がかけるよな!
はっはっは、これで俺が持っている親父の花の値段もあがるかな。来週の競売には是非みんなで来てくれたまえよ。

2024/7/23 みゆき・シェヘラザード・本城

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