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アンティーク着物と古裂と私 vol.1はじまり

結婚前、結婚してからの計8年間、
アンティーク着物と古裂(こぎれ)を販売する店で働いていました。
ひとりで着物を着ることも出来ない、
骨董市にも行ったことがない、
販売員の経験もない私が飛び込んだ世界のことを
何回かシリーズで書いてみたいと思います。
ご興味ある方はおつきあいください。

◇◇◇◇◇◇

両親が、古いものが好きでした。
何に使うの?と使い方がよくわからない道具や、見るからに古そうな器や木で出来た民芸品などが、物心つく前から家の中にありました。
名のある作家の作品といった高級品ではなく、煌びやかさとはかけ離れた素朴なものばかりです。

「おそらく〇〇時代ですね」
「○○製と聞いています」
「ほら、裏の印、これがあるのが本物なんです」
「こういう風に使ったのかもしれませんね」
骨董屋さんとの会話。
両親が出あい、縁あって我が家にやってきたものたち。

父は、自分の眼を信じ、美しいと感じる心を持っていたと思います。
母も昔から古いものに魅かれるタイプだったようで、ふたりで骨董市に行くこと、古道具屋さんをのぞくことを楽しむ夫婦でした。

◇◇◇◇◇◇

大学を卒業した私は、海外研修中の先生の代理として期間限定の勤務をしたり、家庭教師をしたり、図書館司書をしている友人のヘルプとして高校の図書館で働いたりしていました。
そんな中、母の知り合いである方から
「今度、路面店をオープンするのだけど、店員をやってみない?」
と声をかけてもらいました。
ちょうど図書館も、司書資格を持つ人を新たに探すような状況だったので(私は資格がなかったため、司書の友人に言われた雑務をこなしていました)「私でよければぜひ」と店員として働くことを決めました。

◇◇◇◇◇◇

その店は線路沿いにありました。
古い家屋だったので、強風が吹くと店全体がガタガタと揺れ、出入り口の(引き戸)鍵の開け閉めにもコツが要りました。

扱う商品は、江戸後期から昭和初期にかけての古裂(こぎれ)と、駄玩具、そして大正、昭和初期のアンティーク着物

古裂というのは、着物や帯をほどいて布の状態に戻し、それをサイズ別にカットしたものです。
用途としては、ちりめん細工や和小物、お人形用の着物材料として購入される方が多いですが、額装して布の柄を楽しまれる方もいらっしゃいました。
サイズはさまざまで、手のひらに乗るほどの小さな古裂もあれば、着物の袖分の大きさサイズのものもあったり。
時代が古いものは劣化し弱くなっているので、江戸時代後期の布は触っているうちに裂けてきてしまうものもあり、セロファンの袋に入った状態で売られていました。
こぎれを「古裂」と表記しているのは、オーナー(私に声をかけてくださった)がこの書き方を好んでいたので真似をしました。手芸や骨董関連の書籍では「古布」「はぎれ」と書かれていることも多いです。

駄玩具は、たとえばセルロイドで出来たおもちゃや置物だったり、ブリキのもの、チープな髪飾り、キッチュなブローチ、キャラクターもの、飾りボタンにガラスのおはじき、きいちのぬりえ、すごろく、マッチ箱のラベル……懐かしさと楽しさで心が弾み、見ているだけでワクワクする雑貨です。
玩具とありますが、遊びに使うのではなく、集め、見て、楽しむ方が大半。
骨董市やアンティークフェアやショップをコツコツめぐり、長年かけコレクションされているお客様が大勢いらっしゃることを知りました。

アンティーク着物は、私が働き始めた当初は「着物」と呼ばれていました。
雑誌やメディアで取り上げられるようになったことから、「アンティーク着物」「昔着物」というワードが一気に広まったと記憶しています。

大正から昭和初期にかけての女性の着物、帯、着物小物(刺繍半襟、帯留めなど)で、多くの商品が中古品です。
中には一度も袖を通していないと思われる新古品も稀にありましたが、基本的には中古になります。
今は「リサイクル着物」という言葉の方を、耳にする機会が多いかもしれません。
店では、大正から昭和初期にかけてのものを「アンティーク着物」「昔着物」、戦後のもの、現代に近いもの(現代もの)を「リサイクル着物」と呼んでいました。
「アンティーク着物」であるかの見分け方は、ずばり大きさです。
昔の女性の体のサイズは今の私達より小柄なので、アンティーク着物を着ると「この着物、小さい!!」問題が生じてきます。
帯も同様に、長さが今のものより短いです。
それらの難題を何とかクリアしてでも着てみたい、そんな気持ちにさせる魅力的な柄行や色が多くあり、国内のみならず海外の方にも愛されています。

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開店準備をしながら、初めて目にする品々に心が躍りました。
ほぼすべてが見たことも触ったこともないもの。
オーナーは、よくぞこんな私に声をかけてくれたものだと思います(笑)
店は一人勤務体制で、私ともう一人のスタッフで、まわしていくことになりました。
本格的に開店する前に、自分ひとりですべての商品を把握しなくてはならないプレッシャーが日に日に増していきました。

次回「vol.2 店員」に続きます。
お読みいただき、ありがとうございました。

※見出し画像は古裂で、おそらく男性の羽織裏です。本好きなので、たまらない柄です。