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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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#短編

『バラックシップ流離譚』 影を拾う・5

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 ひと息に吐き出した。
 肺が空になるほどに。
 その後の沈黙が、妙に恐ろしかった。
 バレても構わない。そうなったら出ていけばいいだけ――
 シャービィ自身、ずっとそう思っていた。
 だが、いまは?
 胸は苦しく、にぎったこぶしは震えている。
 マキトは大きく目を見開き、ぽかんと口をあけていた。
 無理もない。
 ほとんどの住人にとって、正規クルーはなじみがなく、不気味

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『バラックシップ流離譚』 影を拾う・4

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〈幽霊船〉に住む竜族といえば、人のような竜――人竜族《ツイニーク》と、竜のような人――竜人族《フォニーク》がその代表だ。
 本来群れることが嫌いな彼らだが、船内では〈竜の子ら《ドラゴニュート》〉なる集団を形成し、最強勢力の一角を担っている。
 竜たちにとって鬼とはなんなのか。
 なぜそう呼ばれるようになったのか。
 そこまでは〈億万の書《イル・ビリオーネ》〉にも書いていな

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『バラックシップ流離譚』 影を拾う・3

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「お姉ちゃん、ここのエライ人と知り合いだったの?」

 ひそひそとマキトが訊ねた。

「偉いかどうかは微妙だけど、すごい人ではあるかもね、いちおう。あと、知り合いってのも微妙。向こうはたぶん、会ってもわかんなそうだし」
「なにそれ、大丈夫なの?」

 少年の不安顔は見ていて飽きないので、シャービィはだんまりを決め込んだ。
 それに、わざわざ説明するのも面倒くさい。

「こ

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『バラックシップ流離譚』 影を拾う・2

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「マキト。よくわからんもんに、うかつにさわったらダメだよ」
「お姉ちゃんにいわれたくないんだけど……」

 真顔で諭すと、マキトに呆れ顔で返された。

「これまで、私以外にこの生き物が見える人に会った?」
「お姉ちゃんが初めてだね」

 マキトがふるふると首を振る。

「でも、私は見えるだけでさわれない。マキトだけがコイツを捕まえることができる……と。ねえ、ほんとにさわってもなんともな

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『バラックシップ流離譚』 影を拾う・1

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「ヤバい。ダルい」

 シャービィ・グランソールは、埃っぽい部屋の底で呻いた。
 睡眠欲を満たせるだけ満たしたはずなのに、爽やかさは皆無だった。
 雑然とした室内に、窓から入る光が差している。
 脱ぎ散らかされた衣服、食べ物の包み紙、読みかけで放置された本。
 住居というよりは、巣と呼んだほうがふさわしい惨状である。
 いったいいつから、こんなふうになってしまったのだろう。
 昔はもうち

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『バラックシップ流離譚』 見習い魔女さんはトカゲ男に恋をする・4

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違和感
 緊急事態です。
 ザーフィ君が。ザーフィ君のようすが。
 なんだかおかしいのです。
 具体的になにかある、というのではないのですが、私にはわかります。
 これは女の勘……いいえ、それよりももっと特別な、恋人ゆえの直感というものでしょう。
 表面上、彼はいつもどおりにふるまっていますし、私への気遣い、優しいところなんかも変わっていません。
 でも、そこが逆にひっか

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・5

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 妙な気分だった。
 アステラと名乗った女の顔が脳裏から離れない。
 たしかに人目を惹く容姿ではあったが、美しいというだけでは説明がつかなかった。
 思わず見惚れるほどの完璧な所作。
 いまひとつ意図の読めない言動。
 探りを入れようと踏み込んでも、慇懃に、しかしきっぱりと示された拒絶。
 トブラックの社員が、ゼラーナの通う店に、鑑定を依頼しに訪れた――そこに、怪しいと言

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・4

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 その日、ゼラーナが馴染みの骨董品店に立ち寄ると、店主が困った顔をしていた。

「どうしたんですか?」
「ああ、よかったよゼラーナちゃん。アンタに会いたいって人が来てるよ」

 鼻の下にたくわえたヒゲをもぐもぐさせながら店主が目配せした先に、一人の女性が立っていた。
 痩身にして長身。仕立ての良いスーツを身に着け、いやに背筋がピンとしているのが印象的だ。
 無言で棚の商品

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・3

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 ゼラーナの食は細い。
“食べられるときに食べておく”生活が長かったせいか、空腹をあまり感じず、すこしの量でも長く活動できるよう身体が適応しているのだろう。
 そうしたわけで、最近のお気に入りの店は「下層寄りの中層」にある酒場〈堕薔薇〉だった。
 職人外の人気店〈酔鯨〉などは、たしかに安くて旨いのだが、すこし賑やかすぎるところがゼラーナの好みからは外れる。
〈堕薔薇〉の店

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・2

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 ゼラーナの表の顔は、仲買人兼鑑定士だ。
 誠実な仕事でコツコツ積み上げた仕事というのは馬鹿にならず、信頼や信用はいい隠れ蓑になる。
 希少性操作能力を使えば大きな儲けが期待できるが、無論のこと危険も覚悟しなければならない。
 変装し、偽名を使い、立ち居振る舞いも仕事のたびに変えている。
 能力で商品の価値をはねあげると、大抵の相手は目が眩み、それを持ってきたゼラーナのことはほとんど印

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・1

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 船上に築かれた『居住区』は、区画による差異はあるものの、概ね上層へいくほど豊かになっていく傾向がある。
 美術品や嗜好品の類も、アンダーグラウンドで流通するものを除けば、そのほとんどが上層で取引される。
 ヤビカ・カビニェの経営するカビニェ宝石店は、そうした店のひとつであり、悪趣味一歩手前で踏みとどまっている豪華な看板と、品質の確かさにおいては人々のよく知るところだった。
 その応接室

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『バラックシップ流離譚』 蓑皿・4

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 別室で待つように言われてから、かれこれ三十分ほどが経過した。
 僕らのためにと用意された食事は、木の椀に入った、なんだかよくわからない粥のようなものだった。
「なあ……なんか、肉みたいな固形物が混ざってるんだけど、まさかな……」
「大丈夫だと思うけど。ほら、彼女にも同じものが出されてるだろ。まさか共食いさせるなんてことは――」
 どうなんだろう……?
 偏見はよくないけ

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『バラックシップ流離譚』 蓑皿・3

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「わたくし、トブラック・カンパニー所属、タイラ・ミツキと申します」
 スーツ姿の女性は、そう名乗った。
 年齢は二十歳かそこら。黒髪を頭の後ろでまとめている。
 柔和な笑み。
 下層民である僕らに対しても見下すようなところはかけらもなく、慇懃な中にも親しみやすさが感じられた。
 もっとも、それも職業上必要な演技である可能性は高い。
「トブラックの社員がなんの用だ?」
 相

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『バラックシップ流離譚』 蓑皿・1

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 昨晩の仕事終わり。一緒に働いている友人から、明日の朝自宅に来てくれと言われた。
 珍しいこともあるものだ。僕も彼も、居住区の下層の住人だ。
 貧乏暮らしで、お互い家にあるのは最低限の家財道具くらいのもの。
 客に出す飲み物の類にも事欠く有り様なうえ、掃除も行き届いていないので、会うとなれば大抵外でというのが通例だった。
「オルムス、来たよ」
 入口に立って呼んでみたが、反応がない。
 

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