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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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#SF

『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・8

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(お前は俺のうしろにつけ)

 あたたかい声だった。
 その背中は、手のひらは大きくて、見つめてくるまなざしはいつも優しかった。

(まずは戦場の匂いを覚えろ。それから、俺のやり方をよく見るんだ)

 最初の派遣先。配属されたのは怪人《ノワール》のみで構成された小隊だった。
 成員のほとんどは旧式だったが、経験豊富な猛者揃いで、中でも隊長を務めていたその男は、卓越した判断力

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・7

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 一度死んだことで、ここから先――あと一歩、踏み込んだらやられるって勘が働くようになるんだって。

 戦場で味わった、その感覚。
 垣間見た、あの瞬間。
 死という暗闇。
 そこから伸びてくる手につかまれたら、二度とは戻ってこれないという予感。
 全身が竦んだ。
 踏み出そうとした足は動かなかった。
 その結果好機を逃し、逆に攻撃を受けた。
 身を守るはずの直感に、裏切られ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・6

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「いまのは……」

 シャーリーの唾を飲み込む音が聞こえた。
 口許に冷たい笑みを貼りつけたまま、ユリーは肩を震わせた。

「再生怪人は命の危険に敏感なヤツが多いっていうけど本当なんだね。一度死んだことで、ここから先、あと一歩踏み込んだらやられるって勘が働くようになるんだって」
「殺すつもりで撃ったってこと!?」

 油断なく身構えながら、シュガーはちらりとゾルダのようすを

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・5

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 こんなナリではあるけれど、怪人《ノワール》としての経歴はそこそこある。
 すくなくとも、あの脳筋《ゾルダ》とちがって、本物の戦場をいくつも渡り歩いてきた。

 ああ、そこでは――
 戦場という、効率と不確定要素の坩堝では――

 なにもかもが道具であり、同時に人とそれ以外に明確な一線が引かれている。
 とりわけ怪人《ノワール》など、動いて、喋りはしても、命あるものとして扱

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・4

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 研究所には現在、三つの研究室がある。
 ボガート・ラボ、セルキー・ラボ、そして“アトリエ”ことケット・シー・ラボである。
 ふざけているとしか思えない、トンデモ怪人ばかり作っているセルキー・ラボは別として、ボガード・ラボとケット・シー・ラボは長同士がはっきりとライバル関係にあり、その意識はなんとはなしに、それぞれのラボ出身の怪人《ノワール》たちにも共有されている。
 つま

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・3

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 ユリーを追うシュガーの心は、不安に苛まれていた。
 勢い余って来てしまったはいいが、シャーリーと離れて大丈夫だろうか。
 これでもいっぱしの怪人《ノワール》だろうにと、情けなく思う気持ちはある。
 しかし、不安や恐怖というものは目に見えないからこそ大きくなり、それは理屈でどうこうできるものではない。
 口を大きくあけ、わざと呼吸を荒くすることで鼓動の高鳴りを鎮める。
 点

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・2

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 シュガーは慎重に歩を進めた。
 耳と鼻に意識を集中し、空中で網を広げるイメージで周囲のようすを感覚する。
 大丈夫。身体にはなにひとつ異変はない。
 いつもどおりやれば、敵がどこから襲ってこようと察知できる。
 ケット・シー組のスタート地点までは、およそ二㎞。
 最短ルートは、街を東西に貫く大通りだ。
 怪人の全力疾走なら、最高速度到達までの時間やら何やらを加味して三十秒

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・1

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 ボガートがドアをあけると、大音量のダンスミュージックが部屋からあふれ出した。
 部屋の主の背中が見える。
 リズミカルに身体を上下させながら、両腕を太極拳でもしているように滑らかに動かしていた。
 とがった耳がピクンと動く。

「シュガー」

 声をかけるよりもはやく、かかとを軸に振り返る。ただし、視線はボガートに向けない。
 真剣な面持ちで、自分の手許を見つめている。

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・8.5

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 私は、嘘をついた。
 あなたを応援する……応援……応援ですって?
 いったい、どの口が。
 私の本心は結局のところ、彼女と戦う前となにひとつ変わっていないのに。
 彼女が変わってしまったこと。
 なにもかも忘れてしまったこと。
 なにもかも忘れてしまったくせに、なおもあの人を追いかけていること。

 結局。

 結局あなたは、私を振り向いてくれない。
 気にかける素振りだ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・8

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 シュン、と音をたててドアがひらく。
 真っ白い部屋に置かれたベッドには真っ白い毛布がかけられており、その上に真っ白い顔をした少女が横たわっている。
 シュガーは、そっと中に入った。
 猫科の怪人《ノワール》の特性とは大したもので、靴を履いていてもまったく足音をたてずに歩くことができる。
 はて。肉球の意味とは?
 浮かんだ疑問についてはあとでボガートに質すとして、いまはミ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・7

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「聞いたぜシュガー! あの高飛車女に勝ったんだってな!」

 廊下の向こうから駆けよってくるシャーリーを見て、シュガーはとっさに身構えた。
 全身にカミソリを仕込んだ相手にハグされてはたまらない。両者にらみ合い、一定の距離を保ったまま、しばしその場でぐるぐると回る。

「なんだよぉ。ちょっとぐらいいいじゃねーか」
「痛いのやだもん」
「ちっ、しゃーねーなぁ」

 シャーリー

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・6

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 チューリップのように三又にわかれた先端。反対の手で柄をにぎって取り出すと――いったいどうやって収まっていたのやら、全長二メートルはありそうな長柄武器《ポール・ウェポン》が現れた。

『二郎刀《アルタンタオ》――三尖刀とも三尖両刃刀とも呼ばれる。それこそが、キミの代名詞だ!』
「あたしじゃあなくて、元ネタのでしょ!」

 反転。飛来するビスの群れ。まっすぐに突っ込む。二郎刀

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・5

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「ふええ、ここって地面の下なんだよねえ?」
「さ、今日の戦闘訓練は実戦形式でいくよ」

 トレーニング・ルームのさらに下の階層には、様々な戦場を再現したフロアがある。
 ボガートに連れてこられたのは、そのひとつ、雪山エリアだった。
 一面の銀世界。目印になるような樹木や岩はほとんど見当たらず、距離感がおかしくなる。
 注意深く目を凝らせば、かなり起伏に富んでいることがわかっ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・4

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 その戦いの記録は、ボガート・ラボの怪人《ノワール》全員に共有されていた。
 さる九月九日。オルキスタンはザガンの森。
 隣国トラーダの軍に加わっていたシュガーとヘルラは、オルキスタン所属の英雄《ブラン》、グラウンド・ゼロと交戦し、撃破された。
 以降、ヘルラに関する情報は更新されていない。
 それ以前の記録も、彼女の製造段階まで遡って調べることは容易だった。
怪人《ノワー

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