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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2021年11月の記事一覧

勝手にルーンナイツストーリー 『盤上の夢』前編

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「ねえねえエルザお姉ちゃん」

 執務室の机にあごを載せた体勢で、シュガーが話しかけてきた。
 眉間にしわをよせて書類と睨み合っていたエルザは、顔をあげると同時にため息をついた。

「シュガー。仕事中は騒がしくしないでっていってるでしょ」
「根の詰めすぎはよくないよー。お姉ちゃんが倒れたら、共和国軍はお終いなんだから。ほら

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『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・24

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〈図書館〉の中庭には、来館客にほとんど知られていない一画がある。
 真ん中に白いテーブルがひとつ置かれ、周囲の芝生も木々も手入れが行き届いている。
 外からの喧噪は届かず、小鳥のさえずりや虫の声が聞こえてくるだけの穏やかな空間。
 利用できる者はごく限られており、それ以外の人間が訪れることはほとんどない。
 そんな場所に、ふたつの人影があった。
 ひとりは特別客員司書ニー

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『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・23

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 ぐわん、ぐわん、と割れ鐘のような音が脳髄を揺らした。
 意識の糸が、いまにもぷつんと切れそうになる。
 それでも、まだ。
 生きている。かろうじてガードが間に合った。
 籠手がひしゃげ、右腕に信じられないほどの熱さを感じた。
 おそらく折れている。指をちょっと動かすだけで激痛が走った。
 だが、おかげで気を失わずに済んだ。

「レムトの剣技は我流だが、基本の型は正統の流

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