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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2021年1月の記事一覧

『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・8

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(お前は俺のうしろにつけ)

 あたたかい声だった。
 その背中は、手のひらは大きくて、見つめてくるまなざしはいつも優しかった。

(まずは戦場の匂いを覚えろ。それから、俺のやり方をよく見るんだ)

 最初の派遣先。配属されたのは怪人《ノワール》のみで構成された小隊だった。
 成員のほとんどは旧式だったが、経験豊富な猛者揃いで、中でも隊長を務めていたその男は、卓越した判断力

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・7

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 一度死んだことで、ここから先――あと一歩、踏み込んだらやられるって勘が働くようになるんだって。

 戦場で味わった、その感覚。
 垣間見た、あの瞬間。
 死という暗闇。
 そこから伸びてくる手につかまれたら、二度とは戻ってこれないという予感。
 全身が竦んだ。
 踏み出そうとした足は動かなかった。
 その結果好機を逃し、逆に攻撃を受けた。
 身を守るはずの直感に、裏切られ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・6

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「いまのは……」

 シャーリーの唾を飲み込む音が聞こえた。
 口許に冷たい笑みを貼りつけたまま、ユリーは肩を震わせた。

「再生怪人は命の危険に敏感なヤツが多いっていうけど本当なんだね。一度死んだことで、ここから先、あと一歩踏み込んだらやられるって勘が働くようになるんだって」
「殺すつもりで撃ったってこと!?」

 油断なく身構えながら、シュガーはちらりとゾルダのようすを

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