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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2020年8月の記事一覧

『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・2

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 シュガーは慎重に歩を進めた。
 耳と鼻に意識を集中し、空中で網を広げるイメージで周囲のようすを感覚する。
 大丈夫。身体にはなにひとつ異変はない。
 いつもどおりやれば、敵がどこから襲ってこようと察知できる。
 ケット・シー組のスタート地点までは、およそ二㎞。
 最短ルートは、街を東西に貫く大通りだ。
 怪人の全力疾走なら、最高速度到達までの時間やら何やらを加味して三十秒

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第二章・1

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 ボガートがドアをあけると、大音量のダンスミュージックが部屋からあふれ出した。
 部屋の主の背中が見える。
 リズミカルに身体を上下させながら、両腕を太極拳でもしているように滑らかに動かしていた。
 とがった耳がピクンと動く。

「シュガー」

 声をかけるよりもはやく、かかとを軸に振り返る。ただし、視線はボガートに向けない。
 真剣な面持ちで、自分の手許を見つめている。

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