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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2020年6月の記事一覧

『バラックシップ流離譚』 見習い魔女さんはトカゲ男に恋をする・5

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密会
「待たせたカ?」

 待ち合わせにこのカフェを指定した二人は、すでに席に着いていた。
 注文も済ませており、テーブルには飲み物と菓子が並んでいる。

「大丈夫。先に来てダベってただけだから」
「はじめまして、ですね。私はリーサ。こっちの猿みたいなのがラキ」
「てめっ、なんだよその紹介は!」

 彼女たちの名は、フィリアから聞いて知っていた。
 ただ、顔がわからないの

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『バラックシップ流離譚』 見習い魔女さんはトカゲ男に恋をする・4

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違和感
 緊急事態です。
 ザーフィ君が。ザーフィ君のようすが。
 なんだかおかしいのです。
 具体的になにかある、というのではないのですが、私にはわかります。
 これは女の勘……いいえ、それよりももっと特別な、恋人ゆえの直感というものでしょう。
 表面上、彼はいつもどおりにふるまっていますし、私への気遣い、優しいところなんかも変わっていません。
 でも、そこが逆にひっか

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・8.5

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 私は、嘘をついた。
 あなたを応援する……応援……応援ですって?
 いったい、どの口が。
 私の本心は結局のところ、彼女と戦う前となにひとつ変わっていないのに。
 彼女が変わってしまったこと。
 なにもかも忘れてしまったこと。
 なにもかも忘れてしまったくせに、なおもあの人を追いかけていること。

 結局。

 結局あなたは、私を振り向いてくれない。
 気にかける素振りだ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・8

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 シュン、と音をたててドアがひらく。
 真っ白い部屋に置かれたベッドには真っ白い毛布がかけられており、その上に真っ白い顔をした少女が横たわっている。
 シュガーは、そっと中に入った。
 猫科の怪人《ノワール》の特性とは大したもので、靴を履いていてもまったく足音をたてずに歩くことができる。
 はて。肉球の意味とは?
 浮かんだ疑問についてはあとでボガートに質すとして、いまはミ

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『アンチヒーローズ・ウォー』 第一章・7

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「聞いたぜシュガー! あの高飛車女に勝ったんだってな!」

 廊下の向こうから駆けよってくるシャーリーを見て、シュガーはとっさに身構えた。
 全身にカミソリを仕込んだ相手にハグされてはたまらない。両者にらみ合い、一定の距離を保ったまま、しばしその場でぐるぐると回る。

「なんだよぉ。ちょっとぐらいいいじゃねーか」
「痛いのやだもん」
「ちっ、しゃーねーなぁ」

 シャーリー

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