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葦原青
2020年4月25日 14:24
最初の話へ前の話へ ふらふらとした足取りで、シュガーは廊下を抜けていった。 筋肉の内側に、こびりついたような疲労感が残っている。あちこちのつっぱるような感じもなくならないし、それもこれも空腹のせいにちがいない。 とにかくいまは、温かいスープをすすり、汁のしたたる肉にかぶりつきたい。 肉。肉肉。思うさまおなかに詰め込んで、そのあとは太るとか気にせず、ぐでーっ、とだらけたい。 そんなこと
2020年4月15日 17:40
最初の話へ前の話へ ずいぶんと眠っていたような気がする。 その空間は、ゲル状の透明な物質で満たされていた。 人肌よりすこしあたたかく、ほのかに甘い味がする。 不思議と呼吸に支障はなく、全身を包み込まれている感覚は、揺りかごの中にいるような安心をもたらしてくれる。(どこ……? ここ……) 遠くに見える緑色の光が、すこしぼやけて見えた。 あれはおそらく天井だろう。ならば、ここは建
2020年4月9日 17:50
前の話へ 白と、赤と、あとは見渡す限りのクリーム色。半ば崩れたレンガの塀に、羽虫が一匹張りついていた。 指でつまんでみると、乾いた音をたてて砕けた。どうやら、塀にとまったまま干からびてしまったらしい。 指の腹をこすりあわせ、ふっと息を吹きかけてから、女は再び歩き出した。 熱い。 中天から降り注ぐ日差しが、容赦なく地上を灼いている。そこに舗装された道と建物の壁からの照り返しまで加わり、殺
2020年4月2日 14:06
それほど遠くない昔。 とある砂漠の国の王宮に、一人の侍女がおりました。 明るく働き者で気配り上手。誰からも好かれ、そればかりでなく国王夫妻でさえも、彼女に対しては単なる侍女以上の敬意を払っているように見えました。 やがて待望の王子が誕生し、彼が物心つくと、彼女は王子付きの侍女となりました。 相変わらず完璧な仕事ぶりで周囲の信頼厚く、王子にとっては本当の家族以上に親しい相手となっていきまし